結核病の権威シュロスバーグによるスタンダードテキスト決定版。結核の疫学、病態生理、診断・治療、耐性、ワクチン等の基本事項を解説し、臓器別に結核感染の臨床像を提示、加えて肺外結核や非結核性抗酸菌まで網羅。妊娠、乳児と小児、HIV感染、臓器移植、免疫再構築炎症症候群との関わりにも言及。呼吸器内科や感染症科をはじめ、専門家のみならず非専門家に対しても有用。包括的な知識を提供する。
Ⅰ 概論
Chapter 1 結核の歴史:結核は私たちの生き方を変えたのか?
Chapter 2 疫学と宿主の要因
Chapter 3 病態生理学と免疫学
Chapter 4 検査による診断と感受性検査
Chapter 5 潜在性結核感染の診断
Chapter 6 潜在性結核感染の治療
Chapter 7 抗結核薬治療
Chapter 8 多剤耐性結核の治療
Chapter 9 結核の診断および治療における外科手術の役割
Chapter 10 Mycobacterium bovis BCGと新しい結核ワクチン
Chapter 11 結核 ― 世界保健機関(WHO)の展望
Chapter 12 閉ざされた集団内の結核
II 臨床症候群
Chapter 13 保健局の役目 ― 法的および公衆衛生的考察
Chapter 14 肺結核
Chapter 15 上気道結核
Chapter 16 結核性耳乳様突起炎
Chapter 17 眼結核
Chapter 18 中枢神経結核
Chapter 19 結核性リンパ節炎と耳下腺炎
Chapter 20 泌尿生殖器結核
Chapter 21 筋骨格系結核
Chapter 22 心血管系結核
Chapter 23 胃腸結核
Chapter 24 結核性腹膜炎
Chapter 25 肝臓,胆道,膵臓の結核
Chapter 26 皮膚結核
Chapter 27 粟粒結核
Chapter 28 結核と内分泌・代謝との関連
Chapter 29 結核の血液学的合併症
Chapter 30 乳児と小児における結核
Chapter 31 妊娠と結核:母胎,胎児,新生児に関連する結核
Chapter 32 HIV関連結核
Chapter 33 結核と臓器移植
Chapter 34 奇異性反応と免疫再構築炎症症候群
III 非結核性抗酸菌
Chapter 35 非結核性抗酸菌症 ― イントロダクション
Chapter 36 MAC症
Chapter 37 迅速発育抗酸菌
Chapter 38 Mycobacterium kansasii
Chapter 39 Mycobacterium marinum
Chapter 40 Mycobacterium scrofulaceum
Chapter 41 Mycobacterium bovisと他のまれな結核菌群に属する菌
Chapter 42 他の非結核性抗酸菌
監訳者序文
このたび,Dr. David Schlossberg の”Tuberculosis and Non tuberculous Mycobacterial Infections”の監訳をさせていただき,非常に名誉に思う。Dr. Schlossberg は親日家であり,10年ほど前から日本の病院に教育のためにほぼ毎年訪れている。私自身はDr. Schlossberg と初めて会ったのは4 年前で,それを機会にこの本を知ることになった。日本は依然結核の蔓延国でもあり,多くの臨床家の頭を悩ませているにもかかわらず,これほど網羅的な教科書を私自身はそれまでみたことがなかった。原本は,肺外結核や非結核性抗酸菌症(NTM)など非常に広い範囲のエビデンスを簡潔に明快にまとめており,初学者にとっても,結核診療にすでに携わっている者にとっても非常に参考となるものであろう。疫学(特に,HIV 関連結核の頻度)や医療・社会システム,推奨薬剤など,いくらか日本と米国での違いがあることにも読者は気づくだろう。一方で,薬剤耐性化,結核患者における外国人の割合の増加など共通の問題も多い。薬剤の使用については,いくらか日本のガイドラインとも異なるところがあるが,日本の結核診療に慣れた者にとっても,違う考え方に触れて見識を広め,レジメンのオプションを増やすことにつながるのではないだろうか。この本の邦訳が,日本の結核・NTM 診療に従事する者,ひいては患者の一助になることを願う。
診療で忙しいなか,各章の訳者となることを快く引き受けてくれた友人・同僚に心から感謝する。また,この本の訳の出版に協力いただいたメディカル・サイエンス・インターナショナル,そしてその編集スタッフにはその助言と支援に感謝したい。
北薗英隆
原著序文
“Tuberculosis and Nontuberculous Mycobacterial Infections”の第6 版が出来上がったことをうれしく思う。
結核はいまだ世界のほとんどの地域において流行病であり,毎年,何百万という人々を死に至らしめている。結核による死亡はほとんど途上国で生じているが,先進国も,薬剤耐性菌,移民,免疫抑制といった新たな問題に取り込みながら結核と闘い続けており,非結核性抗酸菌感染に対する認識も高まっている。
旧版の目次構成の大枠はそのままである。Section I では,疫学や病態生理学,診断,内科的治療・外科的治療,薬剤耐性結核,ワクチン,閉鎖環境における結核,保健局の役割の基本概念を扱っている。Section II では,結核感染の臨床症状を記述した。古典的なものも最近のものも記述し,内分泌学的,血液学的な結核の合併症を含め,ほとんどすべての臓器の結核を扱っている。妊娠,乳児と小児,HIV 感染,免疫再構築炎症症候群は独立した章にし,それぞれ説明している。Section III では,非結核性抗酸菌感染について記述し,これら病原体によってもたらされる臨床症候群を概説した。それぞれの章では,MAC(Mycobacterium avium-intracellulare)症やM.fortuitum,その他の迅速発育抗酸菌,M. kansasii,M. marinum,M. scrofulaceum,その他のまれな病原性マイコバクテリアなどを個別に取り扱っている。
新たに3 つの章が追加されている。Chapter 1 の「結核の歴史:結核は私たちの生き方を変えたのか?」では,結核が私たちの文明や文化に及ぼした歴史的な影響を考察している。Chapter 33 の「結核と臓器移植」では,拡大する移植領域での結核感染の問題を説明している。Chapter 41 の「Mycobacterium bovis と他のまれな結核菌群に属する菌」では,これら抗酸菌の臨床上の重要性についての新しい情報を掲載している。
これらの新しい章に加え,すべての章の内容を全面的にアップデートした。新しい臨床データを加えたことで,インターフェロンγ遊離試験やHIV と結核の相互作用,免疫再構築炎症症候群,多剤耐性結核についての私たちの理解も新たになった。肺結核や肺外結核のさまざまな問題が臨床家を悩まし続け,新興の非結核性抗酸菌も次から次にみつかっている。飛行機関連の感染や途上国での大流行,結核対策におけるWHO や公衆衛生局の重要な役割といった疫学的な問題も扱っている。
この教科書が,結核の診断や治療に携わるすべての人― 臨床家や科学者,疫学者― にとって使いやすく,すべてを網羅したものに仕上がっていることを願う。
ASM Press の編集スタッフの助言と支援に感謝したい。特に,Jeff Holtmeier やKen April,
Greg Payne,John Bell にはとてもお世話になった。
David Schlossberg, MD, FACP