Part 1 診療の基本
A 心不全の基礎知識
A-1 心不全診療にあたってのプリンシプル
A-2 心不全症状とその仕組み─主訴のメカニズム
A-3 CV continuumの終着駅としての心不全
B 心不全の診察・検査と診断
B-1 問診のテクニック
B-2 身体診察のテクニック
B-3 臨床検査のテクニック:検査の目的は診断とモニタリング
B-4 心エコーによる左心系の評価法とその解釈
B-5 心エコーによる右心系の評価法とその解釈
B-6 鑑別診断:急性/慢性呼吸不全を呈する呼吸器疾患の鑑別が重要
C 心不全の治療
C-1 救急で出会う心不全の集中治療
C-2 一般病棟で管理する心不全の治療
C-3 外来でフォローする心不全の治療
Part 2 急性期診療のテクニック
A 急性期患者の診察・検査と診断
A-1 急性心不全診療のプリンシプル
A-2 急性心不全を診たとき
A-3 心不全急性期を診察する
A-4 診察・検査から病態に迫る
B 急性期患者の治療
B-1 急性期の呼吸管理
B-2 急性期の循環管理
B-3 背景となる基礎心疾患と経路/トリガーごとに考える心不全治療
B-4 特別な注意を要する急性心不全診療
B-5 急性心不全の薬物治療と非薬物治療
Part 3 慢性期診療と長期管理のテクニック
A 慢性期患者の診察・検査と診断
A-1 慢性期心不全診療のプリンシプル
A-2 慢性心不全とは
A-3 慢性心不全の診察・検査
B 慢性期患者の治療
B-1 慢性期心不全治療の考え方─こんなのも慢性期,あんなのも慢性期
B-2 慢性期患者の治療─総論
B-3 基礎心疾患ごとの治療─各論
B-4 薬物治療(経口)と非薬物治療
C 長期管理
C-1 心不全長期管理の実際
C-2 長期管理における診察と検査
C-3 長期管理の心不全治療
C-4 長期管理のための心不全チーム医療
C-5 長期管理のための地域連携
Part 4 処方のテクニック
A 薬物の種類と特徴
A-1 血管拡張薬
A-2 利尿薬
A-3 レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬
A-4 β遮断薬
A-5 強心薬
A-6 ジギタリス
B 急性期の処方薬
B-1 血管拡張薬
B-2 利尿薬
B-3 強心薬
C 慢性期の処方薬
C-1 利尿薬
C-2 レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬
C-3 β遮断薬
C-4 経口強心薬
C-5 ジギタリス
C-6 併存疾患をもつ慢性心不全の内服治療
本書は循環器領域において「頭の中の知識をどう整理し,実際にどのように診療するか」,思考と実地の両面についてのテクニカルな要素をまとめたシリーズの1冊として書き下ろしました。この「心不全」は筆者が桜橋渡辺病院CCU科長,日本大学板橋病院CCU室長の頃に作成した院内冊子「CCUマニュアル」が元となっています。CCU内でメンバーが共通の認識をもって診療にあたることができるように,データブックや手技のマニュアルではなく,基本的な考え方を重視して作成したもので,これに慢性期診療を加えて,広く心不全を理解できる内容にしたのが本書です。
基本的な考え方を重視する姿勢はそのままにしています。日々新しい患者さんの,刻々と変わる病態に対応するのが臨床の現場。応用問題を解くには基礎の裏打ちが欠かせないからです。最初は「何となくわかった」という程度でかまいません。実際の臨床経験と照らし合わせてみて,読み進むうちに内容が腑に落ちるようになれば本書の目的は達成です。
特にPart 1では心不全の基本的理解を目指しました。その他のPartでも「頭で理解する」ための内容が多くなっています。各Partの最初にある「プリンシプル」は,本文を読み終えた後でもう一度振り返ってみてください。役に立ちそうな知識や,ちょっと難解だけれども後になって味がわかる知識をTechnical Memoにまとめました。なかには豆知識程度のものも多数含まれますが,適度に息抜きをしてください。
本書は「心不全の専門家が書いた心不全の専門書」とは雰囲気が違うと感じるかもしれません。新しい知見を発見して発表するのが専門家の役割。筆者は心不全を中心として循環器診療全般に携わっていますが,一方で現役のアンジオプラスターでもあります。専門家の視点ではなく,あらゆる心臓病を扱うにあたって必要となる知識を整理してみました。
心不全の専門書として読むと,物足りなく感じるかもしれません。そこは割り切って,本書の目的は,今そこにある間違いのなさそうな知識をまとめて,具体的にはどう診療すればよいのかを,スジを通して伝えること。同じ内容の文章が表現を変えて何度も出てきます。本書を通読していただいた読者には目に障るかもしれませんが,この本の性格と思ってください。スジを通すためには,かえって内容が重複してしまうこともあります。カンファレンスで話しかけるような気持ちで書きました。講義でも大切な内容は繰り返し出てくるもの。何度も見聞きしている間に知識として定着します。
● なぜ心不全を研修するのか?……
循環器研修を始めたばかりの医師にとって,心不全は理解しにくいようです。心不全が単一の疾患ではなく,様々な基礎心疾患から構成される症候群であるからです。基礎心疾患には高血圧もあり,虚血性心疾患もあり,不整脈も含まれます。筆者が大阪警察病院で循環器研修を始めた頃とは,疾病構造が一変しました。狭心症や不整脈を単一の疾患として治療していた時代は終わり,その先にある心不全を考えなければならない時代となっています。
冠動脈インターベンション治療は昔も今も循環器診療の華です。しかし現代では,冠動脈疾患の患者を心不全にさせないため,あるいは心不全になってしまった冠動脈疾患をどのように治療するのか,について治療戦略を練る必要が高まってきました。頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーションはカテーテル室のもう1つの華ですが,日常診療のなかで激増する心房細動は心不全患者の増加と無関係ではありません。今後は,「心不全を語れるアンジオプラスター」「心不全を語れるアブレーター」がますます必要とされるでしょう。循環器に興味がある初期研修医ばかりではなく,アンジオプラスターやアブレーターを目指す循環器後期研修医にとって,「なぜ心不全を研修するのか?」に対する答えとモチベーションになれば筆者として望外の喜びです。
● 最後に感謝を……
医学部を卒業し循環器研修を開始して以降,多くの師から教えを受けました。大阪警察病院では児玉和久部長(現・大阪警察病院名誉院長)と平山篤志副部長(現・日本大学教授)から,医師としての基本的姿勢に始まり,循環器診療に携わるための手ほどきを受けました。桜橋渡辺病院では伊藤浩内科部長(現・岡山大学教授)のCCU回診から得た知識と病態の整理術をノートに書き溜め,それがCCUマニュアルの元となりました。安村良男先生(現・大阪警察病院心臓センター長)からは本書執筆にあたり,幾多のご助言をいただきました。これから循環器研修を始める若い先生に還元します。
本書は桜橋渡辺病院および日本大学板橋病院でのCCUミーティングの内容を元ネタとし,それに大幅な加筆を施して構成されています。毎朝7時半にCCUに集合してディスカッションした当時のCCUメンバーの皆様に感謝申し上げます。
院内冊子にすぎなかったものを発展させてこのような本として出版できたのはメディカル・サイエンス・インターナショナル書籍編集部の染谷繁實エディターのおかげです。帝京大学の村川裕二教授からご紹介いただきました。感謝申し上げます。1冊の本が世に出るのは大変うれしいことです。