1章 アタマと心とからだ
①アタマ
②心
③からだ
2章 私たちが目指す完璧人間との間に
3章 備えあれば憂いなし
4章 明るく輝く未来に
はじめに
研修医向けの書籍は今,たくさん出ています。いろいろ具体的な抗菌薬の使い方,病歴聴取の方法といった理論上証明されているような内容はどの本にも記載されていると思います。本書では少し趣向を変え,筆者自身が研修医の頃には教えてもらっていなかった(振り返ってみると教えてほしかった)ということに触れていきたいと考えています。これから始まる研修医生活を前にして読み物として読んでもらえれば嬉しいですね。
第1章では「アタマと心とからだ」ということで,研修医が必ず遭遇するであろう,医学的な問題・心の移り変わり・体力や技術などの基本的な項目について触れていきたいと考えています。このあたりは実際には他の書籍と重複する箇所もあると思いますので,本書では基本的な内容からかなり踏み込んだ独自のコンセプトまで語らせていただきます。
第2章では「私たちが目指す完璧人間との間に」というタイトルのもと,第1章で触れたような能力を基にどのように日々を生活していくのか,という実際の研修医生活について触れていきましょう。
第3章では「備えあれば憂いなし」ということで,毎日ではないのですが,臨床医が必ず遭遇するであろう事件とも言える出来事について触れさせていただきます。
第4章では「明るく輝く未来に」ということで,自分も生きているかわかりませんが,これから10年後という将来について少しだけ触れたいと思います。
本書の内容をまとめると,必須能力→必須経験→必須だが稀な経験→将来像といった感じでしょうか。
なぜこのような書籍を書いているのかということですが,臨床医になるためには,皆さんが受けられた医師国家試験のみではなく「裏国家試験」を通らねばならない,ということです。
「裏国家試験」ってなんやねん,ということですが,どんな臨床医でも医療界における暗黙のルールを学習するという印象は誰もが持っているかと思います。
Haffertyら1が“Hidden curriculum”と言ったものと似ている部分もありますが,卒後研修において,かなり幅の広い隠れたカリキュラムがあるのも事実です。
『ハンターハンター』(冨樫義博原作)というマンガをご存じでしょうか? このマンガでは主人公ゴンもハンターになるのですが,ハンター試験を通過してから,「念」というものを身に着ける裏ハンター試験があります。詳細は割愛しますが,非常に医師の裏試験と言われる様相に似ているのです。
①世界中いたるところに先生がいて
②通常,その「暗黙のルール」については誰も触れない
③資格者以外には見えてこない
という点が極めて似ています。
医師国家資格がないのに医師として10年以上働いていた人の話を聞いたことがありますでしょうか? 極めてまれな例ではありますが,この医師国家試験を通らずにこの裏試験のみを通過してきたということです。それぐらいこの裏試験を通過することは医師にとって重要だということです。
『ハンターハンター』の中では「合格おめでとう」と言ってくれる人がいて,試験に合格したことがわかりますが,レジデントは,日々の忙しい業務のなかで知らない間に通過していくものです。
本書ではそのような裏試験といってよいような,特に「暗黙のルール」形成およびそのルールの中での行動について学んでいけたらと思います。残念ながら,どんなに優秀な頭のよい天才であったとしても,研修医生活をストレスなく過ごし,患者をかっこよく診断し,患者に感謝されるような治療をすぐさま行うことはできません。理想と現実のギャップがあり,この泥臭い感じは一部の頭脳明晰な人たちにとって,かっこ悪いと感じるかもしれません。しかし,この人間くささこそが,実際には臨床医の醍醐味なのですが,少しでもスマートに過ごしたい人たち(笑)にとって,本書が役に立ってくれればと思います。
まぁ,前置きが長くなってしまいましたが,軽い気持ちで読んでみて下さい。これからの明るい研修医生活のために。
それでは始めましょうか。
1. Hafferty FW, Franks R. The hidden curriculum, ethics teaching, and the structure of medical education. Acad Med 1994; 69: 861-71.