PartI:SimWarsとは何か
PartII:SimWarsシナリオ集
1 気道管理にかかわるケース
2 意識障害にかかわるケース
3 心肺機能にかかわるケース
4 感染症にかかわるケース
5 神経系重症疾患にかかわるケース
6 産婦人科にかかわるケース
7 小児科にかかわるケース
8 中毒にかかわるケース
9 外傷にかかわるケース
PartIII:付録
監訳者の序
今日の医学教育においてはシミュレーションが不可欠であり,教育効果に大きな影響を及ぼすことは明白となっている。わが国においても,Educational Commission for Foreign Medical Graduates(ECFMG)からの通達,いわゆる2023年問題〔World Federation for Medical Education(WFME)が認定した教育の質を担保した医学部の卒業生でなければ,ECFMGは2023年以降にUnited States Medical Licensing Examination(USMLE)の受験資格を与えないとしている〕によって,医学生に対するシミュレーション教育を加速させる流れが生まれている。
もちろん,二次救命処置Advanced Cardiovascular Life Support(ACLS)導入以降のシミュレーション教育の浸透は目を見張るものがあり,今や隔世の感を禁じえない。しかしながら,残念なことにわが国ではシミュレーション教育が「お作法」を伝授するレベルにとどまっていることが多いほか,実際の臨床にフィードバックされにくいなどの問題が見受けられている。これらは,シミュレーション教育には不得手ではあるが,高い臨床技能を有する医療従事者が参画する機会を奪ってしまっていることが一因といえる。また,学習者が実臨床における緊張感と責任感をもたないままにシミュレーション教育に臨むことも問題であろう。
こうした問題は米国においても同様であり,解決のために考案されたのがSimWarsである。ゲーム性をもたせて楽しみながら学ぶことを可能にしつつ,観客の面前でパフォーマンスを行うという緊張感をもたせ,臨床医からの的確なフィードバックを得ることで学習者は1つのシナリオから短時間で多くのことを学べるようにデザインされている。そして,教育の担当者にとっても,つくりこまれたシナリオを利用することで準備の手間を大きく省くことが可能になり,かわりに教育効果をみきわめるための時間として割くことを実現している。米国では,医学生や研修医から若手の医師に至るまで,日常的な教育の場や大きな学会でSimWarsに参加して研鑽を積むことで医療の質を向上させているのである。
このたび,第一線の臨床現場で活躍しつつ医学教育にも熱心な5人の翻訳者を迎えてSimWarsのシナリオ集を完全翻訳することができた。わが国における医学シミュレーション教育をさらに発展させるためにも,1人でも多くの医療従事者に本書を手にとっていただきたいと願っている。
2017年6月
愛知医科大学
災害医療研究センター
児玉 貴光