Part 1 回診のプレゼンに臨む
Part 2 一般診療と循環器救急
Part 3 虚血性心疾患
Part 4 不整脈
Part 5 心不全
Part 6 そのほかの対応を急ぐ疾患
序 文
“Listen to the patient, he is telling you the diagnosis.”というWilliam Osler の言葉がある。筆者自身も臨床医は経験した症例に育まれて成長していくものであると信じている。臨床例はそれぞれが個別の特徴をもっており,二人と同 じ症例は存在しない。また,現代の医学知識でも解決のつかないことは多い。 臨床症例の経験を積み重ねることは,医師個人の成長の糧であると同時に,医学の進歩の源泉でもある。
最近の循環器診療は,診断面では画像診断の進歩に支えられ,治療面ではカテーテルによる血管内治療と治療デバイスの進歩によって劇的な変貌を遂げてきた。今後もこの進歩は続くと思われる。これから臨床経験を重ねていく若い医師にとっては,病歴・画像などの基本的な情報から,診断のプロセスや治療の戦略を考える能力を修得することが重要であると思われる。その意味で,知識の蓄積だけでなく,症候を中心として勉強することがなにより大切である。
東京医科歯科大学循環器内科は2001年に発足した内科であるが,心筋疾患,虚血性心疾患,不整脈,心不全の各領域のバランスがとれた総合的な循環器内科である。優れた技量をもつ心臓外科,活動性の高い救急診療科との協力関係も良好である。その特徴を生かし,多くの症例の診療を通じて診療経験を蓄積してきた。本書は我々が経験した症例を通じて蓄積した臨床のエッセンスである。診療法の進歩に伴い,エビデンスもコンセプト変わっていくが,疾患そのものには変わりはない。本書は症候・病歴とX線写真・心電図・心エコーなどの基本的な画像から診断や治療戦略を考えるなかで,疾患の一般的な知識を身につけてもらうという切り口で企画した書籍である。執筆者には各領域の専門家が揃っており,それぞれの著者が症例をどう考え,どう治療するかといった点にまで触れてあり,初学者にはおおいに参考になることであろう。
本書の企画は,研修医や若い循環器医師を念頭に行ってきたものであったが,最新の循環器診療に必要な知識やエビデンスが包含されており,循環器診療に関心をもつより広い層の読者に役立つのではないかと思われる。一般的な疾患や合併症から,有名ではあるが比較的稀な疾患に至るまで,ほとんどの循環器疾患を包含できたように思われる。日常見ることのできない貴重な症例も数多く含まれている。そういった意味では,循環器専門医を目指す医師の知識の整理にも十分耐えられる内容となっている。循環器診療に携わり,また興味をもつ諸賢の勉強の一助となれば,編者としてこれにすぐる喜びはない。
2017年8月 磯部 光章
本書を読まれる方々へ
循環器疾患を診断,治療するうえでもエビデンスに基づく医療evidence based medicine( EBM) は重要ですが,エビデンスのみで解決できない病態を もつ患者も多く存在するのが現状です。我々循環器内科の医師は,多くの経 験・知識を活かし,EBMも考慮に入れながら診断・治療を行っています。
循環器疾患は心不全,不整脈,虚血性心疾患,末梢血管疾患,その他の稀な 疾患と多岐にわたりますが,本書では実際に多く遭遇する循環器疾患につい て,どのようなアプローチで診断・治療するかについてまとめたものです。東 京医科歯科大学循環器内科で行われている回診のやり方も示しながら,循環器 common diseaseの対処法や循環器内科医師に対する依頼のタイミングも知っ ていただければと考えています。循環器専門医ではないがプライマリ医療で循 環器関連の疾患をもつ患者の診療にもあたられる読者には,本書に示された循 環器内科医の診療を知っていただければ幸いです。
初期研修医,後期研修医,総合的な内科診療に携わる先生方,循環器に関連 する心臓外科医や麻酔科医,コメディカルの方々にも読んでいただくため,多 くの写真を掲載することで読みやすくしました。多くの医療者のお役に立つことがあれば,編者・執筆者一同の喜びにもつながると信じております。
足利 貴志