日本小児集中治療研究会により編まれた、小児の救命救急・ICU領域における標準的な治療、最新の知見に基づく治療の選択肢を提示するシリーズ第1弾。基本事項からアドバンスな治療までを網羅し、マニュアル的な「こうすべし」だけでなく、なぜそうすべきなのかが理解できる。症状や病態が成人と異なり、日常診療において苦慮することが多い「小児のショック」を1冊にまとめた唯一無二の書。
基礎編
[1]小児のショック
[2]小児の敗血症と敗血症性ショック:その定義と病態生理
[3]心原性ショック
1 急性心不全の病態と管理
2 肺高血圧症の病態と管理
症例検討
[1]アナフィラキシーショック
[2]細菌性髄膜炎のショック
[3]心筋炎のショック
トピックス
[1]ショック鑑別のためのPOCU(point-of-careultrasound)
[2]ショック治療におけるECMOの役割
[3]小児の敗血症性ショックでガイドラインは今も有効か
1 急速輸液について:proの立場から
2 急速輸液について:conの立場から
3 ショックにおけるカテコールアミンの適正使用
4 ステロイド補充について:proの立場から
5 ステロイド補充について:conの立場から
6 血液浄化について
[4]敗血症性ショック研究最前線
序 文
日本小児集中治療研究会は,ワークショップやPALS(小児二次救命処置法)の講習会などを通じて,小児救命救急・集中治療の分野の発展に20年以上にわたり貢献してきた。しかし,この分野の知見を示すまとまったテキストがなく,長い間待望されていた。今回の「小児救命救急・ICUピックアップ」シリーズは,このような期待に応える形でメディカル・サイエンス・インターナショナルより出版される運びとなった。
本書は,その「小児救命救急・ICUピックアップ」シリーズの1冊目として誕生した。第1巻ということで小児救急・集中治療のなかで遭遇しやすいが, 病態がわかりにくく対処しにくい「ショック」をテーマとして選んだ次第である。
小児の救命救急・集中治療の現場で患者を評価するとき,まず呼吸障害と循環障害の重症度分類と原因分類を行い,それに合わせて治療を選択していくことになる。循環障害の治療は手間のかかることが多く,生死に直結する可能性が高い。したがって,小児の循環障害においては,的確な評価と迅速な治療が不可欠となる。
例えば,小児は成人と比較して予備力がないために,下痢や嘔吐だけでも重篤なショック(循環血液量減少性ショック)に陥ることはよく知られた事実である。また,小児にはショックから急速に心停止に至るような脆弱性があり,早期の診断に基づいた適切な治療が不可欠である。
また,成人とはショックの病態も異なる。例えば,敗血症性ショックの場合に成人ではwarm shockが多いが,小児では心機能の予備力がないためにすぐにcold shockになってしまい,当然ながら治療薬も異なってくる。そのほかにも,成人では心原性の心停止が大部分を占めるが,小児では呼吸原性の心停止が多いことは,成人と小児で明らかに病態が異なることを表している。
このようにショックにおいては,症状から原因疾患,治療に至るまで多くの点で小児は成人と異なるにもかかわらず,小児のショックについての詳細なテキストはほとんどないのが現状である。本書は以上の点を念頭において,小児のショックに関する基本的事項から最新の知見までを網羅し,診断・治療の指針を提示すると同時に,この分野でのホットな話題を提供することも目的としている。
本書が,小児のショックを診断・治療する際の一助になれば幸いである。
平成29年11月吉日
櫻井淑男
編集委員会 日本小児集中治療研究会