Part 1 呼吸機能検査とその意味するもの
1 換気
2 ガス交換
3 その他の検査法
Part 2 疾患肺の機能
4 閉塞性疾患
5 拘束性疾患
6 血管病変
7 環境因子,腫瘍,感染による肺疾患
Part 3 不全肺の機能
8 呼吸不全
9 酸素療法
10 人工換気
付録
A 記号,単位,正常値
B 文献
C 章末の設問の解答
D 症例検討へのいざないの設問の解答
カラー図・写真
索引
訳者序文
このたび,『ウエスト呼吸生理学入門:疾患肺編』の翻訳を仰せつかった。本書は,これまで堀江孝至日本大学名誉教授が翻訳を担当されてきたが,本書とペアになる『ウエスト呼吸生理学入門:正常肺編』の翻訳を私が担当したこともあり,この疾患肺編が改訂された時点で,堀江先生から引き継ぐようにと直接お話を頂戴した次第である。私は,Dr. Westの名著の内容を少しでも多くの方に勉強して頂ければと思い,堀江先生のこれまでの素晴らしい訳に加え,新たに改訂あるいは修正された部分の訳を担当させていただいた。2人の訳調が少し異なっている点があれば,どうかご容赦をいただければと思う。
Dr. Westご自身が序文で述べられているように,初版は約40年前に出版され,これまで何世代にもわたり学生さんたちの役に立ってきた貴重な書籍である。いくつもの言語にも翻訳されている。改訂に当たり特筆すべきは,『ウエスト呼吸生理学入門:正常肺編』の第10版でも同様であるが,Dr. Andrew M. Luksが共著者となった点である。本書の原著第9版には数多くの改訂が加えられたが,その作業にDr. Luksがたいへん大きな役割を果たしておられる。Dr. Luksはカリフォルニア大学サンディエゴ校医学部にて医学博士を取得されており,彼自身が学生時代,この教材に多々触れる機会があった。Dr. Luksは,今もアンダーラインを引いた本書を大切に持っておられる。私も本書を学び,たくさんの線を引きメモを書いた点は同じで,勝手ながら強い親しみを感じる。彼は現在,優れた教師としてワシントン大学医学部に所属され,多忙な日々を過ごされている。そのなかで,本書の多くの重要な改訂に際し,「症例検討へのいざない」,多肢選択式問題,新たな図表の作成などの部分で大きな責任を担われた。私が「症例検討へのいざない」と訳したが,この部分は,各章で学んだ病態生理学が,まさに臨床の現場でどのように活かされるかが描写されており,非常に明解で勉強になる。救命救急センターに患者さんが搬送されるエピソードなどは,現場の様子が思い浮かぶようである。単なる生理学に止まらず,生きたベッドサイドフィジオロジーそのものといえよう。呼吸器疾患患者に接する麻酔科医や循環器内科医,そして集中治療室の看護師や呼吸療法士などにも大いに役立つと考えられる。これに加え,医学の進歩には著しいものがあり,疾患概念の修正,診断基準の改訂,遺伝子や分子レベルでの新たな発見なども付加され,内容は確実にアップデートされている。
Dr. Westには数年前にカナダのレークルイーズで開催されたHypoxia meetingでお目にかかった。現在も論文執筆や学会活動を継続されているとうかがっている。かなりご高齢になられたが,今後とも後進の指導を通じ素晴らしい『ウエスト呼吸生理学』を伝えていただければと願う。生理学の分野でバイブルと言われる本書の翻訳に携われたことを,私自身たいへん光栄に思う。
2018年2月
桑平一郎
序文
本書は,“West’s Respiratory Physiology: The Essentials”の第10版(Wolters Kluwer, 2016*1)の姉妹編としてまとめたものであり,正常肺に対し疾患肺の機能について記述されている。初版は40年前に出版され,何世代にもわたり学生たちの役に立ってきた。また,いくつもの言語にも翻訳された。この第9版には多くの改訂がなされているが,特筆すべきはAndrew M. Luks博士が共著者になったことである。Luks博士はカリフォルニア大学サンディエゴ校医学部にて医学博士を取得したので,自身が学生時代にこの教材に多々触れる機会があったのである。彼は現在,ワシントン大学医学部に教職員として所属し,優れた教師としての評判を得ている彼は,上記“West’s Respiratory Physiology”の第10版の共著者となって以来,この新版においても多くの重要な改訂に対し,特に「症例検討へのいざない」,多肢選択式問題,新たな図表の作成において大きな責任を担っている。
各章には「症例検討へのいざない」があるが,これはその章で解説された病態生理学が実地臨床の場にいかに役立つか理解を深めるためのものである。いざないの最後にいくつかの設問をおいたが,解答は付録にまとめた。これに加え,新たに30以上の多肢選択式問題をUSMLEの形式で設けた。これらの設問は臨床に根ざしており,記憶すべき事柄を単にまとめたものではなく,課題をどれだけ理解できたか?を試すことが目的である。本書の図表にはかなり変更しており,カラーの病理組織学的所見に加え,X線写真およびCT画像が8つほど増えた。これらはワシントン大学医学部のCorinne Fligner博士,マーサー大学医学部のEdward Klatt博士からご提供いただいたものである。本文についても,特に最新の治療などの多くの領域でアップデートを行った。また,本書をもとにした7つのビデオ講義(各50分)を作成したことも新たな改訂点である。これらはYouTubeで自由に閲覧可能で,かなり浸透しているようである*2。
以上の結果,本書は厚みを増したが,初版以来の目的には何ら変更はない。以前と同様,本書は2年生あるいはそれ以上の学年の医学生を対象に,入門書としての役割を担っている。しかし,疾患肺における呼吸機能を簡潔かつ詳細に目に見える形で解説することは,ますます増え続けている,呼吸器疾患患者に接する麻酔科医や循環器内科医,そして集中治療室看護師や呼吸療法士などにも大いに役立つであろう。
本書の題材の選び方や誤植などについて,ご意見をいただければ幸いである。これらのe-mailにも御返事をできる限り差しあげたいと思っている。
*1訳注 『ウエスト 呼吸生理学入門:正常肺編 第2 版』(メディカル・サイエンス・インターナショナル,2017)
*2訳注 英語版のみ。