小児の救命救急・ICU領域における標準的な治療、最新の知見・エビデンスに基づく治療の選択肢を提示するシリーズ、「ショック」に続く第2弾。小児は成人とは異なることは踏まえつつも、成人領域の知見や経験を小児に当てはめて解説。人工呼吸器に馴染みのない小児科医のみならず、小児を診る機会の少ない集中治療医や救急医、メディカルスタッフにも配慮した記述。小児の呼吸管理に携わるすべての人に向けた、呼吸管理エキスパートによる指南書。
総論
1 小児の呼吸の特徴
2 人工呼吸中の呼吸機能測定
挿管呼吸管理
1 気管挿管
コラム 気管チューブの変遷とその背景
2 人工呼吸中の非同調
3 人工呼吸器離脱・抜管
4 気管切開の適応・管理
pro-con
1 それでもやっぱりPCV
2 VCVはPCVより優れている
非挿管呼吸管理
1 high-flow nasal cannulae
2 NPPV
小児のARDS
1 小児の急性呼吸窮迫症候群の特徴
2 小児のVALIとARDSの呼吸管理
コラム 肺を壊すのはpower?
3 小児の呼吸不全に対するECMO
循環器疾患
1 肺血管抵抗と呼吸管理
2 単心室患者の呼吸管理
3 重症心不全患者の呼吸管理
小児特有の疾患
1 小児外科系疾患の呼吸管理
2 ウイルス性細気管支炎
3 気管支喘息重積発作の治療について
コラム 成人人工呼吸患者における酸素投与の目標
小児集中治療室に入室する半数以上の患者に,人工呼吸が必要です。一般小児病棟でも人工呼吸が行われることは多くあります。また,主に成人を中心に診療を行うICUや,救急病棟でも,小児の呼吸管理が日常的に行われています。ですが,このように珍しくない手技であるが故に,人工呼吸を簡単に考えていることはありませんか? 血液ガスがよければ問題ないと思っていませんか? RSによる細気管支炎の多くは10日も経てば自然に改善しますが,その間の呼吸管理はどうでもよいというわけではありません。多くの人工呼吸中の小児は,人工呼吸器と同調していなくても,呼吸サポートが足りなくて喘いでいても,われわれにそれを訴えることができません。われわれが意識して患者を診ていなければ,それらの症状を見逃し,鎮静薬の量を増やしてしまうかもしれません。本書では,小児の呼吸管理に携わるすべての者が,肺傷害や人工呼吸器との同調性や呼吸仕事量を意識した人工呼吸ができるようになることを目標とします。
かつて,われわれ小児集中治療にかかわるものは「小児は成人のミニチュアではない」と教わってきました。それに異論はありません。しかし,実は共通点は多くあります。そして,残念ながら小児ではエビデンスが十分でないことが多々あります。そのような分野では,小児を専門にする者とはいえ,成人でのエビデンスを知って,できるならそれを小児に外挿することは重要です。逆に,小児を専門にしない集中治療医やメディカルスタッフは,成人と小児のどこが同じでどこが異なるのか,理解できるようになることが重要です。同じ部分が確認できれば,成人で会得した技術や知識を応用できますから。
また,かつて小児の呼吸管理では,十分なモニターが行えないために,しばしば経験に基づいた呼吸管理が行われてきました。もちろん経験は重要ですが,最近ではモニターの性能も向上しており,そのデータを利用した呼吸生理に基づく管理も可能になってきていると思います。そのような呼吸管理を行えば,経験だけに頼るよりも,むしろ経験の浅い医師やメディカルスタッフでも人工呼吸管理がワンランクアップすることになると思います。データと呼吸生理に基づいて呼吸管理を考えるようになるというのも,本書の重要な目的です。
最後に,小児に特有な疾患を取り上げています。とくに,多くの小児集中治療室で,入室患者の半数を占める先天性心疾患における呼吸・循環相互作用は,小児の集中治療にかかわるものにとって最も重要な知識の1つです。また,それを理解することで,心臓疾患のみならずすべての重症病態での一歩進んだ循環管理に繋げることが可能になると思います。
本書は,以上の点を念頭においた,すべての小児の呼吸管理に関わる者(PICU医も,小児科医も,集中治療医も,救急医も,メディカルスタッフも)をワンランクアップするために必要な基礎から最新の知識までを網羅したテキストを目指しました。本書が,小児の人工呼吸にかかわるすべての皆さんの,臨床にお役に立って,患者さんに貢献できることを切に願っています。
2018年10月
大阪母子医療センター 集中治療科
竹内宗之