高齢化社会を背景に難しい患者が急増している今、循環器医がCCUで重症患者・不安定な患者を管理する場面もますます増えている。カンファレンスでオーベンのツッコミを受けているような感覚で本書収載の17症例に接し読み進めるうちに、エビデンスに乏しく個別的でクリティカルな患者への対応や、具体的な治療方針の検討過程を追体験できる。研修医・若手医師のトレーニングに重要な病態理解と診療技術のポイントが整理でき、実戦的な思考プロセスが身につく。指導医のレビューにも最適。
序章 Overview:最近のCCU事情
Part Ⅰ 虚血性心疾患
症例 1 合併症のない急性前壁心筋梗塞
症例 2 右室梗塞を伴った急性下壁心筋梗塞
症例 3 心原性ショックを呈した若年亜急性心筋梗塞
症例 4 経過中に血行再建術を必要とした虚血性心疾患合併心不全
Part Ⅱ 心不全
症例 1 急性非代償性心不全:HFpEFの初回心不全
症例 2 入退院を繰り返す心不全
症例 3 拡張型心筋症が疑われる左室駆出率の低下した心不全
症例 4 急性心筋炎による心不全
症例 5 弁膜症を原因とする心不全
症例 6 右心不全を伴った重症心不全
症例 7 認知症を合併した超高齢者心不全
症例 8 糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群を合併した心不全
Part Ⅲ 不整脈
症例 1 頻脈誘発性心筋症による心不全
症例 2 頻脈性心房細動により容易に循環破綻する肥大型心筋症
症例 3 過去にペースメーカのトラブルがあったCCU入室患者
Part Ⅳ その他の疾患
症例 1 待期的に修復術を行った急性大動脈解離
症例 2 循環破綻に至った急性肺塞栓
「CCUで研修する若手循環器内科医にとって,本当に実践的な症例集を作りたい」……その思いから,メディカル・サイエンス・インターナショナル・書籍編集部の染谷繁實エディターと議論を重ねて企画を練り上げました。
本書の狙いはCCUの臨場感を再現することと,疾患に対する応用力を養うことです。症例集ですが,少しヒネリを加えてカンファレンス形式で症例検討が進行していきます。CCUデビュー間もない後期研修医の先生が症例をプレゼンする様子を想像してみてください。オーベンから鋭いツッコミを受けるかもしれません。そのツッコミのポイントが,病歴や心電図,血液検査などからの「問いかけ」にちりばめられています。適宜オーベンからの「Lecture」が入りますので知識を整理してください。知っておくと役に立つことや,強調しておきたいことを「オーベンからのひと言」にまとめました。カンファレンスで議論した結果,「次の一手」が決まります。
本書は大阪警察病院循環器内科の医長以上による分担執筆です。この執筆陣には一定期間ずつ交代でCCU主任としてCCUを管理し,若手医師から構成されるCCUメンバーを指揮・指導してもらっています。本書では,執筆者それぞれが担当期間中にCCU主任として出会い,CCUメンバーとともに議論して治療した症例を選んでもらって,CCUカンファレンスを再現してもらいました。読者諸氏は大阪警察病院でのCCUカンファレンスに立ち会っているような雰囲気を感じ取ってもらえるでしょう。
―症例から何を学ぶか?
教科書の勉強方法と症例集の勉強方法はまったく違います。1つの疾患について縦割りに知識を得るのが教科書の勉強法。症例を通して学ぶことは,次に同じような症例に出会ったときにどうするか,あるいは似ているが細部の異なる症例に出会ったときにどうするかについてのシミュレーションです。想像力と応用力が必要ですが,一朝一夕には得られません。
カンファレンスで経験豊富なオーベンの話を聞いて,自分の経験として咀嚼していくのが最も手っ取り早い方法です。筆者を含め,執筆者たちもそうやって学んできました。研修の合間に本書の症例を追体験してみてください。実際の症例にあたったときに,症例から何を問いかけられているのかが理解できてくると思います。
まるで自分が体験したかのように感じるのが良い症例集といえるでしょう。本書はさらに,似て非なる症例にも思いを馳せるため,読者諸氏の想像力の啓発を目指しました。
本書がCCU研修のサプリメントになれば幸いです。
2019年1月
樋口 義治