日常診療や救急現場において頻用されている頭部CTの読影、診断のポイントを初学者にもわかりやすく解説。初回検査、緊急検査のCTを的確に読影して活用するための基本的な知識を確認し、その限界を知り、MRIやその他の検査を追加することを前提に、さまざまな疾患のCT所見を提示。読影の背景となる事項の解説「ノート」、著者ならではの読影のヒント「memo」を適宜挿入。研修医・当直医や画像診断を専門としない医師にとって待望の入門・実践書。
A. 総論
1 章 正常解剖
2 章 撮影法と読影の基本
B. 各論1 [所見別]
3 章 脳室拡大
4 章 石灰化
5 章 胞性病変
6 章 頭蓋病変
7 章 異常と間違えやすい正常構造
C. 各論2 [疾患別]
8 章 脳血管障害(1) 虚血性疾患
9 章 脳血管障害(2) 出血性疾患
10 章 外傷
11 章 炎症性疾患・脱髄疾患
12 章 変性疾患・代謝性疾患
13 章 腫瘍
14 章 先天異常
D. 各論3 [(付)頭頸部]
本書は頭部CTのテキストである.今さらCT? という声が聞こえてくる.
1980年代後半,MRIが登場するに至って,それまで神経放射線診断の花形だったX線CTはその座をMRIに譲り渡した.筆者が放射線診断の勉強を始めたのはちょうどこの時期で,入局当初はCT全盛期であったがその数年後にMRIが導入され,この転換機とその後のMRIの発展を身をもって体験した.当時,この分野の包括的な教科書として前原忠之先生(順天堂大学)の「神経放射線診断 1・2」(文光堂,1985)があり,CTを中心に単純写真,血管撮影を縦横に駆使する神経放射線診断学の醍醐味を伝える名著であった.御供政紀先生(大阪大学)の名著「頭部CT徹底診断」(医学書院)が出版されたのは既にMRIが隆盛期を迎えていた1992年で,御供先生も「この時に,なぜCTなのか」と序文で自問しておられるが,頭部CTが到達したレベルを集大成した貴重な本であった.その後,脳画像診断の素晴らしい教科書がいくつも出版されているが,いずれも実際には「脳MRI」の教科書で,CT所見の記載は付け足しであることが多いのが実情である.
多くの脳疾患の診断において,感度,特異度いずれの面からもMRIが第一選択の検査であることは論を待たない.しかし,緊急時をふくめ初回検査としてCTが行われる機会は現在も多い.「頭部CTの読影はMRIよりも簡単」と思われている節がある.しかし,これは正しくない.特に初回検査としてのCTの読影はMRIよりも難しい側面がある.MRIの拡散強調画像があれば誰の目にも明らかな急性期梗塞も,CTでは微妙な早期虚血徴候を読み取る読影力が必要である.経時的評価でも,虚血性病変や脳浮腫を明瞭な高信号域として捉えられるFLAIRと違って,CTではわずかな低吸収域の変化を見落とさないようにしなければならない.概してCTはMRIよりも所見が軽微であるが,だからといって重要な所見を見落としてよいわけではない.
現在の,CTの読影に求められるのは次のようなことであろう.
1) 初期病変による軽度の異常を見逃さない
脳梗塞における早期虚血徴候,くも膜下出血における淡い高吸収,等吸収の硬膜下血腫などはその例であるが,必ずしも急性期病変に限らず,早期の水頭症やアルツハイマー病における軽度の脳室拡大,脳腫瘍による軽度の浮腫などを見落とさないことも重要である.
2) CTの限界を知って他の検査を追加,選択する
CTの所見を踏まえ,MRIの必要性を判断する.非造影CTだけが撮影されており,造影が必要と考えられる場合は,MRIが撮像可能である限りはあえて造影CTを撮影することなく造影MRIを優先する.CTA,3DCTなどCTの特長を最大限に活用することはもちろんであるが,その一方で多発性硬化症のようにCTではほとんど診断できない疾患も存在することを弁え,状況に応じて他の検査の必要性を判断する.
3) 正常像,正常変異を誤診して不必要な追加検査を行わない
当然のことながら,正常像を的確に把握して病変と間違えないことは重要である.血管周囲腔の拡大がラクナ梗塞と診断されたり,正常の硬膜静脈洞の高吸収が静脈洞血栓症と診断されて,余計な検査が行われている例は少なくない.
本書の目的は,このような点にして配慮すべく,初回検査,初期検査としてのCTを的確に読影して活用するための基本的な知識を整理,確認することである.決してCTでMRIに迫ろうなどという大上段の構えではなく,その限界を知り,積極的にMRIやその他の検査を追加することを前提に,さまざまな疾患のCT所見をあらためて整理する.
特に当直や救急の場で,ひとりで判断しなければならない画像診断を専門としない臨床医,研修医にも役立つことを念頭に置いた.ついでながら,頭部CTの撮影に際して,眼窩,耳鼻科領域の病変が「はからずも」見えてしまうことは少なくない.必ずしもこの領域を専門としない先生方の便宜も考え,頭頸部領域の疾患の画像所見を付記した.
なお,本文中の「ノート」欄は,読影とは必ずしも関係しないがその背景となる事項を,「memo」欄には筆者が常日頃読影しながら感じる(必ずしもエビデンスのない,しかし個人的には重要と考えている)読影のヒントを記した.
本書が日々,頭部CT診断に携る方々の一助となることを願うものである.最後になったが,企画から編集,最終校正まで,常に綿密な作業で著者の不備を補っていただいた編集部の正路修氏に深謝する.
【参考書】
本書はできるだけコンパクトにするため,個々の疾患の病態やMRI所見に関する記載は必要最低限とした.参考文献も特別なトピックに限り,一般的なものは成書に譲った.これらについては,下記の教科書を参照されたい.
日本語で書かれた脳画像診断の教科書としては最も詳しい,標準的な教科書.
・細矢貴亮他編,脳のMRI.(メディカル・サイエンス・インターナショナル,2015)
・高橋昭喜編,脳MRI(1~3).(学研メディカル秀潤社,2005~10)
上記を補足する小児神経系の画像診断の教科書.
・大場洋編,小児神経の画像診断.(学研メディカル秀潤社,2012)
特にCTが重要な役割を果たす急性期脳血管障害の画像診断を詳述した良書.
・井田正博,ここまでわかる 頭部救急のCT・MRI. (メディカル・サイエンス・インターナショナル,2013)
頭頸部画像診断の標準的な教科書.
・尾尻博也,酒井 修編,頭頸部のCT・MRI 第2版(メディカル・サイエンス・インターナショナル,2012)
2019年2月
百島 祐貴