多職種が関わる医療現場では、より良い組織・チームのマネジメントのためにリーダーシップスキルが欠かせない。BMJの好評連載から生まれた本書は、医療で求められる特有のリーダーシップの理論・概念について体系的かつコンパクトに解説するとともに、ケースを交えながらリーダーシップの実践や応用についても紹介する。医療管理職はもちろん、チーム医療を担うすべての医療職に有用。
1 医療現場のリーダーシップの重要性
2 リーダーシップとマネジメント
3 リーダーシップの理論と概念
4 フォロワーシップ
5 グループやチームのリーダー
6 変革のリーダーシップとマネジメント
7 組織のリーダー
8 複雑な環境を率いる
9 臨床サービスのリーダーシップと改善
10 プロジェクトのリーダー
11 教育のリーダーシップ
12 協働型リーダーシップとパートナーシップ
13 リーダーとしての自覚
14 文化的多様性のある医療サービスにおけるリーダーシップ
15 ジェンダーと医療現場のリーダーシップ
16 価値に基づくリーダーシップ,真正なリーダーシップ,倫理的リーダーシップ
17 あらゆるレベルでリーダーシップを開発する
原著序文
“ABC of Clinical Leadership”の第2 版へようこそ。初版を発行してから,医療現場のリーダーシップの理論,概念,研究,実践は著しく変化した。これらを反映して,我々は,新たな知見をふんだんに盛り込んで,2つの新規章を設けるなど本書を大幅に改訂した。今版を制作する過程で,すみずみまで最新の情報を反映し,複数人の新たな著者を本書の執筆者として迎えた。
経験豊富なリーダーだけでなく,リーダーシップとマネジメントに初めて接する臨床家も対象として,本書の編集にあたった。本書は医師,歯科医,看護師,その他の医療従事者,さまざまなレベルの医療従事者,医療管理者,職員に有用である。また,特に,研修医や指導医やトレーナーの指導に適している。
本書を刊行した背景には,効果的なリーダーシップが患者ケアと健康アウトカムにとってきわめて重要であるという認識の高まりがある。患者ケアは,単独で働く個々の医師ではなく,システムのもとで働く臨床家によって提供される。医療を効果的に提供するためには,これらのシステムを理解するだけでなく,患者の利益のためにそれらのシステムにどのように影響力を及ぼし,改善するかを理解する必要がある。そのためには,臨床チームから部門,組織全体,そしてより広範なコミュニティへのあらゆるレベルの変革と改善をリードする臨床家の積極的な参加が欠かせない。
本書のねらいは,医療の改善に携わる人々に情報を提供し,奨励することである。医療現場におけるリーダーシップに関して豊富な専門知識をもつ執筆者陣を迎えられたことを幸せに思う。執筆者全員の貢献に感謝する。我々が目指してきたことは,医療に関連するリーダーシップと組織に関する主要な概念を紹介し,これらを医療や現代の医療システムに結びつけることである。本書の構成は各章ごとに完結しているが,本書を通読いただければ,医療現場のリーダーシップの理論と実践に関して優れた基礎知識を得られるだろう。本書の制作にあたり,リーダーシップに関してさらに知識を深めたり,より多面的な視点を探求したい読者のために,我々は文献欄だけでなく参考資料の欄を設けるよう各執筆者にお願いした。
本書は,「医療現場のリーダーシップの重要性」という導入から始まる。医療現場のリーダーシップを,主要な政策推進者,リーダーシップ,マネジメント,そしてフォロワーシップの理論という文脈に位置づける。チーム,変革,プロジェクト,組織,複雑な環境を導くリーダーシップの重要な側面について検討する。次に,主要な臨床サービスと教育の具体的な状況について論じる。後半の章では,コラボレーションとパートナーシップといったより広い文脈や,ジェンダー,文化,倫理的問題がどのようにリーダーシップに影響を与えるかについて言及し,最終章ではリーダーシップ開発が最善の形で行われるための方法について述べる。本書を手にとっていただいたあなたにとって,本書が実り多きものとなることを,そして,あなた自身や周りの人のリーダーシップの実践を振り返り,進化させるきっかけとなることを,編者一同願ってやまない。
Tim Swanwick
Judy McKimm
監訳者序文
医療およびヘルスケアは多職種が関わる複雑なシステムであり,医療従事者にとってその組織をうまくマネジメントすることは以下の点で重要です。
1. マネジメントの成功・不成功が患者ケアの質と健康アウトカムにつながる点
2. 組織内外の医療従事者・関係者の満足度につながる点
3. 医療経済(個人レベルでも社会レベルでも)の効率化に寄与する点
組織あるいはシステムをうまくマネジメントするためにはリーダーシップが必要です。しかしながら,リーダーシップについては,われわれ医療従事者には体系付けられた知識がなく,まとまって教育された経験もなく,ケースバイケースで行っているのが現状ではないでしょうか。本書は,医師,歯科医師,看護師,他の医療職,初心者から上級職のさまざまなレベルの医療従事者,医療管理者,医療管理職員を意識して作成されています。経験豊富なリーダーだけでなく,リーダーシップとマネジメントに初めて接する医師・医療従事者も対象としています。
医療を効果的に提供するためには,医療・介護システムを理解するだけでなく,患者の利益のためにそれらのシステムにどのように影響力を及ぼし,改善するかを理解する必要があります。そのためには,臨床チームから部門,組織全体,そしてより広範なコミュニティへのあらゆるレベルの変革と改善にリーダーシップを発揮する医療従事者の積極的な参加が欠かせません。
本書は,医療・ヘルスケアの文脈から,近年著しく変化しているリーダーシップの理論,概念,研究,実践について体系的にまとめらており,わが国でも類書のないものの1つです。内容は,英国の医療現場におけるリーダーシップに関して豊富な専門知識をもつ執筆者により構成されていますが,すべての項目は現在あるいは将来のわが国にあてはまる内容です。本書の構成は各章ごとに完結していますが,本書全体を通読いただければ,医療現場のリーダーシップの理論と実践に関して優れた基礎知識を得られます。さらに参考資料や文献も豊富に記載してあり,知識をより深めたい方にも充実した内容となっています。
本書が皆様の明日からの臨床活動に役立ち,質の高い医療・介護・ヘルスケアの実践に結びつくことを願っております。
京都府立医科大学 教育センター長
大学院医学研究科総合医療・医学教育学 教授
医学部附属病院 卒後臨床研修センター長/総合診療部部長
山脇 正永