抗菌薬による治療の基礎となる主要概念や原則を理解し、その全体像を捉えるための簡便なテキスト。細菌学、薬理学の基礎と臨床をバランスよく扱い、医学生や研修医が1〜2週間で読み通せるボリュームにまとめた。よくみる病原性細菌やよくある感染症に対する抗菌薬使用の基本を学ぶことにより、自ら考えて治療を行うための応用力が身につく。(改訂に際し『抗菌薬マスター戦略』より改題)
PART I 細菌の基本
1 章 細胞膜
2 章 タンパク質合成
3 章 複製
4 章 抗菌薬感受性の測定
PART II 抗菌薬
5 章 細胞膜をターゲットにする抗菌薬
6 章 タンパク質合成を阻害する抗菌薬
7 章 DNA やDNA複製をターゲットにする抗菌薬
8 章 抗酸菌に対する抗菌薬
9 章 抗菌薬のまとめ
PART III 原因限定治療
10章 グラム陽性菌
11章 グラム陰性菌
12章 嫌気性菌
13章 非定型菌
14章 スピロヘータ
15章 抗酸菌
PART IV エンピリック(経験的)治療
16章 肺炎
17章 尿路感染症
18章 骨盤内炎症性疾患
19章 髄膜炎
20章 蜂窩織炎
21章 中耳炎
22章 感染性心内膜炎
23章 血管内カテーテル関連感染症
24章 腹腔内感染症
PART V 症例問題
PART VI 復習問題と解答
付録
1 成人の抗菌薬投与量(腎機能が正常な場合)
2 小児の抗菌薬投与量(腎機能が正常な場合)
3 腎不全の成人患者の抗菌薬投与量
4 妊婦における抗菌薬
5 よく使われる抗菌薬の一般名と商品名
6 バイオテロリズムによる感染症の治療
7 医学文献
8 引用した文学作品
9 章末問題の解答
監訳者序文
Alan Hauser 先生の“Antibiotic Basics for Clinicians”を『抗菌薬マスター戦略』として訳出,世に出したのが2008年のことだ。本書はこの第3版なのだが,Hauser先生が「臨床医のための抗菌薬の基本」というタイトルに「A,B,C」≒「い,ろ,は」を隠し入れていたことを鑑み,タイトルを一新してお送りする。とはいえ,新版で内容も一新されているので,『マスター戦略』をすでにお持ちの方にも有益な一冊であると信じている。騙された,とは思わないでください。
本書は大きく5つのパートに分かれている。最初は,「細菌の基本」だが,これは抗菌薬作用部位のレビューでもあり,薬剤耐性化のメカニズムでもある。「い,ろ,は」だけあってきわめて臨床的なアプローチだ。次に,各抗菌薬の解説が入り,さらに原因菌が確定したときの治療法(definitive therapy),次いで,原因菌がわからない,臨床像に対するエンピリックな治療(definitive →empiricという順番で解説しているのが,実に渋い!),そして練習問題である。本書は,頭からお尻まで通読していく,いわば小説のような本である。この順番で読んでいくことで読者は抗菌薬の使い方の「い,ろ,は」が染み入るように体得されていくのを実感するだろう。
抗菌薬の適正使用は全世界的な問題であり,かつ全日本的な問題だ。特に,抗菌薬適正使用をチームとして行うようになった近年,「で,何をもって適切とするの?」という看護師,薬剤師,検査技師からの質問が後を絶たない。実は,医師も「何をもって適切な抗菌薬か」を理解していないことが多いのだが,医師はプライドが高くて知ったかぶりをしがちなので,直截には訊かない( 訊けない) のだ。というわけで,全職種総まとめで,本書は一読に値する。
2019年3月
岩田 健太郎( 監訳者)