判例ピックアップ 麻酔科・ペインクリニック領域編

そのとき、何が起きていたのか?
-医療者、患者、司法・・・それぞれの視点を踏まえ医療訴訟を読み解く

医療裁判を取り上げ、医療事故の経緯から裁判結果までを解説した雑誌『LiSA』の好評連載「判例ピックアップ」を加筆、再構成し書籍化。 臨床に従事する医療者として医療過誤や医療事故にいかに対処すべきか、複雑な事情が絡み合う医療訴訟の案件を、裁判資料を精査しかつ、著者独自の調査を踏まえ詳述。医療者目線に偏らず、判決に至るまでの裁判官の論理構成を明示し、医療者と司法の視点の「ずれ」を指摘する。当該領域医療者必読の書。

¥5,500 税込
著:奥田泰久 獨協医科大学埼玉医療センター麻酔科
ISBN
978-4-8157-0165-9
判型/ページ数/図・写真
B5 頁288 図46
刊行年月
2019/5/31
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CASE 1 星状神経節ブロック後の頸部・縦隔血腫による呼吸困難
遅発性声門部閉塞の気道確保

CASE2 口蓋扁桃摘出手術後の出血
再手術のための適切な気道確保とは?

CASE 3 抜管後の再挿管失敗
抜管後の緊急気道確保に正解はあるのか?

CASE 4 硬膜外麻酔の説明義務と神経障害(前編)
硬膜外麻酔施行後に患者が下肢の異常を訴えた

CASE 4 硬膜外麻酔の説明義務と神経障害(後編)
硬膜外麻酔施行後に患者が下肢の異常を訴えた

CASE5 宗教的理由による輸血拒否
患者の意向に従い,術中に輸血をしなかったが…

CASE6 脊髄くも膜下麻酔施行直後に2分間隔で血圧を測定しなかった
能書の記載と医療慣行の不一致

CASE 7 局所麻酔薬中毒
不可避の偶発症であるが,いかに予防し,いかに対応するかが重要

CASE 8 鎮痛薬・鎮痛補助薬と自動車運転
運転禁止薬物にどう向き合うか?

CASE 9 イレウス患者の麻酔
脱水症患者に対する適切な麻酔薬の投与方法

CASE 10 麻酔科医の物質使用障害
われわれは何ができ,何をすべきか?

CASE 11 頸部硬膜外ブロック後の呼吸・循環停止
神経ブロックを施行する条件・環境

CASE 12 硬膜外ブロック後の硬膜外膿瘍
区域麻酔に関連した感染は軽視できない合併症である

CASE13 硬膜外麻酔後脊髄硬膜外血腫
きわめてまれな合併症だが,重篤な結果となった場合は医療訴訟に至る可能性がある

CASE 14 全身麻酔下の局所麻酔・区域麻酔
患者の意識はブロック針による神経損傷を予防するモニターとなるか?

CASE 15 マンモトーム生検時の局所麻酔による気胸
超音波ガイド下局所麻酔の限界

CASE 16 末梢血管穿刺と神経損傷
針が神経に接触したら過失となるか?

CASE17 大腿骨頸部骨折手術終了後の心停止
術前の血糖コントロールが不十分な患者ではあったが…

CASE 18 麻酔科医が手術室不在中の急変
医療事故と刑事訴訟およびガイドライン(指針)

CASE19 術後呼吸不全による死亡
PCAボタンを押すのは誰か?

CASE 20 無痛分娩中のトラブル
快適で安全な出産のための麻酔とは何か?

CASE 21 歯科医師の医科での救命救急研修
ガイドラインに従い同意を得なければ医師法違反

CASE 22 肋間神経ブロック後の脊髄損傷
神経ブロックのきわめてまれな合併症:前脊髄動脈症候群

CASE23 突発性難聴
確立された有効な治療法がない

CASE 24 麻酔科医の過労死
医師は労働者である

本書は,2016年4月から2018年7月まで雑誌『LiSA』に連載された「判例ピックアップ」を修正,加筆したものである。
 医療訴訟は,臨床で医療に従事する医療者にとって,常に関心を払うべき大きな問題である。医療は不確実なものであり,たとえ医療者が細心の注意を払っても,人為的ミスによる“医療過誤”や,人為的ミスがなくても副作用および合併症を含めた不可避の“医療事故”をゼロにすることはできない。
 医療行為で患者に何らかの不利益が生じた場合でも,患者やその家族がその結果に納得すれば問題はない。しかし,医療者側が“不可避”と考える不利益でも,患者やその家族が常に同意して納得するわけではなく,特に期待された結果が得られなかった場合は,その診療行為前の説明が不十分だったとか,診療行為に何らかの過誤があったとの主張をすることは珍しいことではない。米国では,医療過誤が三番目に多い国民の死亡原因との報告1)もある現状である。医療者側と患者側の両者でその溝が埋まらない,あるいは示談が成立しない場合,そして患者が死に至った場合には,その医療行為の正当性について,多くは民事であるが,時に刑事事件として,司法の判断がなされる。極端な考えであるが,医療者であれば,医療訴訟に巻き込まれる可能性は常にある。「明日はわが身」である。
 それらの医療訴訟の情報は,われわれ医療者にとっては再発防止目的などからも非常に重要であるが,米国のようなclosed claim studyが発達していない日本では,そのような情報を知る機会がきわめて少ない。“医療事故”については,これまでも麻酔関連雑誌に症例として報告されるものは多々あるが,結果的に患者には大きな障害が残らなかったものが大部分で,重篤な後遺症や死亡に至ったものはきわめて少なかったし,なかには多少の“脚色”がされたものもあった。そして,明らかな“医療過誤”は,特別な事情がないかぎり,報告はされなかった。さらに,最近の医学雑誌,特に欧米誌は合併症・副作用に関する症例報告は極力掲載しない傾向がある。
 基本的には裁判の判決文は国がすべての国民に公表すべきもので,一部は法務省のウェブサイトや司法関係の発行物で知ることができる。しかし,医療関係者への主要な医学情報源である医中誌やPubMedなどは,医療訴訟の判決文は検索対象外なので,通常の方法でこれらの情報収集は困難であった。そのため,これまでの合併症や副作用に関する多くの医学論文の考察では,医療者側からの視点のみで論じられ,そのことが医療訴訟となった実際の裁判で示された司法側からの異なる視点からの考えが含まれておらず,現実的な“ずれ”を強く感じるものが少なからずあった。
 本書の目的は,以上のような問題に対して,これまでにどのような症例が医療訴訟に至り,最終的に裁判官がどのような判断をしたかを,臨床に従事している医療関係者に情報提供することである。そうすることで,医療者の注意喚起を促し,医学論文で司法の判断も引用しながら,より現実的な考察を記載できるのではないかと考えている。また時に,医療者側からすると大いに疑問を感じる司法判断の存在を知ることは,非常に大きな意味をもつと考えている。また,司法関係者にも,各司法判断に対する一臨床医の意見として,ぜひ参考にしていただきたい。
 本書が,医療訴訟に巻き込まれ苦しむ医療関係者,ならびに患者とその家族が一人でも少なくなることに役立てば幸いである。
 本書では基本的には判決文の一部を原文のまま引用しているが,個人情報の保護目的で,またあまり現代そして医療者にはなじまない文言については,修正して記載した。また解説は,あくまでも法律には全く素人の筆者による,判決文のみから得られた情報に対する個人的な意見である。反論や異論があることは承知しているし,誤った解釈をしているかもしれない。ぜひ,医療者側,患者側,そして鑑定人の立場で解釈していただき,ご意見があれば筆者に寄せていただきたい。
 最後に,本書の執筆に当たり,終始多大なる協力をいただいたLiSA編集室の江田幸子,中澤亜由美,今岡 聡の各氏に心より感謝申し上げます。

 2019年4月
 奥田 泰久

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