心不全ケアに関する疫学、病態生理、診断、治療、ケア、課題までを図表を交えてわかりやすくまとめた包括的テキスト、7年ぶりの改訂。ガイドラインの改訂を踏まえて内容を刷新し、関心の高まる緩和ケア、意思決定支援、また家族・介護者支援についても新たに章を設けて取り上げた。心不全診療の最新動向や知っておくと現場で役立つアドバイスも充実。看護師のみならず、医療チームを担う多職種におすすめ。
1 心不全の概念と分類
2 日本および海外における心不全の現状
3 心不全における一次予防
4 心不全に関する病態生理
5 心不全の診断
6 急性心不全の薬物治療
7 慢性心不全の薬物治療
8 急性心不全の非薬物療法
9 慢性心不全の非薬物療法
10 急性心不全患者のケア
11 合併症を有する心不全患者の治療とケア
12 重症心不全患者の治療とケア
13 心不全の栄養管理
14 心不全における緩和ケア
15 心不全における疾病管理
16 心不全患者のための意思決定支援
17 心不全におけるセルフケア
18 心不全ケアのための健康行動理論
19 心不全における活動能力の評価と運動療法
20 心不全患者に対する精神的支援
21 在宅における心不全ケア
22 心不全ケアにおける家族の役割と家族および介護者への支援
23 心不全ケア:展望と課題
はじめに
2012年に初版,2015年に初版第2刷を出版し,この度第2版の出版に至ったことは,心不全ケアが,特に循環器を専門とする医療者にとって,継続的に取り組むべき大きな課題であるとともに,進化し続ける専門領域であることを示していると強く感じている。
心不全患者を取り巻く環境は大きな変貌を遂げた。人口の高齢化が加速化するとともに疾病構造も変化している。医療負荷の増大を受け,医療提供体制が検討され,在宅,地域医療の重要性がますます高まっている。さらに,循環器疾患における終末期医療や在宅看取りなど,われわれは新たな課題に直面している。一方で,心不全治療やケアの進歩は目覚ましく,特に,心臓リハビリテーションの普及や心不全医療におけるチームアプローチの定着は,循環器医とメディカルスタッフの協働の賜物といえる。改訂版の出版を控えた2018年12月10日,国会において『健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法』が成立した。本法の成立を受け,今後の心不全医療を含む循環器医療がさらなる変貌を遂げると考えられ,心不全医療に従事するメディカルスタッフには,心不全医療のさらなる質の向上への寄与が求められている。
このような流れのなか,今回の改訂では,本書がこれからの心不全ケアに貢献できることを意識した構成とし,より先駆的内容を盛り込むこととした。まず,本書の特徴でもあるメディカルスタッフ向けの診断,治療に関する充実した内容を踏襲しつつ,2018年に発表された『急性・慢性心不全診療ガイドライン』を踏まえ,内容を刷新した。また,これからの心不全ケアにおける課題にも焦点を当て,内容を再構成した。具体的には,読者の関心が最も高いと思われる,緩和ケアや意思決定支援については,日本を代表する専門家にご執筆いただき,内容をより充実したものとした。治療の高度化,複雑化や在宅医療の推進にともない,家族への支援も重要になっており,今回の改訂で追加した。さらに,心不全ケアの根幹ともいえるセルフケア支援については,理論的基盤とともに,主要なセルフケア支援に関する実践的内容にも踏み込んだ。
監修者として印象的なことは,国内での心不全ケアに関するエビデンスが少しずつ蓄積されていること,そしてケアの実際に関する章の多くを心不全看護認定看護師が執筆してくださったことである。これらのことは本書を通して,よりエビデンスに基づいた心不全ケアの普及が期待できるとともに,心不全看護認定看護師の皆さんが今後の心不全ケアの発展を担われるという大きな希望を見出すことができた。
改訂版の出版にあたり,監修者,編者の要望を快く受け入れてくださいました執筆者の方々に深く感謝申し上げる。編者の先生方には,それぞれの視点から改訂版の充実に惜しみない労力を費やしていただいた。編者の力なくしては,改訂版の出版には至らなかったであろう。最後に,改訂版の企画から出版まで,私共の要望を受け入れ,形にしてくださったメディカル・サイエンス・インターナショナル社の江田幸子様,綱島敦子様に心から感謝申し上げる。
2019 年4 月
編者を代表して
眞茅みゆき
改訂によせて
わが国を含め世界中で人口の高齢化や高血圧,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病にともなう冠動脈疾患の増加,さらに急性冠症候群に対する急性期治療成績の向上と普及にともない,心不全患者が増加しています。今後ますます心不全患者は増加すると予想されており,わが国の疫学研究では,2030年には心不全患者が130万人を超えると予測されています。慢性心不全患者の多くは増悪による再入院を繰り返すため,医療上のみならず医療経済上の大きな課題としてとらえられています。このような傾向は,わが国を含む先進国ばかりでなく世界各国で懸念されており,「心不全パンデミック」として,その対策は喫緊の課題となっています。世界でも類を見ないペースで人口の高齢化,同時に少子化が進行し,すでに超高齢社会を迎えているわが国においては,高齢の心不全患者の増加が顕著であり,効果的かつ効率的な対策を打ち出すことが急務となっています。
日本循環器学会では日本脳卒中学会と連携し2016年12月に『脳卒中と循環器病克服5カ年計画』を発表しましたが,心不全を特に対策が必要な重要3疾病の1つに定め,5戦略(人材育成,医療体制の充実,登録事業の促進,予防・国民への啓発,臨床・基礎研究の強化)をかかげ計画を実行しています。まず,一般の方々も含め広く「心不全」を認知していただくために2017年10月「心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気です」という定義を定めました。さらに,日本循環器学会と日本心不全学会では,従来から急性と慢性に分かれていた心不全診療ガイドラインを一本化するとともに7年ぶりに全面的に改訂し,2018年3月に日本循環器学会と日本心不全学会の合同で『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』として公表しました。心不全診療では,心不全パンデミックと称される疫学,最新の診断法,エビデンスに基づく標準治療を知るとともに,心不全予防,多職種連携,緩和ケアまで裾野の広い診療を理解する必要がありますが,このガイドラインはそのための基礎となるものです。2018年10月には,ガイドラインの改訂を踏まえ,日本心不全学会では『心不全手帳』の改訂版も刊行しました。2018年12月の「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」の成立を受け,今後わが国における心不全医療への取り組みがさらに強化されることが期待されています。
心不全診療に携わる看護師,理学療法士,臨床心理士,管理栄養士,社会福祉士など数多くの医療専門職(いわゆる「コメディカル」という呼称がありますが,ここではこのように表現します)にとっていまや「スタンダードテキスト」ともいえる『心不全ケア教本』が改訂されました。7年ぶりの改訂ですが,この間に心不全医療を取り巻く環境は大きく変化してきました。旧版を使用しておられた方々にとっては,待ち望んでおられた改訂であろうと思います。改訂版でも「心不全患者の包括的支援に必要な知識・技術の習得を目指す」という全体の編集方針は一貫しており,内容も系統的に構成されています。疫学・病態・診断・治療・ケアがわかりやすく,かつコンパクトにまとめられています。今回,新たに1)心不全における緩和ケア,2)心不全患者のための意思決定支援,3)心不全ケアにおける家族の役割と家族へのサポート(社会的支援や貧困も含む)の章が設けられるとともに,心不全におけるセルフケアの章が拡充され,セルフケアを支えるための具体的なケアとして服薬管理,食事管理,症状モニタリング,ヘルスリテラシーについて詳しく解説されています。
心不全に対してもがんと同様に緩和ケアが必要であると広く認識されるようになってきました。緩和医療と終末期医療は同義ではなく,緩和ケアは終末期から始まるものではなく,心不全が症候性となった早期の段階からアドバンス・ケア・プランニングadvance care planning(ACP)を実施していく必要があります。心不全緩和ケアの実践は多職種チームの構築が前提となっており,本書でも触れられています。さらに,“TOPICS”では,心不全診療における最新動向など旬の話題が取り上げられており,“ONE POINT ADVICE”では,心不全診療において知っておくと役立つアドバイスが簡潔にまとめられ,実際の診療現場で必要なものばかりです。
本書に一貫しているのは,「医療従事者が手を取り合って,心不全を治療し患者の日常を支えるという仕事に取り組んでいただきたい」,そして「読者にも真に患者を支えるためのエビデンスや臨床知の構築に,ともに力を注いでいただきたい」という編者の熱い思いです。そのような熱い思いが随所に見られ,そして行間から滲み出ていることが,本書がいわゆる「マニュアル」にとどまらず,「教本」として多くの読者を引きつける所以であろうと思います。
本「教本」が,わが国の心不全医療におけるチーム医療のさらなる向上に寄与し,多くの心不全患者に質の高い心不全ケアが提供されることを願っています。
2019 年3 月
日本心不全学会理事長
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学
筒井裕之