ハリソン物語

発行人の序

内科学書の最高峰,“Harrison’s Principles of Internal Medicine(PIM)”の日本語版刊行を決めたとき,私たちが実現すべき目標としたのは,3つの“R”でした。すなわち,(1)Rapid publication(早期発行),(2)Readable and Reliable translation(読みやすく正確な訳),(3)Reasonable price(廉価)です。価格はともかく,短期間のうちに,しかも良質の訳書に仕上げること,これらを同時に実現することは,編集・制作スタッフの力だけでは不可能です。300人を超える訳者・監訳者の先生方に最善を尽くしていただくことが何よりも重要なことでした。

多忙な先生方のモティベーションを高め,日本語版『ハリソン内科学』を最優先していただくために何かできることはないのか?私たちは考えました。原著 Harrison’s PIM の編者,執筆者は,その任を得たこと自体,最高の名誉ととらえ,何にもまして“気合い”が入るといいます。これだけの本,世界一の医学書を翻訳・監訳される先生方も同様であってほしい,そんな思いでした。

先生方との連絡のため,連携を強く保つために,私達は「ハリソン通信」なるものを定期的にメール送信してきましたが,私はこのなかで,Harrison’s PIM の誕生からトップタイトルに至るプロセス,その間のエピソード,逸話や苦労話といったものを物語風にまとめたコラムを連載しました。名づけて「ハリソン物語」。幸い,先生方の好評を得,わずかでも訳出・監訳作業の応援歌になったのではと自負するところです。

その大半の“ネタ”となったのが,実はこのブックレットでした。Harrison’s PIMの初版以来の累計販売部数が100万部に達したのを記念して作られたものです。Tinsley R. Harrisonをはじめ,きら星のごとき歴代の編者たちが寄稿しています。そこには「なぜ,ハリソンなのか」が如実に語られており,「プロジェクトX──かくしてハリソンはグローバル・スタンダードになった」さながらの迫力と説得力のある内容になっています。

日本語版『ハリソン内科学』は,先生方の多大なるご尽力と,わがスタッフの格別の頑張り,関係各位のご協力により,当初の予定どおり,この5月に発行の運びです。日本に限って Harrison’s PIM はグローバル・スタンダードとして実際には機能してきませんでした。日本語版発行の目的は,わが国の大多数の医療職,学生の方々に実際に読まれ,利用されて,その機能を獲得することです。一部の人の“宝物”として,あるいは図書館の棚で半ば眠らせておくべきではありません。

その価値を,その影響力を想像していただく一助となればという思いで,このブックレットを全訳し,発行することにした次第です。

最後に『ハリソン内科学』が,わが国の医学教育,実際の医療に少なからず貢献することを願って止みません。発行人としてもさることながら,患者の側の一人として。

2003年3月
メディカル・サイエンス・インターナショナル
代表取締役  若松 博

小冊子“ハリソン物語”

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