ハリソン物語

第1版 1950年・T.R. Harrison

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ここで,Fishbein が意見を述べた。JAMA の編集長としての経験から,自分は,執筆者として締め切りを守ってくれそうなのは誰で,そうでなさそうなのは誰であるかを知っている。自分はまた,きちんと推敲した原稿を提出してくれそうなのは誰で,いい加減な原稿をそのまま提出して編者に多大な負担をかけそうなのは誰であるかも知っている。だから自分は,あなたが他の編者を選び,個々の編者が執筆者を選ぶ際には,なんらかの助言ができるだろう。もちろん,助言を受けた編集主幹や他の編者が,それを受け入れるかどうかは自由である。編者選びに関するすべての最終的な決定はあなたに任されるし,執筆者選びに関するすべての最終的な決定は,あなたが指名した編者に任されるだろう。

それに続くTed Phillips の発言は,私を驚愕させた。彼は,執筆者の選択においては地理的分布への配慮も政治的考慮もしないというあなたのアイディアには心から賛同すると言ったのだ。Fishbeinも同じ意見だった。彼らは,ただ1 つの基準,すなわち,その個人が本の質の高さにどれだけ貢献できるかだけを考慮したいという私の要求を,いとも簡単にのんでしまった。

私は,自分の武器が役に立たなかったことを知った。私は,手堅い売り上げを確保しようとする出版社が,あらゆる医学校から編者や執筆者を選ぶことを強要してくるにちがいないと予想していたのだ。この点で両者の間に妥協できない食い違いが生じれば,それを理由に,あまりにも冒険的な企てから礼儀正しく手を引けるはずだった。実のところ,Fishbein とPhillips が非常に協力的であることや,彼らがどんな本をつくろうとしているかなどが明らかになったことで,参加をしぶる気持ちはだいぶ弱まってきていたのだが,私はまだ,自分が本当にその仕事を引き受けたいのかどうか,確信が持てずにいた。武器庫にはまだ,秘密兵器が隠されていた。これを使えば,どんな出版社も別の編集主幹を探したくなるにちがいない。