ハリソン物語

第4版 1962年・M.M. Wintrobe

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この場で,一般的な内容をもつ章の実用的な価値についての疑問が投げかけられるようになった。「加齢と変性」,「腫瘍形成の基礎」,「金属(電解質)と代謝」などの章は,表題は面白そうだったが,その内容が読まれることはほとんどないように思われた。こうした指摘が出てきた背景には,スペースの問題の深刻化という事情があった。編集チームは,どの話題を取り上げるかという問題のほかに,どの話題を除外するかという問題に頭を悩ませるようになっていたのだ。

スペースの問題は,Adams の章で特に深刻だった。神経学についての彼の知識は百科事典級であったうえ,言葉を惜しまず説明するため,彼の章は長くなることが多かった。Adams の寡黙さは,文章の雄弁さによって補われていたのかもしれない。そのため,議論の多くが神経学の章の長さに集中するという事態になったのだが,議論の成果は乏しかった。チームからの批判に対してAdamsはほとんど反論せず,素直に従うかと思われたのだが,彼が完成させた章はほとんど短くなっていなかったのだ!※1

編集チームは,午前中に仕事をして,午後からの自由時間に市内や田園地帯を散策した。カクテルを楽しみながら夕方近くまで引き続き仕事をすることもあった。夕方に歩道のカフェでシチリア民謡に耳を傾けることもあれば,夜の街に繰り出して,美しい町並みや陽気な人々を飽きることなく眺めることもあった。

※1 訳注:この点についてAdams 自身がどう考えていたかについては,「Adamsの回想」を参照されたい。