ハリソン物語

序文

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『ハリソン内科学(Harrison's Principles of Internal Medicine)』には3つのきわだった側面がある。

第1に,Tinsley Harrisonが確立したユニークな形式が,時代を超えて受け継がれてきたという事実である。実際,初版と最新版(第11版)とを見比べると,その構成は驚くほどよく似ている。Harrisonは,内科学のテキストには病態生理学と症候からのアプロ-チが必要であるという信念を持っていた。私自身も医学生時代から今日に至まで,医学生向けのテキストを飛躍的に向上させたのはこの形式であると考えている。

第2に,編者どうしがオープンに批評し合い,外部の匿名の校閲者にも批評を求めるというシステムの威力である。あらゆる点について校閲者の意見を聞き,編者や執筆者の作業に反映させるという方式は『The Journal of Clinical Investigation』誌のJames Gambleによってはじめられたと言われている。この方式はたちまち多くの雑誌に取り入れられたが,Wintrobeは,テキストの執筆にもこの方式が有効であることに気づき,『ハリソン内科学』初版からこれを採用したのである。以来,歴代の編者は皆,外部批評システムと,編者どうしの交流の両方が,本書の持続的な成長と進化を可能にしたと考えている。もっとも,このような評価システムは,編集チーム内に強い仲間意識があって初めて可能になるもので,そのために快適な環境の中で開かれる「長い打ち合わせ」が非常に役だっている。

第3 に,編集チームと出版者の間には大きな対立が何度もあったにもかかわらず,長い目で見ると悪影響は及んでいないという事実である。実際,「ハリソン組」の誰もが,折りにふれて勃発するこうした戦いを楽しんでいるようにさえ見える。版を重ねるたびにより良い本をつくろうとする不断の努力の正しさは,『ハリソン内科学』の教育的機能と影響力によって裏づけられている。

私は今回,『ハリソン内科学』の累計販売部数が100 万部に達した記念になる資料の作成にあたって初めて,かつての編者が既に作業を進めてくれていたことを知った。最後に,われわれに手を貸してくれた人々や,写真を提供してくれた人々に心からの感謝を捧げる。

J.D. Wilson