1 集中治療の原則 2 心血管系
3 呼吸器系
4 腎・電解質
5 感染症
6 消化器系
7 神経系
8 血液・腫瘍
9 内分泌・栄養
10 外科
11 鎮静・鎮痛・せん妄
12 小児集中治療
13 その他
14 手技
15 終末期・倫理
医療者は一見「謎」のように見える疑問に日々遭遇します。
重症患者を対象にする集中治療では,本で調べたり,ネット検索したりして,じっくり腰を据えて対応を検討するゆとりはなく,即座に判断を下さなければならないことも少なくありません。
「ショックでは体位をTrendelenburg位にすべきか?」(2章)
「人工呼吸管理中に1回換気量が減少してしまったら?」(3章)
「気管切開後2日目にチューブが抜けてしまったら?」(10章)
といった謎にもすぐに対応できるよう準備しておきたいところです。
さまざまな病態による重症患者を対象にするため,内科・外科・産婦人科・小児科・救急など,診療科を問わず,幅広い知識を要求されることも集中治療の特色です。
「血液培養の1セットだけから表皮ブドウ球菌が検出されたら? 黄色ブドウ球菌では? カンジダ属だったら?」(5章)
「胸部X線で見えないような小さい気胸がある外傷患者に人工呼吸が必要な場合,胸腔チューブを入れるべきか?」(10章)
「小児患者に輸液を開始するときには1号液を使うべきか?」(12章)
「妊婦が心停止した場合に特有の処置とは?」(13章)
「低体温患者の死亡確認の前に行うべきことは?」(13章)
といった謎への判断が適切でなければ,重症患者がさらに重症化してしまうかもしれません。
集中治療では重症疾患の治療を行っている間,血栓症や感染症の予防,栄養管理,鎮静などの補助的治療を行います。また,手技が必要になることも少なくありません。
「日本人でもルーチンに静脈血栓症予防が必要か?」(3章)
「胃内残量が200 mlだったら経管栄養を中止すべきか?」(9章)
「なぜ鎮静プロトコールが必要か?」(11章)
「左右の内頸静脈ではどちらのほうがラインを入れやすい?」(14章)
といった謎に答えられるでしょうか?
生死にかかわる病態を扱う集中治療では,終末期医療や倫理についても理解しておく必要があります。
「生命維持治療の差し控えと中止は違うのか?」(15章)
「無益な治療を患者や家族が要求したらどうしたらよいか?」(15章)
といった謎に対して自分なりの答えがなければ,死に臨む患者やその家族との対話は難しくなります。
本書は集中治療で遭遇するさまざまな「謎」から,「ぜひこれは知っておいてほしい」と考える内容を厳選したものです。それぞれの謎に対して,各分野の専門家が病態生理やエビデンス,豊富な臨床経験の限りを尽くして回答していますので,「謎解き」というよりは「コツ」や「極意」,「匠の技」といったほうが適切なのかもしれません。
それぞれの謎に対する答えは短く,当直の合間にでもすぐ読める分量にまとまっていますが,読みやすさとお手軽さは同じではありません。短くても内容は骨太なので,読み進めるうちに付け焼き刃でないまとまった知識と考え方が身につくのを実感できるでしょう。また,熱心な読者のため代表的な文献を参考として添付していますので,それぞれの謎についてさらに知識を深めることも可能です。
「本当に999問もあるの?」と思われた方,ご心配無用です。兄貴分の「感染症999の謎」をスタイルを踏襲して(?),本書には999問を超える数の謎が掲載されています。各執筆者による原稿が力のこもった良問揃いだったため,編集担当の私が999問に絞りきれなかった原因ですが,おかげで期待を上回る充実した内容に仕上がっています。
「感染症999の謎」同様に,本書の謎はA,B,Cにランク分けしてあります。集中治療初心者の学生や研修医は,まずAで基本知識を身につけ,少し自信がついてくればBでさらに理解を深め,トリビア的な知識まで仕入れて回診や飲み会のネタにしたい人はCまで読むという使い方もできますし,興味のある章をAからCまで通して読むことで体系的に知識を身につけることもできます。
同じ謎を別々の執筆者が重複して扱っているところもありますが,それぞれの考え方を対比させるため編集の判断であえて残してあります。呼吸器科医と外科医,感染症医と集中治療医,成人と小児の間で考え方がどう違うのか,あるいはどのように類似しているのかも読み比べるとさらに理解がふくらむのではないでしょうか。
集中治療というと,ICUという限られた場所で,普段お目にかからないような摩訶不思議な特効薬や特殊な器械を使って,急変の対応に追われながら医療を行っているようなイメージがあるかもしれません。しかし,集中治療はICUでのみ行うわけではありません。重症患者がいるところではその場に応じた集中治療が必要になり,集中治療の専門家でなくても急性期の対応をしなければならないことが多々あります。また,特殊なことをするのが集中治療ではありません。普段から行っている医療をより徹底して行う重要性が本書から伝わると信じています。
急変に対応するばかりが集中治療でもありません。
「ICUで『急変』は起こるのか?」(1章)
にあるように,集中治療で最も重要なのは,適切にモニタリングして,適時に介入することで,重症患者がさらに重症化するのを未然に防ぐことです。
それぞれの場所で,普段の知識を最大限に活かして,急変を未然に防ぐような集中治療を行うのに,本書が一助になれば幸いです。
2018-05-28
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
28ページ表2−1
(誤)循環血液量の心拍出量 ↑
(正)循環血液量の心拍出量 ↓
2017-06-12
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
2017-06-01
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
2015-03-12
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
2015-03-11
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
27ページ 2行目
(誤)組織への酸供給の低下を生じ,
(正)組織への酸素供給の低下を生じ,
33ページ 2行目
(誤)FACCTを起点とした
(正)FACTTを起点とした
36ページ 12行目
(誤)低用量ドパミンの利尿交換は経時的に減弱してしまうこと,
(正)低用量ドパミンの利尿効果は経時的に減弱してしまうこと,
133ページ 最下行
(誤)気道内圧またはコンプライアンスに
(正)気道抵抗またはコンプライアンスに
195ページ 下から7行目
(誤)(ほかにCRRT, 血漿変換)
(正)(ほかにCRRT, 血漿交換)
472ページ 下から11行目
(誤)現在Servo-i®にて使用できる。
(正)現在SERVO-U®にて使用できる。
2015-02-16
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
69ページ 表 2-11「欧州心臓病学会が提唱する肺塞栓の重症度分類と定義」内
正しい表は以下のものです。