テイラー先生のクリニカル・パール2 医師ならば知っておくべき意外な事実

備えあれば憂いなし! 臨床直結の匠の至言
米国家庭医療の父、Robert B. Taylorによる、医療過誤を防ぐために知っておきたい、包括的な視点から厳選された全416項目。一読すれば医療現場のさまざまな状況下での必要に応じ、証拠に基づく重要な医学的事実=パールが簡単に記憶の底から引き出せる。臨床各科別・症候別でまとめられた『テイラー先生のクリニカル・パール1』との併読により日常診療に深みが増す。ジェネラリストにも専門医にも効く珠玉の臨床パール集。

¥4,400 税込
原著タイトル
Essential Medical Facts Every Clinician Should Know : To Prevent Medical Errors, Pass Board Examinations and Provide Informed Patient Care
監訳: 小泉俊三 東光会 七条診療所(京都)所長/佐賀大学 名誉教授 吉村 学 宮崎大学医学部 地域医療・総合診療医学講座 教授
ISBN
978-4-89592-832-8
判型/ページ数/図・写真
A5変 頁336
刊行年月
2015/11/30
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1 医学の事実,過誤,そして本書
2 現代医療に残る誤解に物申す
3 疫学が示す現実とアッと驚く事実
4 疾患の予防とスクリーニング
5 危険因子と疾病相関
6 現場で役立つクリニカル・パール
7 検査,心電図,画像診断
8 警告症状と危険信号
9 治療に役立つ洞察力
10 薬物の特異的反応と予期せぬ効果
11 薬物の相互作用と多剤併用の冒険
12 アルコール,ニコチン,カフェイン
13 思いもよらず,直観にも反するが,そうかもしれないこと
14 医療に関する不朽の真実
付録 医師のための統計用語集

監訳者序

今年5月に刊行された『診断にいたる道筋とその道しるべ』(Diagnostic Principles and Applications - Avoiding Medical Errors, Passing Board Exams, and Providing Informed Patient Care)に引き続いて,姉妹編の『医師ならば知っておくべき意外な事実』(Essential Medical Facts Every Clinician Should Know - To Prevent Medical Errors, Pass Board Examinations and Provide Informed Patient Care)を上梓する運びとなりました。
 同じくRobert B. Taylor博士の名を冠した『テイラー10分間鑑別診断マニュアル』を併せると,これで,米国で評判の高い「テイラー本」が,計3冊邦訳されたことになります。『10分間鑑別診断マニュアル』は,忙しい初診外来担当の総合診療医にとって手許に置いておきたい鑑別診断の手引書,『診断にいたる道筋とその道しるべ』は,鑑別診断に欠かせない症状・臓器系統別の最新エビデンス集でしたが,本書は,まさに「パール(珠玉の名言)集」の名にふさわしいTaylor博士からのメッセージ集となっています。
 その視野は,疫学,国際保健領域にも広がり,すべての臨床医に知っていてほしい,とTaylor先生が厳選した括目すべき臨床研究の結果が計416項目にまとめられています。「パール」というと,熟達の臨床家の体験から直観的に生まれるフレーズととらえられがちですが,本書には直観とは相容れない「パール」についての章を含め,項目ごとに根拠文献とその概要についての解説が,臨床医の視点で加えられていて,まさしくEBM(evidence-based medicine)の理念が最良の形で活きているといえます。それに加えて本書を魅力的にしているのは,各パールの解説の下に加えられたTaylor先生のコメントです。数十年にわたって米国家庭医療をリードしてきたTaylor先生の面目躍如,健全な批判精神が脈々と伝わってきます。
 近年,「総合診療」が日本専門医機構の19番目の基本診療科として注目されていますが,高齢社会の到来とともに,医療提供の基本形も,単一疾患に対する医療資源集中型の急性期入院診療モデルから,高齢者の健康ニーズにもとづき地域コミュニティーで多職種の医療職チームによってシームレスに展開されるケア・サイクル型地域包括ケアモデルへと大きく転換しつつあります。私たちの日常診療においても,ついつい自分の得意領域だけに関心の的を絞りたくなりますが,臨床の現場では,いつ,どのような場で,どのような患者さんのどのような問題に遭遇するかわかりません。臓器ベースの専門診療を担う医師も,より広い視野に立って患者に向き合わないと有効な癒し手として機能することが叶わない時代に入っているのです。その意味で,すべての臨床医に日々の診療について振り返ることを呼び掛ける本書は,タイムリーな啓発書となっていますが,私たちが慣習的に行っている診療行為が,広い視野から見れば,必ずしも有用でないことを示す提言が数多く含まれているのも本書の特徴の1つです。
 高価な最新技術も,患者の臨床アウトカムに寄与しなければ低価値医療(low value medicine)とみなさざるを得ません。近年,過剰診断(over-diagnosis)についての国際カンファレンスや,米国で2011年に始まり,カナダ,欧州,アジア太平洋へと拡がり,わが国でも若手ジェネラリストを中心に急速に関心が高まっている“Choosing Wisely(賢明な選択)”キャンペーンなど,世界的に,私たちが提供する医療の「質」を問う真摯な動きが良心的医療人の間で広がっています。私たちの診療行為が過剰に傾きがちな理由には,出来高払いの診療報酬支払制度,医療訴訟への危惧,コンサルトにあたって専門診療科から求められる,研修医時代からの刷り込みなど,いくつもありますが,高価な検査や最新の画像診断を受けたいという患者からのリクエストも大きく影響しています。また,私たち自身,いったん稀な疾患を想起してしまうと,つい,見逃しを避けたいという心理に押されて多くの検査を実施してしまいがちです。
 本書には,このような過剰な医療を戒める「パール」も少なからず含まれています。まず,本書を一読していただき,そのうちのいくつかが皆さんの記憶に残り,皆さんが,時に過剰な患者さんの要求に直面した際に,医師としての原点に立ち返り,対話を通じて賢明な選択に至るための一助となれば幸いです。
 翻訳については,文意が素直に伝わることを心がけ,監訳者の責任で文体や表現を統一しました。専門用語については,姉妹書と同様,『ハリソン内科学』日本語版やわが国の専門学会が採用している用語を基本としました。読者の皆さんでお気付きのことがあれば,遠慮なく監訳者までご連絡ください。
 最後になりましたが,翻訳作業を担当された先生方と,制作にご尽力いただいたメディカル・サイエンス・インターナショナル編集部に深甚の謝意を表します。

2015年11月
東光会 七条診療所(京都)所長 / 佐賀大学 名誉教授
小泉 俊三



序文

一人前の医療を行うのに必要な知識のベースは,医学教科書,生涯教育プログラム,参考文献類から得られる。この本は,あなたがさらに一味違う医師になるために知っておかねばならないことを提供している。本書を読むことで,誤診と治療の失敗を防ぐうえで役立つ,基礎教育にまさる医学のちょっとした知識が得られる。結局のところ,疾患の型と患者管理の原則に習熟しなければよい医師にはなれない。しかし,それだけでは足りない。個々別々の医学的事実を集積した備蓄倉庫も必要なのだ。本書に収めた重要な医学的事実を知っていれば,薬物療法にひそむたくさんの地雷(例えばキノロン系抗菌薬投与後にたまに起こるアキレス腱炎や腱断裂など)のいくつかは回避できる。
 30年以上にわたって医学書を執筆し,編集をしてきたが,時間のほとんどを(重さで言うと1冊あたり10ポンドになろうかという)膨大な参考資料をまとめることに費やした。こんな編集方法はいまや時代錯誤である。今では疑問の答えは,オンライン上で時宜を得た情報が手に入るし,索引を引いて分厚く重い本のページをめくるよりそのほうがずっと早い。しかし,医学のウェブ情報源(有料サイトやPubMed)も,どのように検索したらよいかわからないと期待する答えに行き当たらないこともある。そんなときはこの本を開いてほしい。事実を集めた本書は,こまごまとした情報の抜粋からなり,その事実は読者の皆さんのメモリーバンクである宝庫に収めておくべきもので,医学文献のどこかに書かれてはいるが,見ようとしなければそこに隠されたままのものである。医学的な事実を発見して集めるために必要なのは,答えが書き込まれている本ではなく,役者にせりふを思い出させるように,それを得るきっかけを与えてくれる本だ。本書はまさにそのような興味ある話題を集めた,局所に効く“topical book”である。
 では,あなたにこの本は必要だろうか? 下の問いに答えてみてもらえれば,それがわかる。

●スマトリプタンなどの5-ヒドロキシトリプタミン受容体作動薬で治療してはならないのは,どんなタイプの片頭痛か?
●長距離ランナーに貧血を認めたら,何を疑わなければならないか?
●INR(国際標準比)を低下させて,ワルファリンの抗凝固作用を阻害するハーブ療法は何か?
●下肢の痛みの原因として,脊柱管狭窄による神経性の跛行と血管性の跛行を鑑別するのに役立つ手がかりは何か?
●12歳未満の小児に鼻ポリープを認めたら,どんな疾患を疑わねばならないか?
●よく用いられる抗てんかん薬で,子宮内曝露があった場合に3歳の時点で認知機能障害のリスクが高まるのはどの薬物か?
●眼部帯状疱疹を早期診断する手がかりは何か?

 7つの質問の大半に答えられなかったら,この本を読み終えるまでは,患者の診察は控えていただきたい。
 この本を必要とするのは誰だろうか? 専門が何であろうと,あなたはまず第一に医師であり,当然のことに幅広い知識と技能を身に付けているはずだ。われわれは誰しも,教育期間中のいつの時点でか,医学のなかで関心の的となるものを(それが外科,精神医学,消化器病学,老年医学,スポーツ医学その他,何であれ)それぞれが選択する。この本のもくろみは,現在の診療範囲が広かろうと狭かろうと,医療の基本的な統計学的確率と臨床(疾病)相関,根拠にもとづく診断と治療に役立つパール,そして,われわれの専門から外れた情報のように見えても時々は起こる処方薬の厄介な副作用について,誰もが知っている必要があることを思い出させることである。
 罹患している病気は1つだけで,好都合なことに障害されているのはたった1つの臓器か単一の組織系という患者は珍しい。そんな手ごわい医療の現実があるから,専門領域に限定されない幅広い知識が必要なのである。そして,あなたのお得意の臓器や組織系,習熟している領域ではないとしても,患者の「他の」病気を知ることは,首尾よく診断と治療を行ううえで欠かせない。
 多くの引用文献を載せたという点では,本書で述べた事実は証拠にもとづいている。取り上げた項目の多くは単一の臨床試験やメタ分析の結果であるが,なかには,総説であったり,意見の一致をみていないものや,警告情報によるものも少しはあることは承知している。しかし,そんなことは問題ではない。この本で述べたことを,ポストイット(付箋紙)のようにあなたの記憶に貼り付けてほしい。そうすれば,重要な臨床所見を見落しそうになったり,投薬ミスを起こしそうなときに,あなたに警告してくれるだろう。
 それぞれの事実とその根拠となった研究について述べるだけでなく,その下に私の編集コメントをつけてある。このように注釈を加えることで,報告された事実が理解しやすくなり,のちのちそんな場面に出会ったときに思い出せるようにした。また,医学書だからといって無味乾燥で退屈である必要はないので,場合によっては,紹介した事実にまつわるお気に入りの格言や歴史上の出来事についてコメントしている。守秘義務があるので,病歴中の名前や事実関係については念のために手を加えてある。
 本文の各章で述べるそれぞれの事実の収載順には,これといった原則はない。そこには2つの理由がある。まず,ほとんどの章で,データの並べ方に必然性があるとは考えられなかった。頭痛に関する事実を肥満の記事の前におくか後におくかに,あるいは,ある診断パールを別の診断パールの前におくのに,どんな必然性があるだろうか。第2に,疲労患者を診た後は腰痛患者,その次は皮疹の患者,というように,臨床的な問題を抱えた患者はランダムに現れるからである。
 この“topical book”は,どのように使ったらよいだろうか? 「スピードラーニング」の練習だと考えてほしい。よくある医学のリファレンス本とは違い,本書を最初から最後まで通して読まれることを私はお勧めする。そして,診療所や病院で,記憶を呼び起こさねばならなくなったら,先に述べたポストイットの譬えを思い出してほしい。本書はリファレンス本としても使えるので,索引でトピックを探し,本文にあたることができる。引用文献からオンラインで元の論文を調べられるので,あなたの関心事の文献情報を更新できる。ちょっと検索するだけで深刻な医療過誤が避けられるとしたら,やってみる甲斐があるだろう。
 本書を手に取っていただいたことにお礼申し上げる。あなたが今後,知っておくべき意外な事実に出くわすことがあったら,私宛てに電子メールをくださるとありがたい。ついでに言っておくと,上に挙げた7つの問題の答えは本書の中にある。索引を引けばすぐに見つかるが,もちろん全章を通してお読みいただいてもよい。

オレゴン州ポートランドにて
Robert B. Taylor



2015-12-04

[追加情報] 186ページ パールNo.280「バルサルタンによる高血圧治療は,心血管イベントを抑制するかもしれない」の文献についての補足

(文献) 1. Sawada T, Yamada H, Dahlof B, et al. Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART Study. Eur Heart J. 2009;30(20):2461-2469.
(追加情報) 監訳者注:このパールの根拠となった文献については,「報告されたデータに重大な問題がある」として,European Heart Journalはこの論文を2013年2月に撤回している。

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