『LiSAコレクション 超音波ガイド下末梢神経ブロック 実践24症例』に続く第2弾。末梢神経ブロックの選択肢は年々増加している。前書で好評を博した、症例を提示し、臨床の流れに沿って術前評価から麻酔計画、ブロック手技の実際まで、押さえるべきポイントをまとめる構成はそのままに、新しい手技を盛り込んだ25症例を全面書き下ろし。前書との併読で、末梢神経ブロックを活用した麻酔管理の実践力がさらに高まる。
はじめに
本書で扱う症例と施行するブロック一覧
総論
1 なぜ今,神経ブロックなのか
手術の「方便」から周術期チームの「基本的要素」への道
2 抗血栓療法と神経ブロック
抗血栓薬の薬理学的特性と神経ブロックの出血性合併症にもとづいて判断する
3 末梢神経ブロックと安全対策
そのブロック,間違えていませんか?
4 腰神経叢ブロック再考
胸腰筋膜との関係を含めて
5 脊柱管の超音波解剖と臨床への応用
プレスキャンによる質の担保
6 小児の術後鎮痛法と末梢神経ブロック
マルチモーダル鎮痛を行おう
7 末梢神経ブロックにおけるトリプルガイダンス
超音波画像,神経刺激に加えて,注入圧も重要な情報源!!
コラム1 超音波装置に針強調技術
針が光って見えるってホント?!
8 神経ブロック針とその描出
安全に神経ブロックを行うために,もういちど見直してほしい
コラム2 catheter-over-needle
持続末梢神経ブロック革命
症例検討
section1 頭頸部
ミニ解説1 頭頸部の神経ブロック
頭頸部で可能な超音波ガイド下神経ブロック
症例1 下顎骨部分切除と頸部廓清術
超音波ガイド下による下顎神経ブロックと深頸神経叢ブロックの実際
コラム3 欧州区域麻酔学会(ESRA)の専門医制度
チームで勝ち取った3年間の軌跡
section2 上肢
ミニ解説2 腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチの注意点
超音波時代において,神経刺激はもう必要ないのか?
症例2 肩関節手術
持続腕神経叢ブロックとデクスメデトミジン鎮静で,患者満足度の高い早期離床を実現する
症例3 肩関節腱板修復術
ステロイドを局所麻酔薬に添加すると腕神経叢ブロックの鎮痛時間が延長する!
症例4 鎖骨骨折の観血的プレート固定術
最小限の局所麻酔薬と効果範囲で,最大限の満足を
症例5 頸髄損傷患者に対する肩関節手術
横隔神経麻痺を回避して肩関節の鎮痛を得る
症例6 肘骨折に対する骨接合術
肘周囲の手術には鎖骨上アプローチが第一選択
症例7 選択的知覚神経ブロックによる腱移植術および手関節形成術
覚醒下で動源となる筋収縮と腱張力を術中に確認し,確実な手指機能の再建を行う
section3 下肢
ミニ解説3 内転筋管ブロック
選択的神経ブロックの進化と深化
ミニ解説4 膝関節局所浸潤麻酔
局所浸潤麻酔の現状と,これからの課題
症例8 大腿骨頸部骨折
高リスク患者に対する神経ブロック:難題に立ち向かい早期リハビリテーションを目指す
症例9 人工膝関節置換術1
持続大腿神経ブロックと関節内浸潤麻酔で脱硬膜外麻酔を目指す
症例10 人工膝関節置換術2
強力な鎮痛と運動機能の温存の両方を目指す
症例11 前十字靭帯再建術
リハビリテーションの早期開始による現役への早期復帰をねらった麻酔管理
症例12 足関節骨折
健肢の筋力を保持したまま患肢の持続疼痛管理を行う
section4 体幹
ミニ解説5 腹横筋膜面ブロック
広範囲の鎮痛を確実に得るためには
コラム4 創部浸潤麻酔
術後鎮痛法の一つとして,今後,発展が期待される
ミニ解説6 胸筋神経(PECS)ブロック
乳癌手術の術後鎮痛に広がりつつある
症例13 悪性胸膜中皮腫の胸膜切除/肺剥皮術
集学的治療とマルチモーダル鎮痛で管理する
症例14 乳癌手術1
局所麻酔薬を最大限利用して,患者の満足度向上を目指す
症例15 乳癌手術2
術後鎮痛には,簡便なPECSブロックを
症例16 経カテーテル的大動脈弁留置術の心尖アプローチ
積極的な術後鎮痛で早期回復に貢献する
症例17 腹腔鏡補助下胃全摘術
肋骨弓の外側で手術創に妨げられずにブロックを実施
症例18 開腹胆摘出術
腹腔鏡下手術から開腹術に変更になっても,臨機応変にブロックを追加する
症例19 卵巣癌に対する婦人科開腹手術
うまく使えば硬膜外麻酔に勝るとも劣らない方法
症例20 腹腔鏡下子宮全摘術
腹横筋起始部から中枢側へアプローチして,よりよい鎮痛効果を狙う
症例21 病的肥満妊婦の帝王切開術に対する脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔
病的肥満患者であっても,確実に穿刺し,全身麻酔を回避する
section5 小児
症例22 腹腔鏡下虫垂切除術
子どもの快適な術後のために
症例23 臍ヘルニア根治術
日帰り手術には超音波ガイド下腹直筋鞘ブロックを第一選択に
症例24 鼠径ヘルニア根治術
日帰り手術を妨げる症状を予防する
症例25 新生児の動脈管開存症
より少ない麻薬使用量で,より効果的な周術期管理を
はじめに
超音波ガイド下末梢神経ブロックの新たな世界へ
2013年に上梓した「超音波ガイド下末梢神経ブロック実践24症例」は,症例にもとづく超音波ガイド下末梢神経ブロックの実践書として評価を得ることができた。これは,神経ブロックの実践にはテクニックだけでなく,ブロックを活用する麻酔管理全体を知らなければならないという編者の考えが多くの読者に理解されたものと考えている。
しかし,神経ブロックの領域の進歩は早く,ここ数年の新しい知見についての追加が必要となりつつある。新しい概念の神経ブロック法の登場と機材の進歩は,より幅広い症例に神経ブロックの適応を拡大した。そこで前作の改訂ではなく,2作目の新たな書籍として本書を企画した。
本書では,前作と同じ症例に対しても異なるアプローチが試みられているもの,新たに適応となった症例,さらに小児麻酔での応用を採用した。したがって,前作と合わせると計49症例を取り上げることとなり,幅広い麻酔管理をカバーできるようになった。前作と本書でアプローチが変わったとしても,決して前作の内容が時代遅れになったわけではない。さまざまな方法の中から自分にあったアプローチを探してもらいたい。
さらに,近年の末梢神経ブロックのトピックを総説,ミニ解説,コラムにまとめた。これらからお読みいただくと,症例検討のセクションが理解しやすいのではないかと考えている。
麻酔管理には絶対的な正解はない。ベストな方法を求めて日々研鑽を重ねていくのが麻酔科医としての責務である。末梢神経ブロックの普及が日本の麻酔管理の質を向上したのは間違いないが,さらにレベルの高い麻酔管理の実践のために本書が役立つことを希望している。
最後に,本書の発行に当たり多大なご協力を賜ったメディカル・サイエンス・インターナショナルの江田幸子,金子史絵の両氏にこころから感謝します。
2016年4月
満開の桜の季節に
森本 康裕