オンコネフロロジー - がんと腎臓病学・腎疾患と腫瘍学 -

腎臓とがんは深い関わりがある
新たな腎臓病学の領域として注目される「オンコネフロロジー」をテーマとした本邦初のテキスト。腎障害をもつ患者のがん治療、がん化学療法にともなう腎障害、腎疾患に関連したがんなど、腎臓とがんのかかわりに関するトピックや研究の進展を紐解く。がん患者の急性腎障害や慢性腎臓病をはじめとして、症例を提示しながら相互に絡む腎臓とがんへの対処法を解説。
¥8,580 税込
原著タイトル
Onconephrology: Cancer, Chemotherapy and the Kidney
監訳:和田 健彦 東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科准教授 訳: 井上 美貴 前がん研有明病院総合診療部副医長 翻訳協力: 中山 耕之介 がん研有明病院総合診療部部長 湯浅 健 がん研有明病院泌尿器科担当副部長
ISBN
978-4-89592-880-9
判型/ページ数/図・写真
A5変 頁412 図22・写真6
刊行年月
2017/3/30
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第1章 癌患者の急性腎障害
第2章 癌患者における慢性腎臓病(CKD)
第3章 固形腫瘍や血液学的悪性腫瘍でみられる糸球体疾患
第4章 化学療法に使用される薬物の腎毒性
第5章 生物学的癌治療と腎臓
第6章 腎不全患者に対する合理的な化学療法薬投与方法
第7章 癌患者の電解質異常
第8章 腫瘍崩壊症候群
第9章 腎細胞癌の外科的・内科的管理
第10章 腎細胞癌と慢性腎臓病
第11章 造血幹細胞移植後の腎疾患
第12章 放射線腎症
第13章 異常蛋白血症と腎疾患
第14章 アミロイドーシス
第15章 癌患者における閉塞性腎疾患
第16章 腎移植患者の癌
第17章 癌,緩和ケアと急性腎障害:透析を推奨するかどうかという難しい決断

監訳者序文

 「オンコネフロロジー(onconephrology)」とは腎臓病学のなかでも新しい学問領域であり,あらゆる悪性腫瘍の病態や治療に関連して生じる腎障害,あるいは悪性腫瘍を合併した腎障害患者に対してより良いケアを提供することを目的として生まれてきた.
 2011年に米国腎臓学会総会において,この領域に関するフォーラムが初めて開催され,わが国においても2016年に日本腎臓学会学術総会においてシンポジウムが開かれるなど,腎臓病学のサブスペシャルティとしての位置づけがより明確になりつつある.
 そもそも腎臓病に関わる医師も悪性腫瘍治療に関わる医師も,古くから悪性腫瘍患者の一部に腎障害が合併することや悪性腫瘍に対する治療に関連して腎機能障害が発症・増悪することを認識しており,実際,腎臓内科の日常臨床において悪性腫瘍患者に関するコンサルテーションを受けることは非常に多い.
 それでは,新しい学問領域・サブスペシャルティとしての枠組みができることにどのような意味があるのだろうか? それは,おそらく基礎研究・臨床研究におけるテーマとして明確な動機づけになるのを助けると同時に,あらゆる領域の医師が協力体制を構築するのに重要な意味を与えることだろうと考える.悪性腫瘍合併腎障害患者の診療を発展させるためには,臨床・研究ともに,悪性腫瘍臨床を専門とする医師や腫瘍学のさまざまな領域の研究者と協力して事を進めることは不可欠である.また,腎臓病学・腫瘍学共に,特に研究面では分野が高度に専門分化し,個々の研究者の守備範囲が細分化される傾向にあるなか,オンコネフロロジーではこれらの分野のさまざまな知識を横断的に動員する必要がある.
 このように考えると,本書のように教科書としてまとめて出版された意味は大きい.「編者の紹介」のページで詳しく紹介されているように,本書の編者であるDr. Jhaveriは,教育者としてその地位を確立しつつあるnephrologistでもある.このことを反映して,本書ではオンコネフロロジーのあらゆる領域がカバーされ,症例を提示しながらそれぞれのポイントがわかりやすく解説されている.
 本書の翻訳は,がん研有明病院総合診療部で多くの悪性腫瘍合併腎障害患者を診療し,オンコネフロロジーを実践してきた井上美貴先生の発案によるものである.井上先生が一次翻訳を担当し,一部を同部部長の中山耕之介先生にサポートしていただいた.泌尿器科分野については,同院泌尿器科担当副部長の湯浅健先生にご助言をいただいた.また,メディカル・サイエンス・インターナショナルの藤堂保行氏による企画の段階からの献身的なご協力なしにこの翻訳は実現しなかった.
 結びに,本書がオンコネフロロジーに関わるすべての医療従事者・研究者の良い手引き書となり,より良い診療・患者ケアに少しでも貢献することを切に願っている.

2017年2月
和田 健彦





原著序文

 まず,これまでにさまざまな素晴らしい機会,家族,友人,教師や指導者に恵まれた幸運に感謝する.私はインドの南のKeralaのTrivandrum Medical Schoolを卒業し,80 年代前期にDavid Kerr教授とRobert Wilkinson教授の下,英国のUniversity of Newcastle upon Tyneで臨床および研究の初期トレーニングを受けた.次いで,Thomas Hostetter教授とKarl Nath教授の下,University of Minnesotaで臨床および研究のトレーニング(実験室での研究を含む)を受けた.90年代,University of Mississippi Medical CenterにおいてJohn Bower教授の下で技術を磨き,研究者,教育者,臨床医としての立場を確立することができた.2006年,腎臓病学領域のチーフとしてUniversity of Texas MD Anderson Cancer Centerに異動したが,そこで癌患者における腎臓の問題に対処するため初めて正式に設置されることになった部門の立ち上げに従事することになった.この仕事を始めてすぐに,癌患者で認められる腎臓の問題は,特殊かつ重大であることを認識することになった.このことにより,私は米国で初めて癌患者治療に関わる腎臓学者のためのオンコネフロロジーフォーラムを作ることになったが,これは米国腎臓学会(ASN)の理事長であるHarvard Medical School のJoseph Bonventre教授のサポートにより2011年にASNの正式な団体オンコネフロロジーフォーラム(ONF)となった.
 幸いなことに,最初の会合で,本書の共同編集者となるHofstra North ShoreLIJ医学部の准教授Dr Kenar Jhaveriと出会うことができた.彼はMemorial Sloan Kettering Cancer Hospitalで癌関連の腎疾患に関するトレーニングを受け,オンコネフロロジーについて熱意をもち,その重要性を確信していた.実際,オンコネフロロジーは学問,トレーニング,研究,患者治療の改善に関わる新たな腎臓学の領域として注目されるようになっている.ここに,オンコネフロロジーの発展に貢献し,関与し続けた多くの腎臓学者と科学者に感謝する.

Abdulla K. Salahudeen, MD, MBA, FRCP





序論

オンコネフロロジー:腎疾患を合併する癌患者のケア

 癌は主要な死因の1つであり,世界的に急速に広がっている.腎疾患を合併した癌患者の死亡率や重症度は高く,予後はより不良である.オンコネフロロジーは,癌患者にみられる腎臓に関する複雑な問題を理解し,対処するための専門分野である.米国腎臓学会(ASN)は2010年にオンコネフロロジーフォーラム(ONF)を創設し,この新しいサブスペシャリティ分野の成長と発展の舞台を用意した.米国の主要な癌センターは,腎臓病学トレーニングの一部としてオンコネフロロジーのフォローシップを開始した.
 血液内科医や腫瘍医と緊密に連携して癌患者のケアにあたる腎臓内科医はオンコネフロロジストと呼ばれる.
 急性および慢性の腎機能障害は,癌患者で非常に高頻度にみられる.癌患者での急性腎障害を防ぐためには学ばなければならないことが多い.また,慢性腎臓病(CKD)と癌は,さまざまな点でつながりがある.癌によってCKDや末期腎臓病(ESKD)が生じるだけでなく,CKDが存在すること自体も癌に関連がある.本書では,Olabisiらが癌患者における急性腎障害の原因について執筆し,SachdevaらがCKDと癌の関連について総括している.さらに,癌患者のCKDにおける貧血,骨疾患や高血圧をいかに管理するかについても詳しく述べる.
 オンコネフロロジーには,血液腫瘍,固形癌および腎臓に影響を与える治療関連の合併症が含まれる.通常の腎臓病学と異なり,オンコネフロロジーにはいくつか特徴的な側面がある.オンコネフロロジーは,腎臓病学の歴史のマイルストーンとなるもの,すなわち,腎臓病学的な考え方の変化を表すものといえる.
 一般集団と比較して,腫瘍患者における体液と電解質異常には重要かつ特徴的なポイントがある.本書では,Latchaが癌患者で遭遇する電解質異常のすべてについて,Gilbertらが腫瘍崩壊症候群の診断と処置について詳しく述べている.また,癌のなかにはさまざまな糸球体疾患と関連するものがある.Shah は,膜性腎症が今でも固形腫瘍患者で最も高頻度に認められる糸球体病理像であることに関連した議論を展開している.いくつかの報告と文献の研究から,癌を治療することによって糸球体疾患が改善することが報告されている.また,悪性疾患の治療には化学療法薬が極めて重要であるが,化学療法薬には腎毒性などの疾患重症度や死亡率に重大な影響を及ぼしうるような副作用がある.CKDやESKDの患者にこれらの薬物を使用する際は,用量の調整が不可欠である.ValikaらとOlyaeiらがこの非常に重要な2つのテーマについて執筆している.多くの癌に対する優れた化学療法薬として新たに生まれた分子標的治療薬は,特異性が高く極めて強力な作用を発揮するが,分子標的治療による腎毒性も広く認識されるようになっている.Humphreysは,腎毒性がしばしば累積的に生じること,高用量または長期間にわたる治療は腎障害のリスクを増すことを説明している.新しい薬物が次々に市場に出てくるが,その毒性について用心深くなければならない.
 癌患者の腎疾患から学ばなければならないことは多い.電解質異常・腫瘍崩壊症候群・急性腫瘍随伴糸球体疾患・放射線腎症などから,膨大な量の臨床的専門知識や理解しておくべき情報が得られる.加えて,この分野の腎臓病学の研究はまだ遅れをとっている実情がある.
 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplant:HSCT)は,ある領域の腫瘍性疾患において唯一の根治療法となっている.HSCT関連の腎合併症は,この集団における重症化・死亡の原因として重要な位置を占めている.Wanchooらは,血液内科医と腎臓内科医にとってHSCT後のさまざまな腎毒性を理解することが重要であると述べている.そのほか,Glezermanによる放射線腎症に関する章もある.
 ここ10年以上の間,単クローン性蛋白についての検査方法は進歩しており,単クローン性ガンマグロブリン血症と腎疾患の関係に関する理解も深まってきている.Leungらは,意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined signifi cance:MGUS)から骨髄腫まで,あらゆる形質細胞異常増殖症が腎障害と関連すると述べている.まずは単クローン性ガンマグロブリン血症と腎障害との関連を確認することが必要であり,治療においてはクローンの除去を目指す.アミロイドーシスは,体のさまざまな組織の細胞外間隙に病的蛋白が沈着するという特徴を有する疾患群である.腎臓がしばしば障害を受けるアミロイドーシスとしては,ALアミロイドーシス,AAアミロイドーシス,数種類の遺伝性アミロイドーシスがある.Hayesらは,これらの疾患の診断と患者ケア改善をもたらした治療法の過去10年の進歩について記載している.
 「癌と腎臓」が注目されるようになったのはEric Cohenが癌と腎臓に関する初めての教科書を出版した2005年にさかのぼる.最近では,癌と腎臓に関連する問題に関するより深い知識と認識を通して患者のケアを向上させることを目的として,2014年に「癌と腎臓に関する国際ネットワーク(Cancer and the Kidney International Network:CKIN)」が組織された.
 また,腎臓内科医の我々は,泌尿器科的な尿路腫瘍学分野の知識や研究成果を十分知っているとはいえないことが多い.Salamiらが腎細胞癌の内科的・外科的治療について,Rosnerは腎摘出術後のCKDについて本書で詳しく説明している.Abudayyehはさまざまな癌で見られる閉塞性尿路疾患について,Sathyanらは腎移植関連の癌に関してレビューしている.最後に,Soniらは腎疾患合併癌患者における緩和ケアの役割について述べている.これは,オンコネフロロジストにとって極めて重要かつ新しい課題である.
 このようなことを背景として,本書のほとんどの章は腎疾患合併癌患者の医療の現場にいる腎臓内科医や血液内科医/腫瘍医によって記述されている.テーマにはよく知られているものもあるが,腎臓内科医の間でほとんど議論されていないテーマもある.本書では症例に基づきながらオンコネフロロジーの分野にアプローチするスタイルを取っている.大部分の章は,オンコネフロロジーに関する最新の文献を参照しつつ読みやすいスタイルで記載してあり,この教科書がオンコネフロロジー分野の初心者ならびにベテランにとって,刺激となり跳躍台となることに期待している.本書の共通試験形式の設問に関する症例ベースのディスカッションによって,読者はテーマについての理解を深められるであろう.我々は「オンコネフロロジー」分野がさらに成長することを願うと同時に,本書を癌と腎障害の合併という非常に難しい状況と戦うすべての患者に捧げる.

Kenar D. Jhaveri, MD
Abdulla K. Salahudeen, MD, MBA, FRCP





前文

 ここ数十年の間に,白血病,リンパ腫,乳癌,前立腺癌,大腸癌などの悪性疾患の治療が大きく前進したことを知らないものはいない.結果として,「癌サバイバー」は1971年の300万人から現在の約1,450万人まで増加した.これは,診断,治療と補助治療の向上によると専門家は考えている.
 血液腫瘍学の分野は指数関数的に進歩し,異常をきたした経路を直接標的とするように設計された生物製剤や小分子化合物が使用されるようになった.これら新しい薬物を使用することにより,全生存率の著明な改善がもたらされたが,一部の薬物は腎毒性を示す.さらに重要なこととして,癌は主に高齢者に発症するため,癌診断時の患者の腎機能は細胞の老化に伴って低下している可能性が高い.癌と診断された患者の1/4で新たに腎機能障害が生じることもあり,腎臓学と腫瘍学が重なり合う難しい分野について理解し,管理するための新たな学問の確立が必要となってきた.近年,「オンコネフロロジー」という分野が認識されるようになったのは,2010年の米国腎臓学会(American Society of Nephrology:ASN)でのオンコネフロロジーフォーラム(Onconephrology Forum:ONF)の設立,また,2014年の癌・腎臓国際ネットワーク(Cancer & the Kidney International Network:ckin.org)の創設によってである.Jhaveriらによる本書『オンコネフロロジー:がんと腎臓病学・腎疾患と腫瘍学』という教科書の刊行は,タイムリーかつ必要なものであった.この新たな学問分野に対して認識が高まることにより,患者のアウトカムの改善が期待される.
 癌患者において急性腎障害が起こる機序としては少なくとも以下の2つが考えられる.すなわち,特定の癌治療に伴う合併症(例えば,腫瘍崩壊症候群,薬剤性腎症,移植関連腎疾患,外科的手技),あるいは腫瘍そのものの影響(例えば,腎細胞癌,転移性あるいは閉塞性腫瘤による解剖学的閉塞,または骨髄腫/アミロイドによる腎障害)である.事実,腎機能障害を有する,あるいは腎機能障害を発症する癌患者では,腎機能障害のない患者よりも予後が悪い.
 真に学際的なアプローチが行われるようになるために最も重要なのは,オンコネフロロジーの教育である.オンコネフロロジーに基づいた治療プログラムを行う医療施設と患者支援グループはますます増えてきている.また,患者が自分自身の状態をよりよく理解し,生存可能性を高めるために,更に詳細な情報と情報源の確保が急務である.

North ShoreLIJ Cancer Institute and
Hofstra North ShoreLIJ School of Medicine,
NewYork, USA
Jacqueline C. Barrientos, MD
Kanti R. Rai, MD

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患者全体を見すえた内科診療のスタンダードを創る!季刊/年4回発行

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