Part 1 がんの基礎知識
1 がんゲノム
2 がんのホールマーク:がん医学を体系化する原理
3 悪性腫瘍診療に使用される分子生物学的手法
4 腫瘍原性ウイルス
5 炎症
6 抗がん剤としてのキナーゼ阻害薬
7 血管新生阻害療法
Part 2 各種がんの分子生物学
8 頭頸部がんの分子生物学
9 肺がんの分子生物学
10 食道がんと胃がんの分子生物学
11 膵がんの分子生物学
12 肝がんの分子生物学
13 大腸がんの分子生物学
14 腎がんの分子生物学
15 膀胱がんの分子生物学
16 前立腺がんの分子生物学
17 婦人科がんの分子生物学
18 乳がんの分子生物学
19 内分泌腫瘍の分子生物学
20 肉腫の分子生物学
21 皮膚悪性黒色腫の分子生物学
22 中枢神経系腫瘍の分子生物学
23 小児がんの分子生物学
24 リンパ腫の分子生物学
25 急性白血病の分子生物学
26 慢性白血病の分子生物学
Part 3 遺伝カウンセリング
27 遺伝カウンセリング
28 乳がんの遺伝学的検査
29 卵巣がんの遺伝学的検査
30 大腸がん(ポリポーシス症候群)の遺伝学的検査
31 大腸がん(非ポリポーシス症候群)の遺伝学的検査
32 子宮体部悪性腫瘍の遺伝学的検査
33 尿路がんの遺伝学的検査
34 膵がんの遺伝学的検査
35 胃がんの遺伝学的検査
36 内分泌系の遺伝学的検査
37 皮膚がんの遺伝学的検査
推薦の言葉
近年のゲノムDNA解読技術の目覚ましい進歩と,それを支えるバイオインフォマティクスの発達によって,がんのゲノム・エピゲノム変化の全体像が明らかになり,その結果,有効な分子標的治療法が次々と臨床の場にもたらされている。本書は,このようながんの最新情報が,海外の一流執筆陣によってコンパクトにまとめられた素晴らしい内容のものであり,がんの研究・臨床にたずさわる者にとって最適の教科書として強く推薦したい。特に今回の改訂では,プレシジョンメディシン時代の到来にあわせてクリニカルシークエンシング,遺伝カウンセリングが大きく取り上げられており,まさに時宜を得たものといえる。
監訳者3名は,1980年代初頭に大学を卒業し,私が教授をつとめた同じ医局に所属して,診療と研究に励んだ仲である。彼らはその後,それぞれが異なる道を歩んできたが,このような形で3人が集うことを心から喜んでいることを述べて,推薦の言葉としたい。
2017年5月1日
日本医学会長 高久史麿
監訳者の序
本書は,Drs. Vincent T. DeVita Jr.,Theodore S. Lawrence,Steven A. Rosenbergの3人の共同編著になる“Cancer: Principles & Practice of Oncology―Primer of the Molecular Biology of Cancer, 2nd edition”〔Lippincott Williams & Wilkins/Wolters Kluwer, 2015〕の翻訳である。第1版は2011年に発刊され,その日本語版を2012年に宮園,石川,間野の3人の監訳でメディカル・サイエンス・インターナショナル社より発刊させていただいた。こうしたベストセラーともいうべき本が4年で改訂されることは欧米ではごく普通のことであるが,2015年に発刊された第2版を手にとって,私たち3人がその大きな改訂に驚き,翻訳もタイムリーに行うことが望ましいということで一致し,第2版日本語版の発刊となった。
がん研究の進展とともにがんの臨床も大きく変わってきたことは最近のマスコミなどでも盛んに紹介されることである。2015年1月に米国のオバマ前大統領が一般教書演説のなかで科学技術に関する新たな政策としてPrecision Medicine Initiativeを提唱したことから,がんの臨床におけるゲノム医学の重要性が大きく注目されるようになった。そうした大きな変化を反映して,本書の第2版もその内容が大きく変わったことは当然と言えるかもしれない。
第2版は「Part 1 がんの基礎知識」ではがんゲノムからがん細胞のシグナル機構,新規の分子標的治療などについて総説されているが,第1版に比べると分量としては3分の2程度にコンパクトにまとめられ,ほとんどの章が新たに書き換えられた。分子生物学の教科書などでカバーされているところは簡潔になった印象がある一方で,「Biology of Cancer」の著者として知られるRobert B. Weinberg博士が「がんのホールマーク」 の章の執筆を担当していることは,第2版にかける編集者の熱意を感じるところである。「Part 2 各種がんの分子生物学」は第1版と同様の構成となっているが,情報はすべて詳細に更新されている。そして,注目すべきは「Part 3 遺伝カウンセリング」が加わったことである。Precision Medicineが今後発展していく過程で遺伝カウンセリングの重要性がますます大きくなることは広く認識されており,こうした動向をいち早く取り入れた構成となったということができよう。
翻訳にあたっては,第1版と同様,各章で扱う分野の最先端の臨床・基礎研究を担う研究者に原稿をお願いし,監訳者間で全体の統一性をはかった。本文のすばらしさは各章を担当された方の努力のたまものであり,至らぬ点があるとすれば,それは監訳者の責任である。
第1版ですでに紹介したが,私たち3名は大学を卒業後,高久史麿先生が主宰されていた内科学教室で血液学を学んだ者である。研究に関しては,高久先生は自由にやらせてくださる先生で,私たちは師匠の背中を見ながら勝手気ままに研究をさせていただいた。その後,それぞれが異なる研究分野に進んだ後,30年後にこのような共同作業に従事できたことは誠にうれしい。恩師の高久先生に厚く感謝するとともに,第1版同様,熱意を持って私たちを引っ張りつつ編集の労をとられた藤川良子氏にお礼を申し上げたい。
2017年5月7日
宮園浩平
石川冬木
間野博行
序文
分子生物学の発展とともに,がんに関するさまざまな知見が得られ,正常細胞が悪性細胞に形質転換する仕組みやがん細胞が示す固有の挙動について,我々の理解は大きく前進した。がん研究のすべての分野が,分子生物学的理解により一変されたといっていいだろう。また,そうした分子レベルの知識は,臨床レベルに応用され,臨床腫瘍学のすべての分野における,予防,スクリーニング,正確な診断,適切な治療法の選択などへ反映されている。分子生物学の発展に伴う知見の蓄積はあまりにも急速なので,それに追いつくのに,研究者も医師もしばしば大変な思いをする。
本書,“Primer of the Molecular Biology of Cancer”第2版は,前版に引き続き,がんの分子生物学に関する基礎的な科学的知識を一冊にまとめたものである。
内容構成は,がんの研究に興味をもつ研究者と,がん患者の治療に大きな影響を与える基礎研究について知りたいと望む腫瘍専門医の双方に有益であろう。各章の執筆は,分子生物学と臨床腫瘍学の最先端の研究者および医師に尽力いただいている。この分野は変化し続けており,そのなかで我々が重要だと感じた点を今版に反映した。Part 1は7つの章からなり,がんの分子生物学の一般的な原理をまとめ,がん細胞の挙動を理解するための基本的な仕組みが理解できるようにしてある。なかでも喜ばしいのは,Hanahan博士とWeinberg博士が担当の章で,その引用されることの多い「がんのホールマーク」に関する研究論文を展開しつつ,さらに内容をアップデートしてくれたことで,これにより膨大な情報が整理され,深い洞察へとまとめられた。Part 2は,前版に続き19の個別のがんについて,分子生物学の最新知識が,がんの臨床やがん患者の管理にどのように影響を与えているかを解説した。そして,今版ではPart 3に,遺伝カウンセリングに関する記述を加筆した。これは我々が,「私の家族はがんが発症する可能性が高いでしょうか?」との質問を,しばしば受けることがきっかけとなっている。遺伝カウンセリングは,がんという病気の科学と患者を結びつけるものでもあり,であるからこそ,このPart 3の11の章は他に代えがたい強みなのである。本書は,我々が編集した包括的な教科書である“Cancer: Principles and Practice of Oncology”から,進展めざましい分子生物学に関する内容を抽出し,補足執筆するとともに,使いやすいようにコンパクトにまとめたものである。