リウマチ性疾患には100以上の疾患が含まれます.関節リウマチ(RA)はそのなかで患者数が最も多い疾患ですが,RAの画像診断を中心に編集された図書は多くありません.RAについてだけでも150頁を越えるResnickによる“Diagnosis of Bone and Joint Disorders”は別格として,骨関節疾患の画像診断に関する図書では,RAは多発関節炎のひとつとして扱われることが多いように思います.
近年,RAの診療は生物学的製剤をはじめとする新しい治療薬の導入により大きく変わりました.骨侵食(erosion)はRAの特徴的な所見ですが,ACR/EULARの新診断基準には含まれていません.これは新基準が骨侵食が生じる前にRAを診断,治療することを目指しているためです.骨侵食はもはやRAの論点ではない,という意見を聞くこともあります.とはいえ,臨床ではMRIにより骨侵食といった構造変化,あるいは骨髄浮腫を捉えることがRAを早期に診断,治療するうえで重要であることに変わりはありません.seronegative RAが疑われる例では,画像診断は重要な役割を果たしています.
近年発表されているRAの画像診断に関する研究の多くはリウマチ医(rheumatologist)により行われてきました.このような経緯から,本書はRAの診療に関わる各領域の医師に役立つように,画像診断だけではなく,画像検査法,鑑別疾患の画像診断,スコアリング,定量的解析についても記述するように努めました.関節炎の単純X線読影,RAの画像所見,RAの分類基準に準拠した鑑別診断については主に杉本が担当しました.各種の検査法,スコアリング,定量的解析については,それにリアルタイムに関わっている神島 保氏が中心となって記述しました.また,進行期RAは外科治療法も含めて,北海道大学医学部整形外科の先生方が執筆しました.
Imaging of Rheumatoid Arthritis: Basic Concept, Differential Diagnosis, and Beyond
これが本書の目指しているところです.
編者の一人(杉本)は30数年前アメリカ中西部にあるMedical College of Wisconsinの放射線科でレジデント教育を受けました.進行期RA症例の単純X線読影に際し,Musculoskeletal radiologyのsection chiefから,Impression: RA,といった読影レポートを書いても何の役にも立たない,と言われてみれば当然のことを教えてもらいました.MRIによるRAの早期診断,滑膜炎の定量化など,その後自分が関わった研究はその言葉に触発されて行われたものです.
本書がRAの診療に関わるすべての皆様の役に立つことを願っています.
2017年8月
編者を代表して 杉本英治