c h a p t e r 1 酸素の供給と消費
c h a p t e r 2 高二酸化炭素許容人工換気法
c h a p t e r 3 重症呼吸不全での7 つのルール
c h a p t e r 4 PEEP,もっとPEEP,最適なPEEP
c h a p t e r 5 重度の気管支攣縮
c h a p t e r 6 腹臥位換気と筋弛緩
c h a p t e r 7 吸入肺血管拡張薬
c h a p t e r 8 VV ECMO
c h a p t e r 9 午前2 時
訳者序文
人工呼吸器の扱いに慣れてきたと思っても,重症患者さんを目の前にするとやはり悩むことが少なくありません。「重症喘息患者の最高気道内圧が高いけど,この設定のままでいいのだろうか?」とか「重症ARDS患者のPaO2が低いのだけど,良くするには何ができるのだろう?」など,臨床現場では疑問が尽きません。
前書『人工呼吸器の本 エッセンス』で基礎を学んで,「さらに人工呼吸管理についての疑問を解決したい!」という方へのWilliam Owens先生からの贈り物が本書です。アドバンスの名にふさわしく,今回は重症患者への人工呼吸管理に重点を置いた内容になっています。さまざまな方法でのPEEP設定や,気管支攣縮へのヘリオックス吸入,重症ARDSへの腹臥位換気と筋弛緩,呼吸不全に右心不全が合併しているときの吸入肺血管拡張薬,人工呼吸器だけでガス交換を保てないときのECMOなど,前書で基礎を学んだ方がさらに詳しく学べるよう,関連するエビデンスと生理学を元に解説しています。
呼吸を含めた重症患者への治療で重要になるのは,やはり生理学の考え方です。前書の「付録:使える知識」で扱っていた呼吸・循環の生理学について,本書ではまず最初にChapter 1で詳しく解説しています。生理学というと無味乾燥で臨床に直結しない印象をお持ちかもしれませんが,ここに示された内容は臨床現場にいる集中治療医が常に頭の中で考えていることで,まさしく生きた生理学です。本書を読めば,ECMOのような治療も生理学と密接に関係しているのもよくわかると思います。エビデンスと生理学の間でバランスを取った診療を,この薄い本の中であますところなく提示しているのが本書の最大の魅力でもあります。
前書から繰り返し強調されているように,人工呼吸器は決して肺を良くする器械ではありません。人工呼吸器でできることは,あくまでも患者さんの肺が良くなるまでの補助をすることです。「重症呼吸不全での7つのルール」(Chapter 3)にあるように「治療的かもしれないが治癒的ではない」(ルール1)のが人工呼吸器です。したがって,「正常値にこだわらない」(ルール3)ようにして「必要以上に患者を傷つけない」(ルール2)ように使います。この原則は重症患者でも変わりません。重症だからといって,めったやたらと何でもやっていいわけではなく,またAdvancedな治療は必ずしも効果が証明されているわけではありません。そのため,さまざまな治療方法を「試してみるのを恐れない」(ルール4)のも大事ではあるのですが,血液ガスの値を良くすることにこだわらず「治療方針を変えないことも恐れない」(ルール5)ようにして,「ポジティブでいる」(ルール7)ほうが患者さんにとって良いこともあります。バランスは大事なのです。
「人工呼吸器の本」シリーズの特徴は,忙しい診療の間の限られた時間で読めて,必要な情報が手に入ることです。今回もまたさくっと読んで使える知識を身につけてみましょう。
2018年6月
田中 竜馬