雑誌『LiSA』の投稿コーナーから生まれた、悲哀とユーモア、裏返しの愛に溢れたパロディー辞典。正編『悪魔のささやき医学辞典』、続編『続・悪魔のささやき医学辞典』に、新世紀のネタも多数追加した全面改訂版。勉強や診療の合間の息抜きに楽しむのみならず、普段話しにくい先輩・後輩とのコミュニケーションツールや、気の利いたプレゼントにも。シリーズ累計2万部に迫る名著が四半世紀の時を経て生まれ変わる。
新訂増補版の序に代えて
本書の元となった『悪魔のささやき医学辞典』初版を刊行して,はや四半世紀が経過しようとしている。頃は世紀末,悪魔が跳梁跋扈するにふさわしい時代の世相を反映したか,編集部に寄せられた膨大な数の投稿は,その切れのよい反社会的内容とも相まって,当時,悪魔に魂を売り渡した医師たちがいかに多かったかを物語るものであった。正編,続編ともに,版行するや否や,書肆の予想を超えて江湖に広く受け入れられた(つまりよく売れた)のは,その証左であろう。
我利に駆られた亡者どもに似つかわしくなく,不用意に実名で行われた投稿には,編集部の手によって,決して個人が特定されぬよう,巧妙に仮名を付したことは言うまでもない。万が一にも,勘の良い読者が,近年の麻酔科学の発展に功あった,あの人やこの人がもしや実作者ではなかろうか,などと想像を逞しくして詮索することがあってはならないからだ。
やがて,時は巡って千年紀も改まり,世紀初頭に当たる昨今は,どうにも悪魔には分が悪いようだ。仄聞するところによると,最近の若い者は本書の存在すら知らないらしく,それを嘆く古参の悪魔(Old Nick)たちのささやき声があちこちで聞かれるという。
どうやら「患者安全の最後の砦」とか称して,与えられた自らの役割を露も疑わず,裏方家業に専心し,日夜心を砕いて精勤する,そんな素直な医師が増えているのではあるまいか。しかし,そのような生活が果たして俗人に継続可能かどうか(サウイフモノニ ナッテイイノダラウカ?)。ここはぜひとも悪魔の知恵を借りねばならない。不幸にして,たまたま時機を逸して魂を売り損なった医師,本書に巡り合い損ねた若者たちには,そんな生真面目な自分を三歩下がって笑い飛ばす,悪魔の妙技(心の余裕)を,新訂増補とあいなった本書によって学んでほしい。
待ちかねたよ,後輩諸君。悪魔の世界にようこそ。
LiSA 編集部