腹部単純X線写真の読影の基本について、異常等を色付けしたカラー写真とオリジナル写真の2枚を見比べながら学べる入門書。第1部はX線の適応・撮影方法や正常解剖について、第2部は所見をABCDE(air、bowel、calcification、disability、everything else)にグループ分けして解説する。知識の整理に役立つチェックリスト、アセスメントテスト、用語解説付き。
X線について
腹部単純X線写真撮影の適応
腹部単純X線写真の撮影方法
単純X線写真の質
腹部単純X線写真でみる正常解剖
腹部単純X線写真の読影法
ABCDE アプローチの概要
A(air):通常にはない場所にある空気(ガス)
腹腔気腫 pneumoperitoneum
後腹膜気腫 pneumoretroperitoneum
胆道気腫 pneumobilia
門脈ガス portal venous gas
B(bowel):消化管
小腸の拡張 dilated small bowel
大腸の拡張 dilated large bowel
腸捻転 intestinal volvulus
胃の拡張 dilated stomach
ヘルニア hernia
腸管壁の炎症 bowel wall inflammation
便塊の貯留 faecal loading
宿便 faecal impaction
特殊な症例:胆石イレウス
特殊な症例:中毒性巨大結腸症
C(calcification):石灰化
胆石症 cholelithiasis
腎結石 renal stone
膀胱結石 bladder stone
腎石灰化症 nephrocalcinosis
膵石灰化症 pancreatic calcification
副腎の石灰化 adrenal calcification
腹部大動脈瘤の石灰化 abdominal aortic aneurysm calcification
胎児 fetus
臨床的意義のない石灰化構造物
特殊な症例:石灰乳胆汁
磁器様胆嚢
D(disability):骨や実質臓器の障害
骨盤骨折 pelvic fracture―3 POLO?リングテスト
骨硬化性病変 sclerotic bone lesion と骨透過性病変 lucent bone lesion
脊椎の障害 spine pathology
実質臓器の腫大 solid organ enlargement
E(everything else):その他のすべて
医療用・手術用器具(医原性のもの) medical and surgical objects(iatrogenic)
異物 foreign body
肺底部 lung base
アセスメントテスト:問題
アセスメントテスト:解答
訳者序文
現在,CT撮影を行うことが可能な中規模以上の病院では,腹部単純X線写真を飛ばして直接CTのオーダーをする施設が多くなっている。確かに腹部単純X 線写真で何らかの病変を疑うことができれば(もしくは非特異的所見のみで何も得られる情報がなかったら),次は腹部CTの撮影を行うのは診断に必要な流れである。腹部単純X 線写真を撮影しようがしまいが結局腹部CTを撮影する流れとともに,何度も画像の撮影に医療スタッフがかかりきりになる人的および時間的な問題,そして患者の負担の問題などもある。このような背景があるために情報量の少ない腹部単純X線写真は淘汰されてきたと思われる。
しかしながら,ここでもう一度腹部単純X線写真について考えてほしい。われわれは常にCTやMRIを撮像できる環境にいるとは限らない。また,医療費をかけずに診断できれば,人や時間も節約でき医療スタッフにも患者にも優しいと思う。ゆえに腹部単純X線写真だけで診断に結びつけられるスキルは他のモダリティがどんなに進歩しても持ち続ける必要がある。
本書は腹部単純X線写真を学びやすいようにさまざまな工夫がなされている。一番大きな特徴は,同一症例を並べ異常所見や特異的所見を色分けして表示している点である。2枚の写真を比較することで解剖と病態の理解が格段に早くなる。さらに,観察するものをABCDEと順序立てることで「見落とし」のない読影と診断を可能にしてくれている。本文は箇条書きで平易に説明されており,非常に簡便であるため,放射線科医だけではなく,医学生や研修医,そして,放射線技師や看護師といったさまざまな職種でも学ぶことが可能である。
本書を読み終わる頃に腹部単純X 線写真に親しみがわき,読影が楽しくなることを望んでいる。
2019 年7 月
小橋由紋子
原著序文
腹部単純X線写真は病院内で日常的に遭遇するものであり,しばしば若い医師は最初に単純X線写真を評価し,その所見にしたがい行動する。医学生であっても腹部単純X線写真上の基本的な徴候や疾患の診断方法を学ぶ必要がある。
本書は数年前にAnthonyと私が上梓した,医学生が胸部単純X線写真を学ぶための書籍“Chest X?rays for Medical Students”に続くものである。その本を出版したのち,私はノッティンガム大学病院のNHS Trustの臨床放射線医学トレーニングコースを受講し,フェローシップ試験に合格した。Anthonyは退職しているものの,1週間に2,3日は画像診断およびその指導のため病院に戻ってきている。本書の執筆には約12カ月かかり,腹部単純X線写真の収集にはさらに多くの時間がかかっている。
本書で今までにない魅力的なところは解剖と病態を説明するのに色づけして強調している点である。写真を色づけする方法は他書にはみられない特徴であり,徴候や疾患についての評価を容易にする。同一症例の写真で色づけしてあるもの(右側)とないもの(左側)を2枚並べて比較できるようにしている。比較することで,色づけしていない写真上の異常所見の同定が容易になるだろう。徴候や異常所見の指摘が困難なものもなかにはある。そこで私は所見がわかりやすくなるまで各種色づけのテクニックを用いて経験を積んでいった。その結果,さまざまな手法を用いて病態を色分けして強調させることに成功した。
本書は百科事典的な参考書として使われることが目的ではない。色鮮やかで有益な補助教材として,医学生,若い医師,放射線技師,看護師の役に立つよう,腹部単純X線写真の基礎を簡便かつ論理的に系統だてて学ぶことができることを目的としている。われわれは紛らわしい用語で混乱が生じないように注意し,例えば母指圧痕像やRigler徴候などの一般的な徴候であっても丁寧に説明するように心がけた。
読者が本書を読み終わるまでに,腹部単純X線写真を読影し,それを発表したり分析するスキルを持てるようになることを私は切望している。
われわれは本書を未来の学生のための教材として絶えず改善し,洗練させたいと思っている。読者からの意見や提案は,どんなささいなことでも歓迎する。本書の改善点としてアイデアがあれば,遠慮なくわれわれに連絡して欲しい。
読者の皆さんが楽しんで本書を活用してくれることを願っている。
Christopher G. D. Clarke