横浜市スポーツ医科学センターに蓄積された豊富なデータをもとに、スポーツ外傷・障害のリハビリテーションを解説した実践書。保険診療の範囲内で行えるリハビリを中心に取り上げる。総論、部位別、競技別の3部構成。800点以上のカラー写真を用い、各疾患の治療戦略をフローチャートで示すなど、わかりやすさを追求。当該リハビリに関わる、理学療法士、アスレティックトレーナー、整形外科医、スポーツ医のための必携書。
総 論
スポーツ選手のリハビリテーションの考え方
第1章 股関節・骨盤
第2章 大腿部
第3章 膝関節
第4章 下腿部
第5章 足関節・足部
第6章 腰背部
第7章 頚 部
第8章 肩関節
第9章 肘関節
第10章 手関節
第11章 バスケットボール
第12章 サッカー
第13章 野 球
第14章 陸上競技(ランニング)
第15章 ラグビー
第16章 テニス
監修に当たって
もうかなり昔の話にはなるが,わが国では,プロ野球の選手が肩や肘を故障すると,多くは米国に渡り手術を受けて帰ってくる,という時代があった.その大きな理由として,手術技術の差ではなく,むしろリハビリテーションのきめの細かさにおいて彼我の差が大きいことが挙げられていたのを覚えている.ことほど左様に,当時はスポーツ外傷・障害の治療におけるリハビリテーションの位置づけは低かったのである.
しかし,現在ではリハビリテーションの重要性に関する認識は一変している.スポーツ外傷・障害に対して,リハビリテーションなくしては十分な治療効果を挙げられない,といっても過言ではないほど,その重要性は認識されている.
スポーツ外傷・障害のリハビリテーションといった場合,大きく分けて,①発症直後,あるいは手術後(術前も当然あり得る)から始めるいわゆる医学的リハビリテーション,次いで ②スポーツ活動復帰に向けた一般的アスレティック・リハビリテーションへ,そしてさらに進んで ③種目特性に合わせた種目特異的リハビリテーションという3段階があるとされている.
横浜市スポーツ医科学センターは,昨年2018年4月で開設20周年を迎えたが,この間,これらリハビリテーションの3段階を一貫して行ってきた単一の施設としては数少ないものの一つであると自負している.
当センターの特色を挙げるとすれば,訪れる患者さんが,男女,年齢を問わず,またその目的も健康スポーツから,競技スポーツまで,さまざまであることである.このように多種多様な背景をもち,したがってその目的もさまざまである患者さんに対しては,同一診断であっても,一辺倒なリハビリテーション・プログラムでは対応できないのは当然である.つまり,個々の事例に合せたリハビリテーションを行うという工夫が求められるのである.
本書は,当センターが20周年を迎えたのを機会に,リハビリテーション科の理学療法士が長年に渡って積み重ねてきたスポーツ(アスレティック)・リハビリテーションの分野における病態把握の考え方や,機能診断法,治療手技を部位別,種目別に分けて集大成したものである.
ただし,リハビリテーションの経験を集大成したものである,といっても,当センター独自の経験則や考えに基づいた内容ではない.
解剖学,神経・筋生理学,運動機能学などの医学的根拠,そして外傷や障害の病態について,当センターが永年実施してきた前向き研究やスポーツ現場への介入調査によって得られた知見などを根拠にして行ってきたものであることを強調したい.
もちろん,当センターが行ってきたリハビリテーション治療を集大成したものである以上,すべての分野を万遍なく網羅することは難しい.経験が充分でないために治療成績について,自信をもって訴えるものがないような部分についても述べるとなると,結局は教科書的な記述になり,本書をまとめた意図が不明確になる.したがって,疾患,種目に若干の偏りがみられる点はご容赦いただきたい.
本書によって,当センターがいかなる方針でスポーツ(アスレティック)・リハビリテーションに取り組んできたか,をご理解いただければ幸いである.
令和元年(2019年)8 月 監修者を代表して
青木 治人
公益財団法人横浜市体育協会
横浜市スポーツ医科学センター長
序
1998年に開設された横浜市スポーツ医科学センターは,「市民の健康づくりの推進」・「スポーツの振興」・「競技選手の競技力向上」を設置意義とした施設である.当センターのスポーツクリニックは開設当初より内科・整形外科・リハビリテーション科を標榜し,保険診療を行ってきた.当科は2018年3月31日までの20年間,総新患数125,379名のアスリートに対するリハビリテーションを担当し,国内に数少ない専門施設として多くの知見を得てきた.
当科には年間に多くの医師や医療関係者が見学や視察に訪れ,リハビリテーションの実施内容についての議論を行ってきた.わが国の保険診療の中でアスリートが満足するリハビリテーションを提供することは困難も多い.アスリートには復帰に向けたアスレティックリハビリテーションが必須であるが,種目に特化した内容も多い.どの範囲を保険診療で行い,選手自身やトレーナーを含むチームスタッフにどの部分を引き継ぐかは難しい課題であり,個別性も高い.
これまで幸いなことにいくつかの著書や雑誌などに当科の実施内容を部分的に掲載する機会をいただいた.しかしながら,先の議論において,まとまった資料の提示を求められた際にそれに応えることは困難であった.そのようなニーズに応えるということが本書執筆のきっかけとなり,その時期は先に述べた節目の時期が相応しいと感じ,企画を開始した.
本書の主な特徴は以下である.
・診療実績に忠実であるため,当科スタッフで分担して執筆した
・実際の診療に応用可能な多くの知見を引用した
・保険診療の範囲内で実施可能な内容を想定して記載した
・総論では本書の特徴や各論への繋がりを解説した
・部位別の章では各疾患の発生メカニズムに沿った評価や治療の考え方を記載した
・競技別の章では競技動作のバイオメカニクスからみた疾患の考え方と復帰基準について記載した
本書発刊にあたり,当センターの開設準備室から従事され,当科の立ち上げ,そして軌道に乗るまでの責任者としてご指導いただいた蒲田和芳教授(広島国際大学) に深謝いたします.また,過去に当科に在籍し,多くの知見を残してくれたすべてのスタッフにお礼を申し上げます.そして,企画の段階からわれわれのコンセプトをすべて受け入れ,支援してくださった株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル編集部の後藤亮弘氏には感謝の念に堪えません.
最後に当科に在籍し,日々の多忙な業務の中で高い使命感をもって執筆の労を担った当科スタッフに感謝したい.
スポーツドクター,理学療法士,トレーナー,アスリートに関わる専門職の方々にとって役に立つ1冊となり,少しでもアスリートへの還元となれば幸いである.
令和元年(2019年)5月1日
鈴川 仁人
公益財団法人横浜市体育協会
横浜市スポーツ医科学センターリハビリテーション科長
2022-05-27
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
114ページ 3.5 腸脛靱帯炎,鵞足炎 図5の説明文 下から4行目
(誤)C:スクワット+knee-in+足部内側縦アーチ挙上…本条件で疼痛が増悪すれば,
(正)C:スクワット+knee-in+足部内側縦アーチ挙上…本条件で疼痛が減弱すれば,
114ページ 3.5 腸脛靱帯炎,鵞足炎 図5の説明文 下から2行目
(誤)D:スクワット+knee-out+足部外側縦アーチ挙上…本条件で疼痛が増悪すれば,
(正)D:スクワット+knee-out+足部外側縦アーチ挙上…本条件で疼痛が減弱すれば,
2020-01-27
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
191ページ 図3の説明文
(誤)上後腸骨稜(PSIS)
(正)上後腸骨棘(PSIS)
191ページ 下段
(誤)上後腸骨稜:posterior superior iliac spine(PSIS)
(正)上後腸骨棘:posterior superior iliac spine(PSIS)