周術期医療が担う領域は幅広い。LiSA通常号でも,できるだけ幅広くさまざまなテーマを取り上げてはいるが,読者の目先の課題解決のためのテーマが優先される傾向になるのは否めない。すなわち,「麻酔科医ならば,いずれは(今じゃない)きちんと勉強し,しっかりと理解しておくべき」テーマを取り上げ,深く掘り下げる機会は少ない。また,通常号はページ数の制約もあり,臨床に直結するようなテーマであっても,一つのテーマについて幅広く取り扱うことが難しい。 そこで別冊秋号では,毎年一つのテーマをピックアップし,通常号よりもじっくりと掘り下げたり幅広く捉えたりして,日常診療をしているだけでは見えてこない,麻酔科学・周術期医療の広大な世界を紹介していく。マニアでディープな世界を知り麻酔科学の面白みに気づく機会を若手麻酔科医に提供したい。
1 生理学から見る血圧
⃝石黒 芳紀 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
2 解剖学から見る血圧:循環器の比較解剖学
⃝平﨑 裕二 済生会宇都宮病院 麻酔科/東京慈恵会医科大学 解剖学講座
⃝岡部 正隆 東京慈恵会医科大学 解剖学講座
3 疫学から見る日本人の血圧
⃝三浦 克之 滋賀医科大学社会医学講座 公衆衛生学部門/同アジア疫学研究センター
4 小児の成長と血圧
⃝戸田 雄一郎 川崎医科大学 麻酔・集中治療医学2
5 日常生活のなかの血圧
⃝藤原 健史 自治医科大学内科学講座 循環器内科学部門
6 侵害刺激・痛みと血圧
⃝紙谷 義孝・大西 毅 新潟大学大学院医歯学総合研究科 麻酔科学分野
7 周術期の低血圧は予後に影響を与えるか
⃝坪川 恒久 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
8 臓器から見る血圧:脳
⃝位田 みつる・川口 昌彦 奈良県立医科大学 麻酔科学教室
9 臓器から見る血圧:腎臓
⃝原 哲也 長崎大学医学部 麻酔学教室
10 臓器から見る血圧:心臓
⃝髙橋 桂哉・遠山 裕樹・国沢卓之 旭川医科大学 麻酔・蘇生学講座
11 臓器から見る血圧:腸管,肝臓
⃝垣花 泰之 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野
12 臓器から見る血圧:胎盤,胎児
⃝上山 博史 関西ろうさい病院 麻酔科
13 麻酔関連薬が血圧に与える影響:全身麻酔薬と血圧
⃝恒吉 勇男 宮崎大学医学部 麻酔生体管理学
14 麻酔関連薬が血圧に与える影響:硬膜外麻酔と血圧
⃝松田 高志・齊藤 洋司 島根大学医学部 麻酔科学教室
15 麻酔関連薬が血圧に与える影響:脊髄くも膜下麻酔と血圧
⃝日下 裕介・南 敏明 大阪医科大学 麻酔科学教室
16 コラム さまざまな動物の血圧
⃝長濱 正太郎 一般社団法人 日本動物麻酔科医協会/岐阜大学応用生物科学部附属動物病院
17 体位と血圧の関係
⃝井上 莊一郎 聖マリアンナ医科大学 麻酔学教室
18 病態から見る血圧:高血圧と動脈硬化
⃝辛島 裕士 九州大学大学院医学研究院 麻酔・蘇生学分野
19 病態から見る血圧:自律神経の異常:起立性低血圧をきたす病態
⃝田家 諭 坂出市立病院 麻酔科
⃝白神 豪太郎 香川大学医学部附属病院 麻酔・ペインクリニック科
20 病態から見る血圧:糖尿病と血管病変
⃝野口 智子・廣田 和美 弘前大学大学院医学研究科 麻酔科学講座
21 病態から見る血圧:脊髄損傷
⃝山下 敦生・松本 美志也 山口大学医学部 麻酔・蘇生学教室
22 病態から見る血圧:褐色細胞腫
⃝伊藤 裕之・河野 達郎 東北医科薬科大学医学部 麻酔科学
23 病態から見る血圧:血管麻痺症候群(vasoplegic syndrome)
⃝澤村 成史 帝京大学医学部 麻酔科学講座
24 病態から見る血圧:大動脈炎症候群,高安動脈炎
⃝中澤 春政・萬 知子 杏林大学医学部 麻酔科学教室
25 病態から見る血圧:出血性ショック,外傷性ショック
⃝源田 雄紀 日本医科大学付属病院 外科系集中治療科/日本医科大学 麻酔科
⃝間瀬 大司 日本医科大学付属病院 外科系集中治療科/日本医科大学 麻酔科
⃝市場 晋吾 日本医科大学付属病院 外科系集中治療科
⃝坂本 篤裕 日本医科大学 麻酔科
26 病態から見る血圧:アナフィラキシーショック
⃝髙澤 知規 群馬大学医学部附属病院 集中治療部
27 病態から見る血圧:急性大動脈閉塞症
⃝福島 紘子・能見 俊浩 イムス葛飾ハートセンター 麻酔科
28 病態から見る血圧:頸動脈狭窄症
⃝中山 英人 埼玉医科大学病院 麻酔科
29 モニタリング
⃝清野 豊 魚沼基幹病院 麻酔科
⃝今井 英一 新潟大学大学院医歯学総合研究科 麻酔科学分野
30 血圧をあやつる:術前内服薬と術中血圧の関係
⃝平田 直之 札幌医科大学医学部 麻酔科学講座
31 血圧をあやつる:術中降圧薬の使い方
⃝藤原 祥裕・橋本 篤・佐藤 祐子 愛知医科大学医学部 麻酔科学講座
32 血圧をあやつる:術中昇圧薬の使い方
⃝安田 篤史 帝京大学医学部附属病院 麻酔集中治療科
33 血圧をあやつる:機械的補助を用いる
⃝石井 久成 天理よろづ相談所病院 麻酔科
34 血圧をあやつる:高血圧による合併症と対処法
⃝森 敏洋・森本 裕二 北海道大学病院 麻酔科
35 血圧をあやつる:低血圧による合併症と対処法
⃝加古 英介・祖父江 和哉 名古屋市立大学大学院医学研究科 麻酔科学・集中治療医学分野
36 コラム 保険収載されている低血圧麻酔
⃝小高 光晴 東京女子医科大学東医療センター 麻酔科
巻頭言
全身麻酔下の患者は,循環動態の調整を全面的に麻酔科医に委ねている。麻酔科医が循環管理の判断指標とするのは心拍数と血圧であり,麻酔科医は,勤務時間の大半を患者のこれらのパラメータをモニタリングして過ごす。血圧は何を語ってくれるだろうか。血圧が伝えるメッセージを正確に読み取るためには知識が必要であるし,語れない部分があることも理解しておかなければならない。本号では,生理学,疫学,薬理学,病理学,解剖学,進化学,エンジニアリングなどさまざまな側面から血圧をとらえて,先に挙げた血圧を読み取るための知識を形成できるように工夫してある。では,血圧が語れないものとは何だろうか? 循環の目的とは,臓器血流の維持であり,末梢組織まで十分に酸素を行き渡らせることにある。心臓の拍出を駆動力とする血圧はすべての臓器(肝臓など一部は除く)に均等にかかるが,このことは,必ずしも臓器血流量も均等であることを意味していない。つまり,血圧を維持することは臓器血流維持の十分条件ではないのである。現在のところ,臓器血流量そのものを評価するようなモニターはほとんど実用化されていない。そこで見えないものを見つけるための努力が必要となる(麻酔科医の技量,知識のほか,新たなモニターの開発なども含めた)。循環動態を考えるときには,前負荷,後負荷,心ポンプ機能の三つの因子に分解して考える必要があるが,われわれが直接とらえることができる血圧,心拍数,中心静脈圧,心拍出量などのパラメータはどれも単独でこの3 因子を評価するものではないため,相互作用も考慮しつつ,3 因子を推測する必要がある。そこが難しくもあり,麻酔の楽しみの一つでもある。読者の推察力を高めるヒントが本号のなかにはある。
東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
坪川恒久