感染予防、そしてコントロールのマニュアル 第2版

感染制御の原理・原則をわかりやすく解説したテキスト、7年ぶりに改訂。内容が大幅にアップデートされ、単著として書かれた原稿を16人の各領域の専門家が精査、クオリティをさらに高めている。感染対策の基本コンセプトやプログラム構築の全体像にはじまり、アウトブレイク管理や医療関連感染、多剤耐性菌対策まで、全10章で詳細に解説。ICTのメンバーが知りたい基本的な内容をバランスよく網羅。感染対策に携わる医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師必読の書。

¥4,950 税込
原著タイトル
Manual of Infection Prevention and Control, 4th Editon
監修:岩田健太郎 神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授 監訳:岡 秀昭 埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科診療部長/准教授 坂本史衣 学校法人聖路加国際大学聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー
ISBN
978-4-8157-0181-9
判型/ページ数/図・写真
A5変 頁456 図54
刊行年月
2020年2月
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Chapter 1 基本コンセプトと予防戦略
1.1 基礎微生物学
1.1.1 微生物の種類
1.2 感染の伝播
1.2.1 感染伝播の要因
1.3 予防管理戦略
1.3.1 多面的予防戦略
1.4 実践と維持
1.5 リスクマネジメント
1.5.1 リスク管理
1.5.2 リスク監視

Chapter 2 感染対策プログラムの構築
2.1 医療関連感染(HAI)によってかかる負荷
2.2 HAI がもたらす影響
2.3 医療施設の責任
2.4 IPC プログラムの構築
2.4.1 感染対策にかかわる医師
2.4.2 感染対策にかかわる看護師
2.4.3 IPC チーム(ICT)
2.4.4 IPC 委員会
2.4.5 IPC リンクナース
2.4.6 方針および手順のマニュアル

Chapter 3 疫学と生物統計学
3.1 疫学
3.1.1 研究の種類
3.1.2 疾患の頻度に関する指標
3.1.3 関連を表す指標
3.1.4 バイアスと交絡因子
3.2 生物統計学
3.2.1 データの中心傾向
3.2.2 データの広がりを表す指標
3.2.3 仮説検定
3.2.4 統計学的有意性の検定
3.2.5 信頼区間(CI)
3.2.6 感度と特異度
3.2.7 統計的工程管理(SPC)

Chapter 4 サーベイランスとアウトブレイク管理
4.1 サーベイランス
4.1.1 サーベイランスの目標
4.1.2 疾患定義
4.1.3 サーベイランスの手法
4.1.4 データ収集
4.1.5 HAI 発生率の計算
4.1.6 サーベイランスの種類
4.1.7 HAI の報告義務と情報公開制度
4.2 アウトブレイクの管理
4.2.1 本当にアウトブレイクが起きているのか?
4.2.2 アウトブレイクの発見
4.2.3 アウトブレイクのコントロール
4.2.4 振り返り調査

Chapter 5 滅菌と消毒
5.1 イントロダクション
5.1.1 汚染除去規定
5.1.2 教育と訓練
5.1.3 設置とメンテナンス
5.1.4 貸出手術器械
5.2 汚染物のリスク評価
5.3 単回使用の物品
5.4 使用済みの手術器具の輸送
5.5 汚染除去法
5.5.1 洗浄
5.5.2 消毒
5.5.3 滅菌
5.5.4 化学ガスによる滅菌
5.5.5 エチレンオキサイド
5.5.6 過酸化水素低温ガスプラズマ
5.5.7 煮沸法
5.6 滅菌器および機器と備品の汚染除去
5.6.1 高圧蒸気滅菌の種類
5.7 滅菌機器類の保管
5.8 消毒薬
5.8.1 理想的な消毒薬の特性
5.8.2 消毒薬の抗菌活性
5.8.3 各種消毒薬の種類
5.9 内視鏡の再生処理(汚染除去)
5.9.1 内視鏡の種類
5.9.2 一般的な留意事項
5.9.3 再生処理工程
5.10 再生処理不良時の原因調査

Chapter 6 感染対策の実践(場面)
6.1 隔離予防策
6.1.1 隔離の種類
6.1.2 一般的な検討事項
6.2 手指衛生
6.2.1 手指に存在する細菌叢の理解
6.2.2 擦式アルコール手指消毒薬(ABHR)よる手指衛生
6.2.3 石鹸と流水による手洗い
6.2.4 適応と効果
6.2.5 手指衛生遵守
6.2.6 遵守評価
6.2.7 手荒れとハンドケア
6.3 個人防護具(PPE)
6.3.1 手袋
6.3.2 エプロンとガウン
6.3.3 目と顔の防護具
6.4 注射の安全
6.4.1 注射器
6.4.2 単回使用・マルチドーズバイアルと静脈注射薬
6.4.3 注射器材と注射の準備区域
6.5 建築設計による防止
6.5.1 解体,建築と改築
6.5.2 一般病院の環境
6.5.3 患者用の設備
6.5.4 手洗い設備
6.5.5 隔離室の設計
6.5.6 換気と空調
6.5.7 手術室
6.6 遺体からの感染防止

Chapter 7 医療関連感染症の予防
7.1 手術部位感染症
7.1.1 微生物の汚染源
7.1.2 リスク因子
7.1.3 SSI のサーベイランス
7.1.4 SSI の病型
7.1.5 ケアバンドル
7.1.6 一般的な予防策
7.1.7 SSI の予防戦略
7.2 血管内カテーテル感染症
7.2.1 イントロダクション
7.2.2 感染源
7.2.3 発症機序
7.2.4 定義およびサーベイランス
7.2.5 カテーテル関連血流感染症の診断
7.2.6 ケアバンドル
7.2.7 一般的な予防戦略
7.3 カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)
7.3.1 微生物学
7.3.2 発症機序
7.3.3 CAUTI の診断およびサーベイランス
7.3.4 予防戦略
7.3.5 細菌尿を有する患者のマネジメントと感染
7.4 院内肺炎
7.4.1 定義および微生物学
7.4.2 一般的な予防策
7.4.3 人工呼吸器関連肺炎(VAP)

Chapter 8 多剤耐性菌への対策
8.1 多剤耐性菌の広がり
8.1.1 抗菌薬耐性菌の拡大と影響
8.1.2 多剤耐性菌(MDRO)の出現と拡散を促進する要因
8.1.3 抗菌薬耐性の種類
8.2 抗菌薬適正使用
8.2.1 適正使用推進のための戦略
8.3 多剤耐性菌(MDRO)への対策
8.3.1 感染対策の手法
8.4 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
8.4.1 市中関連MRSA
8.4.2 検査の方法
8.4.3 管理の方法
8.4.4 スクリーニングのための綿棒による検査
8.4.5 医療従事者
8.4.6 外科手術
8.4.7 救急搬送
8.4.8 MRSA の除菌療法
8.5 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
8.6 多剤耐性グラム陰性菌
8.6.1 基質拡張型β ラクタマーゼ(ESBL)
8.6.2 カルバペネム耐性腸内細菌(CRE)
8.6.3 ブドウ糖非発酵グラム陰性菌

Chapter 9 特別な配慮の必要な病原体
9.1 血液媒介ウイルス感染症
9.1.1 血液媒介ウイルスへの感染防止予防策
9.1.2 外科手技における感染対策
9.1.3 B 型肝炎
9.1.4 C 型肝炎
9.1.5 D 型肝炎
9.1.6 HIV 感染
9.2 結核
9.2.1 診断
9.2.2 獲得リスク
9.2.3 結核の感染管理
9.2.4 接触者スクリーニング
9.3 Clostridioides difficile 感染症
9.3.1 検査室診断
9.3.2 感染対策
9.3.3 発症者の感染症マネジメント
9.4 腸管感染症
9.4.1 ウイルス性胃腸炎
9.4.2 ロタウイルス
9.4.3 ノロウイルス
9.4.4 ウイルス性胃腸炎の感染対策
9.5 気道ウイルス感染症
9.5.1 インフルエンザ
9.5.2 RS ウイルス
9.5.3 コロナウイルス
9.6 レジオネラ症(レジオネラ病)
9.6.1 感染対策の方法
9.6.2 サーベイランスと届け出
9.7 髄膜炎菌感染症
9.8 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
9.8.1 接触者管理
9.8.2 ワクチンと免疫
9.9 ウイルス性出血熱(VHF)
9.9.1 ラッサ熱
9.9.2 エボラ出血熱
9.9.3 マールブルグウイルス
9.9.4 クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)
9.9.5 診断
9.9.6 感染対策
9.10 プリオン病
9.10.1 外科手術の際の対応
9.10.2 感染制御
9.11 疥癬とシラミ症
9.11.1 疥癬
9.11.2 シラミ症
9.11.3 ノミ(flea)

Chapter 10 サポートサービス
10.1 労働衛生サービス
10.1.1 労働衛生部門の役割
10.1.2 雇用前評価
10.1.3 医療従事者の責任
10.1.4 教育と訓練
10.1.5 予防接種
10.1.6 鋭利物損傷と血液・体液曝露の管理
10.1.7 曝露後予防(PEP)
10.1.8 血液媒介ウイルス感染症に感染した医療従事者
10.1.9 結核予防
10.1.10 妊娠中の医療従事者
10.2 環境清掃
10.2.1 自己消毒する環境表面
10.2.2 非接触(ノータッチ)汚染除去法
10.2.3 清潔さの測定
10.2.4 感染性物質の流出発生時の対応
10.3 医療廃棄物の管理
10.3.1 医療廃棄物の分類
10.3.2 廃棄物管理
10.3.3 医療廃棄物の安全な取り扱い
10.3.4 医療廃棄物の処理
10.3.5 鋭利物の安全な取り扱いと処理
10.4 給食
10.4.1 一般事項
10.5 リネンと洗濯サービス
10.5.1 一般的な留意事項
10.5.2 洗濯のプロセス
10.6 害虫管理
索引

「日本騎兵の父」と呼ばれる秋山好古は,日露戦争の黒溝台合戦で,自慢の騎兵隊の機 動力をあえて用いず,塹壕を掘って馬とともに潜り,銃撃戦に終始したという。戦線 が長すぎて,通常の騎兵戦術では守備できないと判断したかららしい。司馬遼太郎の 『坂の上の雲』にこのエピソードは非常に印象的に描写されているが,そのどこまでが 史実かどうかは知らないし,その点にはさしたる関心もない。
秋山が得意の騎兵力を活用しなかったのは,もちろん戦争に勝つためだ。騎兵を用 いるのは手段であり,目的ではない。より大きなビッグピクチャーが見えていたから こそ,あえて騎兵を用いず戦うという選択肢をとったのだ。そして,ここが重要なこ となのだと思うが「,騎兵を用いる」ということは「騎兵が苦手とするシチュエーショ ンを知悉している」ということでもある。騎兵を用いなかったという選択は,騎兵戦 術を熟知していたからこそできた選択であった。塹壕を掘るという選択肢と知識,技 術が必要だったのはいうまでもない。
感染症と対峙するときの感染防御と感染治療の違いについては前版の序文で述べ た。どちらが大事か,という命題は無意味で,どっちも大事に決まっている。しかし, 感染治療のコンセプトのままで感染防御はできない。馬で攻撃する技術だけでは「防 御」ができないように。適切な判断,適切な対応のためには防御に特化した知識や技 術が必要だ。本書の存在理由がここにある。
2014 年に西アフリカでエボラウイルス感染が大流行したとき,ぼくがシエラレオ ネに行ったときにWHO に与えられたミッションはInfection Prevention and Control であった。感染予防とコントロールである。当初は患者が収容された治療センター を訪問し,施設の感染対策の適切さをチェックする仕事を行っていた。手指消毒用の 次亜塩素酸の保管場所やつくり方,個人防護具(PPE)の着脱場所やマニュアル,患者 の導線など,一般的なところをチェックする仕事だった。ところが,そうこうしてい るうちに患者がどんどん増えてきて,他にもやらねばならないことが増えてきた。ス タッフのPPE 着脱教育,アウトブレイク調査やマネジメント,地元の医師会や病院 との交渉事,トイレの設置,果ては患者のケアまであれやこれやのことをやった。自 分で探しに行けば仕事はいくつもみつかったし,ぼーっと事態を傍観していたら何も できない状態でもあった。
アフリカでの感染対策は,日本でのそれとは全く違う。しかし,ミッションと原則 は全く同じである。若い頃から「,世界のどこにいてもプロとして通用する人間になる」 のが夢だった。場所が変わると機能しなくなる……ではダメで,あれがない,これが ないと嘆くのもダメで,ないならないなりにベストを尽くす。先進国でも途上国でも, 都市でも田舎でも役に立とうと思っているうちに感染症屋になった。感染症はした がってぼくのミッションのなかでは手段であって目的ではない。
セッティングが変わると仕事ができなくなるのは「,経験」と「習慣」を職能にしてい るからである。これだと,慣れた環境を失うと,すべてを失ってしまう。セッティン グが変わっても十全に仕事をするためには「原則」が必要だ。手指消毒の「原則」を理解 していれば,アルコール製剤が次亜塩素酸になっても機能できる。個室完備の一類感 染症指定医療機関でなくてもテントだけの施設でエボラと取っ組み合える。フルの PPE がなくったって,次善の策で感染を防御できる。遺体の管理,デマ対策,エボ ラ孤児のための居住施設管理もできる。
原則を学ぶための,一番シンプルな方法はオーセンティックな教科書を読むことで ある。もちろん,本書は「マニュアル」であるから「,こういうときは,こうやっとけ」 な本である。しかし,その標準的なオーセンティシティから「原則」は醸し出され,原 則は感得できる。何が重要なアジェンダで,なにがそうでないかも「大きな絵」,領域 の世界観のなかで理解できる。
本書の第3 版が出たのが2012 年,日本語版が出たのが翌年の2013 年である。本 書,第4 版の原書が出たのが2019 年だ。普遍的,一般的な原則は変わらないし, 2014 年エボラのような未曾有の体験を経た後に大いに変わったコンセプトも多々あ る。臨床現場でのコンセプトの賞味期限は長くて5 年というところであろう。新た な概念は当然得ねばならない。
本書は感染に関係するすべての医療者が読む価値をもつ。その職名や職域とは無関 係に。やっつけ仕事をしないために。大きなミッションにいつでも立ち返ることがで きるために。
2019 年12 月
岩田健太郎

2020-05-07

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

18ページ下から6行目
(誤)1.5.1 リスク管理
(正)3.リスク管理:

19ページ上から14行目
(誤)1.5.2 リスク監視
(正)4.リスク監視

2020-02-26

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

148ページ下から10行目
(誤)正常細菌叢は交差感染に関与する
(正)通過菌は交差感染に関与する

148ページ下から12行目
(誤)正常細菌叢は定期的な手指衛生により除去され
(正)通過菌は定期的な手指衛生により除去され

148ページ下から14行目
(誤)正常細菌叢は,擦式アルコール手指消毒薬を用いた
(正)通過菌は,擦式アルコール手指消毒薬を用いた

151ページ上から14行目
(誤)一時的に存在する正常細菌叢と一部の正常細菌叢を除去する
(正)一時的に存在する通過菌と一部の正常細菌叢を除去する

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