頼れるスタンダード、待望の改訂
心血管・胸部領域の麻酔・周術期管理を包括的に解説したロングセラー臨床テキスト、6 年ぶりの改訂。改訂に際し、初版からの筆頭著者であったDr.Hensleyの名を冠し改題。弁疾患の章を細分化、また体外式膜型人工肺(ECMO)の章が追加されるなど、章立てはよりジェネラルにかつ時代の流れに即し大きく変更。膨大な情報を系統立ててわかりやすくまとめた。心臓血管外科手術に関わる麻酔科医の力強い味方。
第I 部 心血管系の生理学と薬理学
1 心血管系の生理学:入門
2 心血管作動薬
第II 部 心臓胸部手術の麻酔への一般的アプローチ
3 心臓手術の患者
4 心臓手術患者のモニタリング
5 経食道心エコー法(TEE)
6 麻酔導入と人工心肺前の管理
7 人工心肺の管理
8 人工心肺後の期間:ICU 搬送に向けての離脱
9 血液管理
第III部 特定の心疾患の麻酔管理
10 冠動脈バイパス術の麻酔管理
11 大動脈弁疾患患者の麻酔管理
12 僧帽弁疾患と三尖弁疾患の治療の麻酔管理
13 人工心肺使用または不使用の,心臓手術への新しいアプローチ
14 胸部大動脈瘤,大動脈解離の麻酔管理
15 肺・縦隔手術の麻酔管理
16 成人先天性心疾患(ACHD)患者の 麻酔管理
17 心肺移植の麻酔管理
18 不整脈,調律管理デバイス,カテーテルアブレーション,外科的アブレーション
19 心膜疾患患者の麻酔管理
第IV 部 循環補助
20 人工心肺:装置,回路,病態生理学
21 人工心肺中・後の凝固管理
22 循環補助装置と置換型人工心臓
23 心臓手術中の心筋保護
24 肺または心臓補助のための体外式膜型人工肺
第V 部 周術期管理
25 心臓手術患者の術後管理
26 人工心肺中の脳保護
27 心臓血管・胸部手術の疼痛管理
私が医師になったときには,この邦訳版『心臓手術の麻酔』が既に存在し,私自身が それ(第3版と第4版)を心臓麻酔の座右の書としてきました。本書の特徴は,心臓麻酔について網羅的で,かつ臨床医が知っておくべき知識が十分に盛り込まれているこ とです。その内容はマニュアルより深く,成書よりも簡潔に述べられています。版を重ねるごとに内容は改訂されますが,その特徴は変わらず引き継がれており,多忙な臨床医にとって“ちょうどよい"そのボリュームと読みやすさこそが,原著初版から 約30年が経過しても版を重ね,読み続けられている理由に他ならないと感じます。
前版から6年が経過し,文献の蓄積と心臓手術やその他の医療の進歩に伴って, 今版(原書第6版)では既存の内容が大幅にアップデートされるとともに,経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)などの経カテーテル心臓弁治療や,胸部外科領域でのロボット支援手術に関する内容などが追加され,体外式膜型人工肺(ECMO)の章が新たに加わりました。この流れはわが国においても同様だと思います。日本でも2013年10月にTAVRが保険適応となり,またロボット支援手術は2018年4月に癌における適応が拡大し,ともに手術件数は増加傾向です。ここ数年でECMOは急速に普及しました。本書はまさにタイムリーに多くの臨床医が必要としているトピックを提供してくれています。
今版では章の順番も再構成することで一層通読性が向上しています。また,重要なポイントをクリニカルパールとして簡潔な文章で随所に挿入することで,本書を読み ながらあたかも指導医が助言を与えてくれるような工夫を凝らしています。
翻訳にあたっては,前版から変更のなかった部分も再度訳文を見直し,より正確かつ読みやすくなるよう,大幅に手を加えました。心臓手術はもちろん,胸部手術の麻 酔に携わる臨床医にとって本書は良きパートナーとなるでしょう。皆様が直面している患者の管理に少しでも役立てていただけたら幸いです。
最後に,翻訳の改訂作業は旧版の成果に基づいて行われており,過去の版に携わってくださった先生方には改めて感謝申し上げます。また,長年にわたり本書の監訳を担ってこられ,今版の監訳作業の半ばでご逝去された新見能成先生に,深く敬意と感謝の意を表します。
2020年4月
加藤 剛