特集:周術期管理
周術期医療が担う領域は幅広い。LiSA通常号でも,できるだけ幅広くさまざまなテーマを取り上げてはいるが,読者の目先の課題解決のためのテーマが優先される傾向になるのは否めない。すなわち,「麻酔科医ならば,いずれはきちんと勉強し,しっかりと理解しておくべき」テーマを取り上げ,深く掘り下げる機会は少ない。また,通常号はページ数の制約もあり,臨床に直結するようなテーマであっても,一つのテーマについて幅広く取り扱うことが難しい。 そこで別冊秋号では,毎年一つのテーマをピックアップし,通常号よりもじっくりと掘り下げたり幅広く捉えたりして,日常診療をしているだけでは見えてこない,麻酔科学・周術期医療の広大な世界を紹介していく。マニアでディープな世界を知り麻酔科学の面白みに気づく機会を若手麻酔科医に提供したい。
PART1 術前の準備
1 術後回復を促進させるために
術後早期のDREAM達成を目指した術前支援と麻酔科医の役割
●谷口 英喜・山本 達夫
済生会横浜市東部病院 患者支援センター
●鎌田 高影 済生会横浜市東部病院 麻酔科
2 フレイル・サルコペニアについて
●金澤 伸郎 東京都健康長寿医療センター 外科
3 理学療法士の役割
●牧迫 飛雄馬 鹿児島大学医学部 保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学専攻
●富岡 一俊 垂水市立医療センター垂水中央病院/鹿児島大学大学院 保健学研究科
4 管理栄養士の役割 術前栄養管理はなぜ必要か?
●伊藤 明美 藤田医科大学病院 食養部
5 口腔ケアについて
●山内 千佳 名古屋市立大学病院 歯科口腔外科
●渋谷 恭之 名古屋市立大学大学院医学研究科 口腔外科学分野
6 禁煙について 手術は禁煙のteachable moment
●久利 通興 大阪大学大学院医学系研究科 生体統御医学講座麻酔集中治療医学教室
7 身体疾患の内服薬について
●永井 梓・祖父江 和哉
名古屋市立大学大学院医学研究科 麻酔科学・集中治療医学分野
8 精神疾患の内服薬について
●奥村 正紀 大石記念病院 精神科/昭和大学江東豊洲病院 麻酔科
●石井 瑞英 昭和大学江東豊洲病院 麻酔科
●竹田 美香 大石記念病院 精神科
9 薬剤師の役割
●竹之内 正記 済生会横浜市東部病院 薬剤部/患者支援センター
10 昔の常識は今の非常識? 前投薬について
●木山 秀哉 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
11 周術期の褥瘡対策
●熊谷 あゆ美 福井県立大学看護福祉学研究科 成人看護学
12 昔の常識は今の非常識? 絶飲食,剃毛,浣腸について
●杉田 扶希子 社会医療法人愛仁会 明石医療センター
13 臨床工学技士の役割
●高階 雅紀 大阪大学医学部附属病院 手術部・臨床工学部・材料部・サプライセンター
14 術前外来 多職種チームで患者のコンディションを整える
●石川 晴士 順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
●梅野 佑紀 順天堂大学大学院 医学研究科博士課程
PART2 術前合併症アップデート
15 高血圧
●辛島 裕士 九州大学病院 手術部
16 糖尿病
●北村 享之 東邦大学医療センター佐倉病院 麻酔科
17 喘 息
●倉橋 清泰 国際医療福祉大学医学部 麻酔・集中治療医学講座
18 慢性閉塞性肺疾患
●柏 庸三 大阪はびきの医療センター 集中治療科
19 心疾患
●中澤 圭介 東京女子医科大学 麻酔科
20 Fontan後患者
●木島 康文 聖路加国際病院 循環器内科
●藤田 信子 聖路加国際病院 麻酔科
21 脳卒中
●合谷木 徹 秋田大学大学院医学系研究科 麻酔・蘇生・疼痛管理学講座
22 コラム 麻痺側の筋弛緩モニタリングの注意点
●岩崎 肇 日本大学医学部 麻酔科学系麻酔科学分野
23 腎疾患
●坂本 安優・下井 晶子・小竹 良文
東邦大学医療センター大橋病院 麻酔科
24 肝疾患
●柴田 純平・西田 修
藤田医科大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座
25 胃切除・食道切除術後患者
●田中 克哉・笠井 飛鳥・大山 拓朗
徳島大学大学院医歯薬学研究部 麻酔・疼痛治療医学分野
26 長期オピオイド使用患者
●堀江 里奈・天谷 文昌
京都府立医科大学 疼痛・緩和医療学教室
PART3 周術期のリスク評価と検査項目
27 術後悪心・嘔吐(PONV)
どのような項目でリスク評価を行い,どう対応すべきか?
●長嶺 祐介 横浜市立大学医学部 麻酔科学
28 術後シバリング
●野口 信弘・垣花 学
琉球大学病院 麻酔科
29 周術期末梢神経障害
●朴 淳姫・廣瀬 宗孝
兵庫医科大学 麻酔科学・疼痛制御科学講座
30 周術期神経認知機能異常 術後せん妄,POCD,認知症
●細川 麻衣子 昭和大学医学部 麻酔科学講座
31 静脈血栓塞栓症
●堀田 訓久 自治医科大学 麻酔科学・集中治療医学講座
32 術後咽頭痛と嗄声
●小山 行秀・津崎 晃一
医療法人社団こうかん会 日本鋼管病院 麻酔科
33 術中覚醒記憶 その特徴と周術期管理
●坪川 恒久 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
34 術後肺合併症
●本田 博之 新潟大学医歯学総合病院 集中治療部
35 術後視野欠損
●木村 真也 昭和大学藤が丘病院 麻酔科
36 周術期脳卒中
●吉谷 健司 国立循環器病研究センター 輸血管理部
37 術後腎傷害
●栗田 昭英 金沢大学医薬保健研究域医学系 麻酔・集中治療医学
38 アレルギー既往 局所麻酔薬と抗菌薬を中心に
●高澤 知規 群馬大学医学部附属病院 集中治療部
39 悪性高熱症素因疑い
●三好 寛二・安田 季道・堤 保夫
広島大学大学院医系科学研究科 麻酔蘇生学
PART4 術後管理
40 PACU運営による術後ケアへの貢献
周術期を謳うなら,術後ケアへのかかわりも見直そう
●仙頭 佳起 名古屋市立大学大学院医学研究科 麻酔科学・集中治療医学分野/
名古屋市立大学病院 周術期ケアセンター
41 術後疼痛 Acute Pain Service
●近藤 一郎・高野 光司・小池 正嘉
東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
42 術後早期のリハビリテーションの実際
●小坂 誠 近森病院 麻酔科
43 術後外来
●位田 みつる・川口 昌彦
奈良県立医科大学 麻酔科学教室
PART5 周術期チーム医療のこれから
44 PERIO 10年を振り返って
●松岡 義和・森松 博史
岡山大学病院 麻酔科蘇生科
45 Perioperative Surgical Home
米国を参考にできるか?
●酒井 哲郎 Department of Anesthesiology and Perioperative Medicine, University of Pittsburgh School of Medicine
46 ロボット麻酔が周術期管理にもたらすもの
●重見 研司 福井大学学術研究院医学系部門医学領域器官制御医学講座 麻酔・蘇生学分野
●長田 理 国立国際医療センター病院 麻酔科
●松木 悠佳 福井大学学術研究院医学系部門医学領域器官制御医学講座 麻酔・蘇生学分野
47 麻酔科医のタスクシフト
●落合 亮一 元 東邦大学医療センター大森病院 麻酔科
巻頭言
今回の特集テーマは「周術期管理」である。病院の健全な運営において,手術は今や収入の3割近くを占める根幹事業であり,手術件数の増加は重要な課題である。しかも高齢化社会の真っ只中で,合併症を有する患者が増加し,術前・術後の管理に難渋するリスクもある。結果として,手術を安全・円滑に,かつ在院日数を減らしつつ,高速回転で遂行するためには,病院が総力を挙げて対応することが求められるようになってきた。
近年,多くの外科系手術が鏡視下で行われるようになり,麻酔の維持期は長くイベントレスな監視業務に変貌しつつある。さらに麻酔記録の電子化やモニター・テクノロジーの充実,働き方改革の波は,そのような単調な監視業務を医師以外のコメディカルやロボットで代替する可能性を生み出している。われわれ麻酔科医がこれまで手術場の守護神たらんとして注いできた多くのエネルギーをこれからの「医師」としてどう使うべきか? その一つの解が周術期管理である。術前・術中・術後と横断的に関与できる麻酔科医は,周術期という大きなスキームの中で全体を俯瞰しフローをよどみなく流すための調整役として最適である。病院が総力を挙げて取り組む手術プロジェクトにおいて,麻酔科医が周術期管理に必要な専門医療知識,技術,経験を保持しているからだ。
本書を読むと周術期管理が,まるで一人の患者を守るために護船団が集結し,出航(術前)の地で入念な準備と計画を行い,手術の海に船出をしてからも本人に気づかれぬように荒波を乗り越え,術後という新たな地平にたどり着くまでの大航海物語と思える。クルーの一員として知っておきたい知識はもちろんのこと,船出にあたり,どんな乗組員が必要なのか,それぞれの役割は何かというヒントも本書には散りばめてある。しかも,先人が通ってきた航図に加え,これからの天候予想も載せたつもりだ。
是非,手術室という船室に留まるのではなく,甲板に出て潮風と太陽の光を浴びながら自ら舵を握ることも想像していただきたい。
自治医科大学附属病院麻酔科 周術期管理担当
鈴木 昭広