すらすら読めて“よくわかる”
認知症診療に際し、専門・非専門問わず現場感覚に即した「診断」と「治療・マネジメント」が身につく書。認知症で障害される「記憶」の定義を理解した上で、症状の見極めかた、認知症のタイプの見分けかたと治療・マネジメントの方法を、ガイドラインやエビデンスを踏まえ、すらすら読める文章でわかりやすく解説。専門家はもちろん、「認知症の診断がわからない」と悩む総合診療医やプライマリケア医をはじめとした臨床医、さらには看護・介護職にも有用。
プロローグ
認知症の診断が難しいと感じるのはなぜ ?
– 生前に 100%の確定診断をつけることができない病気
認知症の画像が難しいと感じるのはなぜ ?
– 脳萎縮が病気のせいなのか,元々あったものなのかを知る方法
認知症の治療や予防って効果があるの ?
– 治療や予防ができるもの,まだわかっていないものを整理する
第 1 章 症状編
STEP 1–1 覚える記憶は 4 つ! –「記憶障害」
生活や自己像を支える記憶の障害 –「エピソード記憶障害」
知識や名称の記憶障害 –「意味記憶障害」(失語について)
行動の記憶障害 –「手続き記憶障害」(失行について)
~し忘れ –「作業記憶(ワーキングメモリー)障害」
STEP 1—2 目的に即した適切な行動ができない
–「実行機能/遂行機能障害」
STEP 1—3 「見当識障害」と「視空間認知障害」の関係
STEP 2—1 一次性の「人格・行動・態度の変化」と BPSD の関係
STEP 2—2 「錐体外路」と「錐体路」
STEP 3—1 自覚に乏しくわかりづらい「右半球障害」
STEP 3—2 パフォーマンスを左右する「注意障害」
認知検査・その 1「長谷川式」と「MMSE—J」で認知機能を知る
認知検査・その 2 前頭葉障害を調べる「FAB」に精通する
認知検査・その 3 結構使える「ADAS—cog」
認知検査・その 4 その他の認知検査
認知症と診断していいのか
介護度や ADL を評価したい
さらに詳しい認知機能を検査したい
行動・心理障害などの随伴症状(BPSD)を評価したい
第 2 章 診断編
疾患その 1 軽度認知障害
「病気なの ? それとも歳のせい?」– 軽度認知障害の特徴
「その後を予測できるかもしれない」– 軽度認知障害の症状
「やる意義はどこにある?」– 軽度認知障害の画像所見
「認知症の診断にもつながる」– 軽度認知障害の診断基準
「実はあるんです」– 軽度認知障害の治療
疾患その 2 アルツハイマー型認知症
「診断・治療のタイミングはいつ?」– アルツハイマー型認知症の特徴
「典型例と合併病理が生み出すバリエーション」
– アルツハイマー型認知症の症状
「違いは萎縮か,変性か,凝集体か」
– アルツハイマー型認知症の画像・検査所見
「症状・経過・除外の 3 つで診断する」– アルツハイマー型認知症の診断基準
「いつから? いつまで?」– アルツハイマー型認知症の治療
「実は気づかないだけで出会っている」– アルツハイマー型認知症の非典型例
疾患その 3 レビー小体型認知症
「特徴的がゆえに診断に役立つ」– レビー小体型認知症の症状
「とっつきにくいが解釈は単純」– レビー小体型認知症の画像所見
「4つの症状と 3つの検査,7つで決める」–レビー小体型認知症の診断基準
「3 つのタイプ分けで考える」– レビー小体型認知症の経過と治療
疾患その 4 前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)
「いろいろな病気の集まりで下位分類がある」– 前頭側頭型認知症の特徴
「行動・言語・運動の障害」– 前頭側頭型認知症の症状
「前頭葉と側頭葉内の細かな場所の違いを意識する」
– 前頭側頭型認知症の画像所見
「フェノコピーに気を付ける」– 前頭側頭型認知症の診断基準
「行動面に働きかける工夫」– 前頭側頭型認知症の治療
疾患その 5 血管性認知症
「画像と症状の関連性の 2 種類の考え方」– 血管性認知症の特徴
「知識や機能の障害か,つながりの障害か」– 血管性認知症の症状
「小さな血管病変の違いを見分けよう」– 血管性認知症の画像所見
「画像だけでなく認知機能の診察能力も重要」– 血管性認知症の診断基準
「抗血栓療法だけじゃない」– 血管性認知症の治療
疾患その 6 特発性正常圧水頭症
「三徴の詳細な特徴を押さえよう」– 特発性正常圧水頭症の特徴と症状
「脳室拡大のある無症状例をどう考える?」– 特発性正常圧水頭症の画像
「手術適応があるのはどんな人?」– 特発性正常圧水頭症の診断と治療
疾患その 7 その他の認知症
「診断の取り逃がしはこう避ける」
– 認知機能障害を引き起こすさまざまな原因
第 3 章 マネジメント編
「実はエビデンスは増えている」– 認知症の危険因子と非薬物療法
「どんな方法があるの ?」–BPSD の治療法と管理法
非薬物療法
薬物療法
「改めて考えよう!」– せん妄ってなぜ起こる? どうマネジメントする?
「単なる一過性の問題ではない」– せん妄の病態機序と臨床像
「大きくわけると 3 つある」– せん妄の原因
「論調が割れている ?」– せん妄治療の考え方
「意外と知らない」– 介護サービスの種類と支援の考え方
介護保険の申請と認定
介護サービスの実際
その他のサービス
「これだけは知っておこう」– 運転免許証の更新にまつわる法律と考え方
エピローグ
認知症の世界を考える
索引
認知症には診断基準やガイドラインが存在します。しかし,実際の診療や介護の場面では患者さんに何が起きているのか,診断をどうするべきか悩むケースも多く,必ずしもこの“診断基準”なるものをフル活用できていないのではないでしょうか?
その理由は,診断基準に記載されていることが真の意味で「わかっていない」からでしょう。その“わからないもの”の多くは臨床症状ですし,画像検査も含まれているかもしれません。つまり,診断基準を上手に使いこなすにはそれ相応の知識や技量が必要です。また,診断基準は科学的な根拠の上に成り立っていますが,これについてもある程度は知っておく必要があります。
本書は初めて認知症について学ぶ方でも読めるように,簡易な文面で,かつ字数も極力抑えることを念頭に企画されました。本書を読み進めるうち,読者は診断基準やガイドラインが自然と身につき,かつ使いこなすための科学的カラクリ(病態生理)も学べるように構成しています。認知症の診療では「これはどっちにすればいいのだろう?」と迷うケースも当然あると思います。本書には,そういった日常のクエスチョンにも答えられるような考え方も記載しました。
認知症の多くは今現在,根治療法が存在せず,保険適応となっている治療選択肢が少ないのも特徴です。そのことは介護の場面での苦労を生み出し,また,どのように対応すべきか悩むことが多い分野でもあります。そのため,診断・治療だけでなくマネジメントも含めて,それぞれについて現在わかっている科学的証拠(エビデンス)を知ることも大切ですので,本書ではそれらをわかりやすく取り上げています。
このように,診断基準を支える知識を補い,日々のクエスチョンに答え,マネジメントや治療を充実させる科学的証拠を取りあげて,「わかりにい」認知症を「わかる」に変えるのが本書です。認知症分野を幅広く,かつコンパクトにまとめることで,認知症診療を専門としない先生方はもちろん,改めて全体像を整理したい専門医の先生方にもお勧めできる本となっています。
本書が多くの患者の支えの一助になることを願っております。
2020 年 11 月
東 晋二
本書の目的についてはすでに東晋二先生により十分に述べられていますから,それをただ繰り返すことはここでは避けておきます。そのかわり,この本を出版するにあたり東晋二先生とタッグを組んだ理由をここで語っておきましょう。
東先生と私は,東先生が筑波大学附属病院に勤務されていた間は特に関わりが多く,仲がよかったことが今回タッグを組んだ最大の理由でしょう。仲がいいといってもプライベートで酒を酌み交わすような意味ではありません。私たちは同じ病棟で働き,時間を見つけてはランチを共にし,医療につき語り合う中で,精神科医療・精神医学に携わる者として多くの価値観を共有しているのを感じていました。日々の臨床を実践する際,どこまでが分かっていて,どこからが不明確なのか,精神医学が全知全能でも万能でもなく,私たち自身がすべてを知るわけでもないと知る謙虚さを意識しながら,その範囲でできることを模索する,という姿勢も共通しており,その姿勢は本書にもよく表れています。また,何かを語る上で,無闇に言葉を連ねて冗長にすることを慎み,伝えるべき内容を選び的を射た発言を大切にし,相手に伝わる説明に努める姿勢も共通しています(ちなみに,出席した会議が長びけば「お前が会議を早く進めさせろ」と机の下で互いにつつきあう仲でもありました)。ですから,本書は情報が豊富でも読みきれず頭に入らない難解な本になることを避け,それでいて本格的な専門知識をできるだけ正確に読み手に届けられるよう書かれているはずです。
そして,私と東先生とで違う点もあります。それは,私自身は認知症に精通していたとはいえず,東先生は認知症につききわめて高度なレベルで詳しいということ。本書は「松崎が理解できる本,それでいて専門的な内容まで網羅した本」を目指して書かれ,私が抱く日常臨床の中での疑問や,認知症の専門家が語る内容への戸惑いなどへのアンサーも含めて執筆されたものです。そんな本書を通して,認知症のエキスパートである東先生の英知を皆様にお届けできることを喜ばしく思っております。
執筆の経緯と,私たち二人の想いを知った今,皆様には本書がただの無味乾燥な情報の塊ではなく,ひとつの人格を持った本であることを感じていただけたのではないでしょうか……いや,ここはまだ序文です。ここから先,認知症の方々,そのご家族,医療や福祉の場で認知症の方々と向き合う専門職への熱い想いを胸に,少しでも認知症についての理解を深めていただけるよう,読者に語りかけるつもりで綴られた血の通った言葉が続きます。日本の多くの高齢者の方々に,そして,読者である医療・福祉の皆様に,この一冊が少しでも救いをもたらすことを心から願っております。
2020 年 11 月
松崎朝樹
2021-02-24
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
3ページ 本文最終行
(誤) アルツハイマー型認知症の85%を診断でき(感度85%)
(正) アルツハイマー型認知症の71%を診断でき(感度71%)
4ページ 1行目
(誤) 71%を否定できた(特異度71%)
(正) 85%を否定できた(特異度85%)
4ページ 3行目
(誤) 83%を診断でき,アルツハイマー型認知症でない人の71%を否定できました。
(正) 89%を診断でき,アルツハイマー型認知症でない人の92%を否定できました。
4ページ 8行目
(誤) 66%を予測でき,アルツハイマー型認知症にならない人の57%を否定できました
(正) 57%を予測でき,アルツハイマー型認知症にならない人の66%を否定できました
4ページ 10行目
(誤) 64%を予測でき、アルツハイマー型認知症にならない人の78%を否定できました。
(正) 79%を予測でき、アルツハイマー型認知症にならない人の58%を否定できました。