PART 1 総 論
1 どこに詰まる? 何が詰まる?
本書の紹介をかねて
●坪川 恒久 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
2 循環障害の病態生理
虚血・阻血による臓器障害メカニズムと耐性獲得戦略
●広田 喜一 関西医科大学附属生命医学研究所 侵襲反応制御部門
3 日本における塞栓症
虚血性心疾患と脳梗塞を中心に
●高嶋 直敬 近畿大学医学部 公衆衛生学教室
4 周術期に生じる塞栓症
日本麻酔科学会の肺血栓塞栓症症例調査から
●橋場 英二 弘前大学医学部附属病院 集中治療部
コラム1 肺血栓塞栓症を巡る医学史
●坪川恒久 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
PART 2 血栓総論
5 なぜ血栓ができるのか
血小板と凝固因子の両面性
●朝倉 英策 金沢大学附属病院 高密度無菌治療部
6 深部静脈血栓症の術前スクリーニングと肺血栓塞栓症の診断
周術期患者はDVT高リスク群である
●平﨑 裕二 済生会宇都宮病院 麻酔科
7 悪性腫瘍と血栓症
●田村 雄一 国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧センター
8 血栓を形成する疾患
●滝口 純・西川 真子 東京大学医学部附属病院 検査部
9 感染症による血栓症
●松田 直之 名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
10 薬物と血栓症
●細川 麻衣子・加藤 里絵 昭和大学医学部 麻酔科学講座
11 予防法1
抗血小板薬
●中嶋 康文・相原 聡・穴田 夏樹 関西医科大学 麻酔科学講座
12 予防法2
抗凝固薬
●香取 信之 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
13 予防法3
理学的予防方法
●堀田 訓久 自治医科大学 麻酔科学・集中治療医学講座
PART 3 動脈性血栓
14 下肢動脈血栓症
●保科 克行 東京大学 血管外科
15 脳梗塞
血栓溶解・回収療法
●橋本 洋一郎・和田 邦泰 熊本市民病院 脳神経内科
16 術中発症の脳梗塞
ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症
●瀧澤 克己 旭川赤十字病院 脳神経外科
17 脊髄梗塞
●石田 和慶 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 麻酔科
●山下 敦生・松本 美志也 山口大学大学院医学系研究科医学専攻 麻酔・蘇生学講座
18 周術期心筋梗塞1
急性心筋梗塞
●中川 義久 滋賀医科大学 循環器内科
19 周術期心筋梗塞2
ステント血栓症
●雨宮 勝嗣・高亀 則博・中村 正人 東邦大学大橋医療センター 循環器内科
20 非閉塞性腸間膜虚血
●鈴木 修司・下田 貢・島崎 二郎 東京医科大学茨城医療センター 消化器外科
PART 4 静脈性血栓
21 下肢静脈血栓
●秋吉 浩三郎 福岡大学医学部 麻酔科学教室
22 肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
●榛沢 和彦 新潟大学医歯学総合研究科 先進血管病・塞栓症治療・予防講座
コラム2 誰にでもできる下肢静脈血栓のエコー
●菅原 将代 東京大学医学部附属病院 検査部
23 周術期肺血栓塞栓症
●中澤 絢乃・黒岩 政之 北里大学医学部 麻酔科学教室
24 心臓外科手術中の心腔内血栓症・肺血栓症
●吉井 龍吾 京都府立医科大学 麻酔科学教室
●小川 覚 京都府立医科大学 疼痛・緩和医療学教室
25 門脈血栓症
●赤松 延久 東京大学医学部附属病院 肝胆膵外科・人工臓器移植外科
PART 5 その他の塞栓症
26 中心静脈穿刺の空気塞栓
「空気 読んで!」
●徳嶺 譲芳・箱根 雅子・辻 大介 杏林大学医学部 麻酔科学教室
コラム3 空気塞栓の致死量
●髙橋 伸二 順天堂大学附属浦安病院 麻酔科(ペインクリニック)
27 脳神経外科手術における空気塞栓
●井上 莊一郎 聖マリアンナ医科大学 麻酔学教室
28 気脳症
稀だけれど知っておくべき合併症
●坪川 恒久 東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
29 心臓手術における空気塞栓
●石井 久成 天理よろづ相談所病院 麻酔科
30 菌塊塞栓,腫瘍塊塞栓
●安藤 寿恵・岡本 浩嗣 北里大学医学部 麻酔科学教室
31 腹腔鏡下手術におけるガス塞栓
●鈴木 昭広 自治医科大学附属病院 麻酔科/周術期管理担当部門
32 減圧障害(減圧症・動脈ガス塞栓症)
●鈴木 信哉 亀田総合病院 救命救急科・高気圧酸素治療室
33 セメント塞栓,脂肪塞栓
●簗瀬 賢・白神 豪太郎 香川大学医学部附属病院 麻酔・ペインクリニック科
34 産科的塞栓症
周産期および妊産婦の塞栓症
●須賀 芳文・角倉 弘行 順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
APPENDIX
ガイドラインを使いこなす
●清野 雄介 東京女子医科大学 集中治療科
「麻酔科医なら知っておきたい血栓症・塞栓症」号によせて
巻頭言
ヒトは2本足で立つことで手を自由にし,進化してきた。ただし,2本足で立つことは循環にとってはかなりチャレンジングである。つまり,心臓からはるか下方にある足先まで降りてしまった血液を回収しなくてはならない。そのために“第2の心臓”と呼ばれる筋ポンプが発達した。具体的には,下腿,特にヒラメ筋内の静脈の変化による筋肉内の血液容量の増大と弁構造の発達である。これらにより足先の血液は単純に心臓が“吸い上げる”だけでなく筋ポンプにより“押し上げられる”ようになり,効率よく静脈還流を確保できるようになったわけである。
筋ポンプ作用は筋肉が弛緩と収縮を繰り返す(つまり歩行している)うちは有効である。しかし,筋肉が収縮しない状況(つまり床上安静)が持続すると問題が生じてくる。血液の滞留により血管内での血栓形成が進んでしまうのである。直立二足歩行という光に対する影である。ヒトが2本足で歩く限り,肺血栓塞栓症のリスクはつきまとう。われわれ麻酔科医は,手術と続く床上安静という肺血栓塞栓症のリスクがぐっと高まる時期に患者と接する。
肺血栓塞栓症以外にも循環を途絶させる血栓症・塞栓症がある。それらはいずれも,臓器の血流を途絶させ機能障害から壊死にまで至らせるやっかいな合併症である。患者が意識を消失している全身麻酔中や完全に回復していない術後にこれらの合併症が起きると診断が遅れ,不可逆的な臓器障害に陥るリスクがある。“こころの準備”がなくこのような緊急事態に遭遇することは患者にとってはもちろんのこと,麻酔科医にとっても悪夢である。患者ごとに血栓症・塞栓症のリスクを評価し,予防措置を講じ,さらに適切なモニタリングを行って,治療のタイミングを逃さないようにする必要がある。つまり,周術期の患者を預かる麻酔科医には,予測,予防,診断,治療の知識が求められる。
備えあれば憂いなし! 本別冊で準備をしましょう。
東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
坪川 恒久