鑑別診断の力強い味方! 調べやすく理解も深まる実践マニュアル
生理学の基本を押さえた上で、診断への道筋や臨床所見の評価方法、治療法について、簡潔に要点をまとめ解説した実践マニュアル。電解質異常をタイプごとに詳細かつ体系的にリスト化。また遺伝性疾患を含め鑑別すべき疾患が網羅・記載され、鑑別診断や必要な検査項目等を見落とさないためのリファレンスとして役立つ。章末に実戦的な症例問題を豊富に掲載。(119症例と複数の設問) 臨床現場で気軽に参照でき、研修医から専門医まで最適。
Part I 水・電解質・酸塩基平衡障害:生理学の基礎と管理 1
1 体液コンパートメント
専門用語の解説
体液コンパートメント(分画)
2 尿中電解質と尿浸透圧の解釈
重要な計算式 16
3 腎臓での塩化ナトリウム(NaCl)と水の処理
近位尿細管
Henle ループ
遠位尿細管
集合管
水の再吸収
NaCl と水の再吸収(輸送)でのさまざまなホルモンの作用
NaCl 輸送機序の異常
4 静注輸液:組成と適応
crystalloid(晶質液)
colloid(膠質液)
輸液治療の目標
輸液はどれだけ血管内コンパートメントに残るのか?
維持輸液と電解質補正
特殊な病態での輸液療法
重症患者での輸液療法のフェーズ
5 利尿薬
分類
生理的効果
臨床使用
合併症
6 細胞外液量の異常:基礎概念
細胞外液量調節機序
細胞外液量が増加する状態
有効動脈血液量の概念
浮腫の形成
7 細胞外液量の異常:うっ血性心不全
臨床的評価
うっ血性心不全の治療
浮腫の管理
心腎症候群
8 細胞外液量の異常:肝硬変
臨床的評価
浮腫の治療
肝腎症候群
9 細胞外液量の異常:ネフローゼ症候群
臨床的評価
治療
10 細胞外液量の異常:細胞外液量の減少
細胞外液量減少の原因
減少は脱水によるのか,細胞外液量の減少によるのか
臨床的評価
治療
11 水バランスの異常:生理学
口渇感の調節
抗利尿ホルモン(ADH)の構造と生成
ADH 放出の調節
コペプチン
腎臓でのアクアポリンの分布
ADH の機序と作用
尿の濃縮と希釈
尿の濃縮と希釈の測定
電解質を含まない自由水クリアランス(電解質自由水クリアランス)の計算
水バランス異常
12 水バランスの異常:低ナトリウム血症
低ナトリウム血症の発症
低ナトリウム血症患者へのアプローチ
低ナトリウム血症の病態生理
低ナトリウム血症の特定の原因
低カリウム血症と低ナトリウム血症
低張性低ナトリウム血症の診断
低ナトリウム血症の症状と徴候
低ナトリウム血症に対する脳の順応
未治療の慢性低ナトリウム血症の合併症
低ナトリウム血症の治療
低ナトリウム血症の急速補正による合併症
入院患者における無症候性低ナトリウム血症の治療
13 水バランスの異常:高ナトリウム血症
高ナトリウム血症の機序
高ナトリウム血症患者へのアプローチ
高ナトリウム血症への脳の順応
高ナトリウム血症の症状と徴候
高ナトリウム血症の具体的な原因
高齢者での高ナトリウム血症
寡飲性(無飲性)高ナトリウム血症
高ナトリウム血症の治療
特異的な原因の治療
14 カリウムの異常:生理学
一般的特徴
近位尿細管
Henle ループ
遠位ネフロン
K+排泄に関連する因子
15 カリウムの異常:低カリウム血症
低カリウム血症の原因
診断
臨床症状
治療
16 カリウムの異常:高カリウム血症
高カリウム血症の原因
診断
臨床症状
治療
17 カルシウムの異常:生理学
一般的特徴
Ca2+ホメオスタシス
腎臓での Ca2+調整
Ca2+ 輸送に影響する因子
Ca2+ チャネル(TRPV5)に影響する因子
18 カルシウムの異常:低カルシウム血症
低カルシウム血症の原因
診断
臨床症状
治療
19 カルシウムの異常:高カルシウム血症
高カルシウム血症の原因
臨床症状
診断
治療
20 リンの異常:生理学
一般的特徴
リンのホメオスタシス
腎臓でのリンの調整
近位尿細管
腎臓でリンの調整をつかさどるもの
21 リンの異常:低リン血症
低リン血症の原因
臨床症状
診断
治療
22 リンの異常:高リン血症
高リン血症の原因
臨床症状
診断
治療
23 マグネシウムの異常:生理学
一般的特徴
Mg2+ ホメオスタシス
腎臓での Mg2+ の調整
24 マグネシウムの異常:低マグネシウム血症
低マグネシウム血症の原因
臨床症状
診断
治療
25 マグネシウムの異常:高マグネシウム血症
臨床所見
治療
26 酸塩基平衡の生理学
内因性の酸と塩基の産生
正常 pH の維持
濾過された HCO3-の再吸収
滴定酸の排泄による HCO3-の産生
アンモニウムイオン(NH4+)の産生による HCO3-の形成
総酸排泄量(尿の酸性化)
27 酸塩基平衡障害の評価
血液ガス分析のための動脈血 vs. 静脈血サンプル
動脈血ガスの評価
Henderson の式
アニオンギャップ
二次性の生理的変化(代償性反応)
酸塩基平衡障害の病因
酸塩基平衡障害の評価方法
混合性酸塩基平衡障害の評価方法
体液バランスと酸塩基平衡障害による血清[Na+]と[Cl-]の変化
28 アニオンギャップ(AG)上昇代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスの臨床症状
腎障害によるアシドーシス
有機酸の蓄積によるアシドーシス
毒性物質によるアシドーシス
29 高クロール血症性代謝性アシドーシス:尿細管性アシドーシス
尿 pH
尿アニオンギャップ(UAG)
尿浸透圧ギャップ(UOG)
近位尿細管性アシドーシス(II 型 RTA)
低カリウム血症性遠位
尿細管性アシドーシス(古典的または I 型 RTA)
トルエン摂取と遠位尿細管性アシドーシス
不完全型尿細管性アシドーシス(III 型 RTA)
高カリウム血症性遠位尿細管性アシドーシス(IV 型 RTA)
尿細管性アシドーシス(RTA)の鑑別
希釈性アシドーシス
慢性腎臓病(CKD)によるアシドーシス
糖尿病性ケトアシドーシス治療中の高クロール血症性代謝性アシドーシス
30 高クロール血症性代謝性アシドーシス:腎臓以外の原因
水処理
腸での電解質の輸送
下痢
胆汁瘻と膵液瘻
絨毛腺腫
腸管利用尿路変向術
下剤乱用
コレスチラミン
31 代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスの経過
代謝性アルカローシスに対する呼吸性反応
分類
原因
病態生理
臨床所見
診断
治療
32 呼吸性アシドーシス
生理学
呼吸性アシドーシス
33 呼吸性アルカローシス
呼吸性アルカローシス(低二酸化炭素血症)に対する二次的な生理学的反応
急性および慢性の呼吸性アルカローシスの原因
臨床症状
診断
治療
34 混合性酸塩基平衡障害
混合性酸塩基平衡障害の分析
治療
35 薬物誘発性酸塩基平衡障害
代謝性アシドーシス
代謝性アルカローシス
呼吸性アシドーシス
呼吸性アルカローシス
Part II 水・電解質・酸塩基平衡障害:特定の疾患と状況 487
36 急性腎障害
定義
水および Na+の不均衡
K+の不均衡
Ca2+の不均衡
リンの不均衡
Mg2+の不均衡
酸塩基の変化
37 慢性腎臓病
定義
Na+の不均衡
水の不均衡
K+の不均衡
Ca2+の不均衡
リンの不均衡
Mg2+の不均衡
酸塩基の変化
38 腎移植
体液量の変化
電解質異常
酸塩基の変化
39 肝疾患
体液量の不均衡
水の不均衡
K+の不均衡
Ca2+の不均衡
リンの不均衡
Mg2+の不均衡
酸塩基の変化
40 妊娠
血行動態の変化
体液量の変化
電解質異常
酸塩基の変化
その他
水・電解質・酸塩基平衡異常は日常診療でしばしば遭遇する異常である。この異
常を適切に管理するには,基本となる生理学にもとづいて,鑑別すべき多数の疾患
を得られた所見から適切に絞り込んで異常をきたしている原因を診断し,原因と病
状に応じた治療が必要となる。体液中の水分量,各種電解質および酸濃度は,おの
おのが異なった機構により調整されており,障害を引き起こす機序や疾患はそれぞ
れ多数ある。日常診療において,これらのすべてを頭の中に入れて診療することは
なかなか難しいことである。
本書は主要な水・電解質・酸塩基平衡異常とともにこれを生じやすい主要な疾患
について,基本的な生理学の記載からはじまり,網羅的に,かつ簡潔に,鑑別すべ
き疾患の要点,診断への道筋や臨床所見の評価方法,そして治療法について,それ
ぞれの重要な点がよくまとめられ,記載されている。特に,遺伝性疾患を含め鑑別
すべき疾患のほぼすべてが記載され,それらをどのような道筋で鑑別していくのか
が系統的に述べられているため,日常診療において異常に遭遇した際には,鑑別診
断や必要な検査項目等を見落とさないためのリファレンスとして利用するにはうっ
てつけの本である。また,個々の異常について生理学にもとづいて理解しやすい工
夫のなされた記載であることに加えて,章末の症例問題を考えることにより知識を
整理できるため,熟読により個々の疾患を系統的に学ぶことも可能である。
日本語への翻訳については,理解しやすいことを最大の目標として,多少の意訳
となってもできるだけ平易でわかりやすい文章となるように心がけた。また,日々
の臨床において本書を役立てられるように,本書内に記載のある薬物については,
できるだけわが国の製品情報を追記した。さらに,わが国の臨床検査値の基準値表
(見返し参照)も掲載した。
実践的な本書が,腎臓や救急医療の専修医や専門医のみならず,開業医,研修医,
学生とあらゆる方々にさまざまな場で広く活用していただけることを切に願ってい
る。そして,この本によってより多くの方々が水・電解質・酸塩基平衡異常に一層
の興味と診療に対する自信をもち,異常を有する症例に的確に対応してくださるこ
とを期待したい。
2022 年2 月 長引くコロナ禍のなかで
安田 隆
深川雅史
2023-12-12
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
428頁「表31-3 代謝性アルカローシスでの検査所見」[HCO3-]の欄
矢印:下向きはすべて上向きに
2023-03-31
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
283頁「急性腎障害」4行目
(誤)(1)1,25(OH)2ビタミンDの産生減少,(2)副甲状腺ホルモンparathyroid hormone(PTH)に対する骨の反応性低下,(3)軟部組織におけるリン酸カルシウムの形での沈着
(正)(1)腎排出量減少,(2)横紋筋融解あるいは腫瘍溶解症候群の際に損傷した筋からの放出,(3)急性代謝性アシドーシスでの細胞外へのリンの移動
406頁「Case 8」の解答
(誤)F=1
(正)F=2,3
418頁「Question 3」の「Answer」
(誤)しかし,重度の下痢で体液量減少が生じると尿中のアンモニウムイオン(NH4+)排泄が増加し,尿pHは上昇する。
(正)重度の下痢では,下痢誘発性の低カリウム血症によりNH3合成が増えるので,尿NH3排出は増加する。遠位で分泌されたH+がNH3と結合しNH4+を生成し,pHは上昇する。
2022-09-20
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
327頁
「図26--3 皮質集合管B型間在細胞でのH+分泌とHCO3-再吸収機構」
→「図26-3 皮質集合管B型間在細胞でのH+再吸収とHCO3-分泌機構」
2022-05-02
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
17頁
(誤)1mgCr =88.4μmol/L または0.0884mmol/L
(正)Cr 1mg/dL=88.4μmol/L または0.0884mmol/L