夜の勤務はキツい…どう切り抜けよう
救急医、睡眠専門医、看護師 3者の視点で応援します
医療従事者にとって、当直・夜勤などのシフト勤務をいかに乗り切るかは大きなテーマである。救急医(志賀隆先生)、睡眠専門医(伊田瞳先生)、看護師(かげ)の3人がコラボレーションし経験とエビデンスをもとに、(1)夜の勤務チーム、(2)夜勤における睡眠、(3)患者さんが安定するための先手の予防策、(4)夜のトラブルにどう対応するかの4つのパートに分けて解説。過酷な現場で働く医療者に役立つ情報とエールを送る。
PART 1 夜の勤務チーム
夜の仕事が始まる前に気をつけること
メンバー把握,チーム構成の重要さ
夜の申し送り(電話)で気をつけること
多職種とうまくチームワークを築くには?
勤務のリーダーはどう振る舞う?
フォロワーシップってなんだっけ?
PART 2 夜勤における睡眠
そもそも「よい睡眠」とはなんだろう?
睡眠時間って,どのくらい必要なの?
睡眠にとってよい環境
睡眠を見よう
睡眠衛生を知ろう
入院患者さんの睡眠に起こっていること
当直・夜勤者(交替勤務者)の睡眠に起こっていること
当直・夜勤の睡眠はどうとる?
「交替勤務障害」を知っていますか?
眠気がつらい人に何が起こっている?
患者さんから「私はナルコレプシーかもしれないんです」といわれたら?
自分の睡眠を守り,患者さんの睡眠を守る
PART 3 患者さんが安定するための先手の予防策
身体抑制はどうするか?
睡眠薬はどうするか?
アルコール離脱予防のコツ
悪化しそうな患者さんにどうやって気づくか?
PART 4 夜のトラブルにどう対応するか?
急変時に集めておくべきもの
患者さんがアタマを打った!
患者さんが発熱した!
息が苦しい患者さんへの対応
ショックの患者さんへの対応
患者さんの意識が急に悪くなった!
終末期の患者さん
患者さんがいなくなってしまった?
怒っている患者さんにどうやって対応する? 夜は人員も少なくて大変なのに……
夜の勤務は尊い仕事です!
「先生は宇宙の摂理を理解していない!」
夜の勤務をしている救急医の私が患者さんのご家族にいただいた言葉です。
ウイルス性の感染症で重症化しつつある患者さんが夜の23 時に搬送されました。酸素飽和度も下がりつつあり,入院をお勧めしたところ,ご家族から「ぜひX という薬を使ってください! もし使ってくれないなら帰宅します!」と強く宣言されました。0 時過ぎになっても,さらに救急搬送が続きます。そんななか,科学的な判断についてご説明をしました。ただ,議論は平行線で,いろいろと「それは違います!」と多くのコメントが続きます。「どうしよう! 大ピンチだ。。。なんで今晩に限ってこんなにたいへんなんだろう?」と思いました。こんなことってないでしょうか? 夜の勤務では定期的にピンチがやってきます。とてもたいへんな仕事です。
もう「夜の勤務なんて嫌だー!」と思うことは私にもあります。ただ,急性期病院で働いている医療職は,社会への貢献の要素もあり,夜に外来や入院の対応することが多いです。私は,困っている患者さんやご家族の助けになる「夜の勤務」はまさに社会のインフラの1 つだと思っています。とはいえ,夜の勤務は医療者の「体にも心にも負担」なことも事実です。昼間の勤務はマンパワーや医療資源に恵まれているし,指導の体制も非常に充実していることが多いです。一方で,夜は人手も足りなくなるし,経験のある先輩に囲まれて「安心の勤務」ともならないことも多いです。
本書では,そんな尊い「夜の勤務」をしてくれている大切な仲間のみなさんを応援したり,お助けしたりできたら!という考えで作成されました。もちろん,科学的な根拠に基づいていますが,経験豊かな3 名の臨床家・ツイッタラーのコラボレーションというカタチをとりました。MEDSI の佐々木さんという素晴らしいプロデューサーのもと,睡眠の専門家のDr. Hitomi,看護の専門家のNs かげさんと一緒に,救急医の志賀が執筆しています。
内容としては,「夜勤でのコンディションをよくするためにどのように準備をしたらいいのか?」というところから,睡眠についてのPART 2,「夜の勤務のチームワークは?」,夜中に患者さんが急にいなくなったらどうしたらいいの?,など多岐にわたる実践的な内容です。
1 人の執筆者だけの意見にならないように多くの項目に他の執筆者が互いにコメントを入れるようにしています。1 冊の本なのに3 人のエキスパートの意見を学ぶことができる優れものの本になっています。尊い「夜の勤務」に臨まれる全国の医療者のお悩みの解決や助けになればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
志賀 隆
このたびは,本書をお手に取ってくださりありがとうございます。この場を借りてご挨拶させていただきます。
この本を手に取られた皆様は,どのような困りごとのために手に取られたか……。おそらく,「患者さんにまつわるお困りごと」,「自身にまつわるお困りごと」の2 パターンがあるのではないかと想像いたします。
睡眠医療は数ある医学分野のなかでも,突出して患者さんを守ること,自身を守ること,の両輪から役立つ分野であると考えております。
申し遅れました。私は現在,埼玉県のクリニックで睡眠外来をやっております,伊田と申します。他の2 人の先生方に比べて,誰アナタ(?)状態で,たいへん恐縮です。
今回,志賀教授から「当直や夜勤中の医療従事者の睡眠のとり方について執筆してほしい」と熱いお願いを頂戴し,僭越ながら執筆に参加させていただきました。
睡眠外来には,多くの若い方がいらっしゃいます。彼らの睡眠にまつわる困りごとは,多くの場合,ご自身の仕事や学業と密接に関係しているのです。きつい3 交替制の勤務や車内での寝泊まりを含む長距離運転,法の目をかいくぐった長時間残業……。彼らに,ご自身の勤務状況が睡眠に悪影響を与えていると説明するたびに,同業の労働体制について思いをはせざるをえませんでした。
今回,このような形で,当直・夜勤をこなす皆様の健康にお役立てできることをたいへん嬉しく思います。本著が,労働者たる医療従事者を危険にさらしながら成り立たせている今の医療,特に,救急医療体制に一石を投じられることを願っております。
伊田 瞳
はじめまして。看護師のかげと申します。普段は総合病院の急性期病棟で看護師として働いています。
そして,2 年前に救命救急センターに所属していたときには1 か月あたりの夜勤が8 回でした。周りの友人からは夜勤ができるなんてすごいと言われたりしましたが,私は夜勤がとても苦手です。勤務表が出たときは夜勤の回数,曜日,メンバー,役割(スタッフなのか,リーダーなのか,初療担当か…)を確認し,夜勤前は少し憂鬱な気分になっていました。なるべく日勤がいいな…といつも思っていました。そのような気持ちになったりしても,医療や看護を行うことに興味はあったので,試行錯誤しながら今では新人やほかのスタッフをフォローしながら働けるようになりました。
そして,SNSでは匿名で医療関係のイラストや仕事について発信をしているのですが,新人看護師や業務リーダーを行う4・5 年目から夜勤中の仕事の相談を受けることがあります。夜勤は睡眠リズムの変動やスタッフが日勤よりも少なくなり業務や責任が増大する,スタッフとのかかわりへの不安から精神的なストレス,疲労や体調不良になるなど夜勤を行うことへのアドバイスを求める声が聞かれました。本書では,自分の夜勤の経験や相談をもとに先生方や,編集さんと協力し,夜勤を少しでも安心して行うために必要なことが書かれています。
私が3年目の頃に尊敬している先輩が夜勤について話をしてくれました
「入院している患者さんの夜の時間帯は休息をするために最低限の治療や検査になる。1 日のなかで実は最も患者さんが日常生活に近づく時間になる。医療者として患者さんの日常生活に近い状態を知り,安全に快適に過ごせるようにも考える夜勤帯は,とてもやりがいがある。」
夜勤帯はさまざまなことが起こり,本書のタイトルのようにまさにサバイバルです。サバイバルでも,時に楽しい時間やほっとする時間がつきもので,忙しい・たいへんになったとしても患者さんを知ることを忘れないでいたいものです。
一緒に本書をつくってくださり,また医学書を匿名で執筆させていただくことを受け入れてくださった志賀先生,伊田先生,メディカル・サイエンス・インターナショナルのみなさま並びに書籍担当編集の佐々木様にこの場をかりて厚く御礼申しあげます。
この本は夜勤・当直を行う医療者のためにつくられた本です。ぜひ本書を読んでいただき,夜の勤務が少しでも前向きになることを願います。
かげ
2023-04-25
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
11ページ上から12行目
(誤)遂行きる
(正)遂行できる
30ページ上から3行目
(誤)フォローワー
(正)フォロワー
119ページイラスト内
(誤)練絡します
(正)連絡します
133ページ下から2行目
(誤)バルサイン
(正)バイタルサイン
154ページ吹き出し内下から4行目
(誤)解離
(正)乖離