基礎知識も、現場の知識も、新しい情報も この1冊でわかる!
次世代シークエンサーを使う「がん遺伝子パネル検査」によって患者の治療方針を決めるがんゲノム医療。その基礎知識から医療の実際までを、最新の情報を盛り込りみつつ、わかりやすい図と読みやすい文章で系統的かつコンパクトに概説。全国がんプロ協議会の監修の下、各分野の第一人者からなる講師陣が執筆。がんゲノム医療に関わるすべての医療従事者、特に初学者やもう少し整理して理解したい人のための入門的解説書。
Part 1 ゲノム医学の基礎
第1講 ヒトゲノムの基礎:混同しがちな用語や概念を整理する (青木洋子)
1.1 ヒトゲノムの構成要素を正しく理解するために
1.2 遺伝子の変異の記載方法を学ぶ
第2講 ゲノム解析手法:次世代シークエンサーを用いて遺伝子の塩基配列を解読する (坂井和子)
2.1 次世代シークエンサーを用いたがんの遺伝子検査の概略
2.2 検体採取から核酸の抽出
2.3 リキッドバイオプシーの血液検体採取
2.4 ライブラリ調製の工程
2.5 シークエンシング
2.6 データ解析の工程
Part2 がんとゲノム
第3講 ゲノム異常と発がん:がん遺伝子,がん抑制遺伝子,DNA 損傷修復 (有山 寛)
3.1 がん遺伝子とがん抑制遺伝子
3.2 細胞に備わっているDNA の修復機構
3.3 ゲノム不安定性と疾患
第4講 がんゲノム医療総論:ドライバー遺伝子の異常を網羅的に調べて治療法を決める医療である (佐藤太郎)
4.1 がんを引き起こすドライバー遺伝子
4.2 がんゲノム医療における分子標的薬
4.3 治療法選択のためのコンパニオン診断
4.4 がんゲノム医療の遺伝
4.5リキッドバイオプシー
第5講 ビッグデータ解析とバイオインフォマティクスとデータベース:公共データベースとC-CAT (講師:土原一哉・河野隆志,協力:高橋秀明)
5.1 クリニカルシークエンシングのデータベース
5.2 C-CATのデータベースとサービス
5.3 C-CAT調査結果のエビデンスレベル
5.4 データベースを活用する際の注意点
Part 3 がんゲノム医療の実際
第6講 がんゲノム医療現場の実際:どのような流れで進行するか (金井雅史)
6.1 がん遺伝子パネル検査の手順と対象患者
6.2 がん遺伝子パネル検査のシークエンシング
6.3 専門家会議であるエキスパートパネル
6.4 二次的所見について
第7講 がんゲノム医療現場の実際(症例提示):エキスパートパネルの紹介 (城田英和)
7.1 エキスパートパネル実施のための体制
7.2 症例検討の実際
第8講 がんゲノム医療における患者・家族支援:精神的側面からのケアを行う (佐々木元子)
8.1 がん患者や家族がかかえる心理的ストレス
8.2 ゲノム医療が加わることで必要になる支援
8.3 小児・AYA 世代の患者・家族支援
第9講 遺伝性腫瘍総論と遺伝カウンセリング:一般的ながんとの違いは何か (渡邉 淳)
9.1 遺伝性腫瘍とは何か?
9.2 遺伝性腫瘍の確定診断に必要な遺伝学的検査
9.3 近年の動向:遺伝学的検査を受ける目的が多様化,保険診療の適用範囲が拡大
9.4 遺伝カウンセリング
第10講 遺伝性腫瘍各論:がんゲノム医療で重要な3 疾患について知る (櫻井晃洋)
10.1 HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)
10.2 リンチ症候群
10.3 リ・フラウメニ症候群
第11講 がんプレシジョンメディシンの現在と将来:エクソーム解析やリキッドバイオプシーなど (洪 泰浩)
11.1 エクソン領域を対象としたエクソーム解析
11.2 血液を用いた解析方法であるリキッドバイオプシー
11.3 疾患のリスクは多遺伝子リスクスコアで判断できる
Part 4 ゲノム医療とELSI
第12講 ゲノム医療・研究と倫理・個人情報保護:なぜ倫理を学ぶ必要があるのか (田澤立之)
12.1 がんゲノム医療の現状
12.2 臨床研究における医療倫理
12.3 個人情報保護
第13講 網羅的遺伝子解析と生殖細胞系列の情報:最近の動向と遺伝性腫瘍の情報開示 (平沢 晃)
13.1 網羅的遺伝子解析に関する最近の動向
13.2 がんのゲノム解析から検出される遺伝性疾患について
Part 5 がんゲノム医療に必要な体制と人材
第14講 がんゲノム医療に必要な人材・多職種連携:どのような専門職が参加するか (野口恵美子)
14.1 がんゲノム医療におけるチーム医療の必要性
14.2 どんな職種の人材がチームを構成するのか
14.3 がんゲノム医療の課題に多職種連携で取り組む
第15講 がんゲノム医療に関する医療制度:実施医療機関,C-CAT,保険診療 (織田克利)
15.1 がんゲノム医療の3 つの実施医療機関
15.2 がんゲノム情報管理センター(C-CAT)の役割
15.3 がん遺伝子パネル検査と保険制度
15.4 患者への説明資料,同意書,報告書ひな形
はじめに
20世紀最後の20年間は,がん関連遺伝子が続々と同定された,まさに遺伝子ハンティングの時代でありました。それまでは発生臓器と病理像,表面マーカーなどによって個別化が図られていたがんに,新たにゲノム情報という新規のマーカーが加わることになったのです。一方,これは遺伝子の機能解析と並行した分子標的薬開発の幕開けともなりました。実際,20世紀に開発,上市された抗がん剤のほとんどが殺細胞性薬剤であったのに対し,ミレニアムを境として,それ以降に医療現場に導入された新規薬剤のほとんどは分子標的薬です。がんは遺伝子を調べてその特性を知り,また治療戦略を考える時代になったといえます。
以前は特定の分子標的薬の適応判断には,その薬剤の効果が期待できる(もしくは期待できない)遺伝子の変化を一つひとつ調べるという手間と時間のかかる方法がとられていましたが,ゲノム解析技術の新時代の幕開け,すなわち次世代シークエンサーの登場によって,多数の遺伝子を同時に短時間に,かつ以前よりも安価に調べることができるようになりました。その結果としてがん診療の現場に導入されたのが,包括的がんゲノムプロファイリング(がん遺伝子パネル検査)です。
わが国では,一元的にデータを集めてがんのゲノムレベルにおける実態を把握するとともに,精密なデータベースを今後の臨床試験や創薬に活かすべく,がんゲノム医療を国家全体の取り組みとして行うための体制整備が進められ,2019年から保険診療としてのがんゲノム医療が幕を開けました。現在はがんゲノム医療中核拠点病院,同拠点病院,そして同連携病院に選定された全国の医療機関において,がん遺伝子パネル検査が保険診療として行われています。
本書は,がんゲノム医療の基本をわかりやすくまとめた入門書として,がんゲノム医療を学ぼうとするすべての医療従事者(研修医,看護師,薬剤師など)や医学生の方々に読んでいただくことを想定して企画しました。執筆いただいた先生方は各領域のわが国の第一人者であり,それぞれの先生方の講義を聴くように読めることを目指して執筆をお願いしました。
本書で学んだ方々が,今後のがん診療に欠かすことのできないがんゲノム医療について関心を持ち,また,がんゲノム医療に従事されることによって,わが国のがん医療の発展に寄与されることを期待しています。
2022年2月
松浦成昭,櫻井晃洋,石岡千加史,西尾和人
2024-04-10
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
18ページ:表1.3
上から3段目の「逆位」の記号について
(誤) g3248l 638_32481654inv
(正) g32481638_32481654inv