周術期内科管理のディシジョンメイキング

周術期管理における力強い意思決定のために

新たなエビデンスが次々登場するなかでも色褪せない、周術期管理に関するクリニカルパールが数多く盛り込まれた米国内科学会(ACP)刊行書籍の邦訳。「周術期患者ケア入門」、「予防」、「術前評価と周術期管理」、「術後の問題」の4つのセクションで構成。周術期の内科管理の全体像を、臨床に即して過不足なくコンパクトかつ体系的に網羅。麻酔科医をはじめ、周術期管理に携わるすべての医療従事者必見の書。



電子版はこちら(医書JP)

¥6,380 税込
原著タイトル
Decision Making in Perioperative Medicine: Clinical Pearls
監訳:江木盛時 京都大学医学部附属病院麻酔科
ISBN
978-4-8157-3077-2
判型/ページ数/図・写真
B5変 頁344 図45
刊行年月
2023年5月
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SECTION Ⅰ 周術期患者ケア入門
1章 周術期医療コンサルタントの役割
2章 術前検査
3章 非麻酔専門医のための麻酔学
4章 周術期薬物管理
5章 抗凝固薬の周術期管理
SECTION Ⅱ 予防
6章 静脈血栓塞栓症(VTE)の予防
7章 手術部位感染(SSI)の予防
8章 感染性心内膜炎の予防
SECTION Ⅲ 術前評価と周術期管理:併存疾患と特殊な患者集団
9章 心臓リスクカリキュレーター
10章 冠動脈疾患
11章 うっ血性心不全
12章 心臓弁膜症
13章 不整脈,刺激伝導系障害,心血管植え込み型電子装置
14章 高血圧症
15章 呼吸器疾患
16章 睡眠時無呼吸と気道管理
17章 肺高血圧症
18章 糖尿病
19章 甲状腺疾患
20章 副腎疾患(褐色細胞腫を含む)
21章 貧血と輸血
22章 凝固障害
23章 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
24章 慢性腎臓病(CKD)
25章 肝疾患
26章 脳血管疾患
27章 発作性疾患,Parkinson病,重症筋無力症
28章 関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,その他の全身性自己免疫疾患
29章 肥満患者
30章 がん患者
31章 手術と高齢者
32章 回復力強化プログラム
33章 物質使用障害
SECTION Ⅳ 術後の問題
34章 発熱
35章 高血圧と低血圧
36章 非心臓手術後心筋傷害(MINS)
37章 心房細動
38章 肺炎と呼吸不全
39章 静脈血栓塞栓症(VTE)
40章 急性腎障害(AKI)
41章 せん妄
42章 疼痛管理
索引

周術期にかかわる医療者の役割:例えば全身麻酔とは
全身麻酔は,痛みからの逃避を抑制し,手術が可能な患者状態を作り出す。全身麻酔の三要素は,鎮静,鎮痛,筋弛緩からなるといわれるが,全身麻酔の本質は生体応答閾値の開大であり,一時的な生体の恒常性の破綻ともいえる。事実,全身麻酔下の患者では,自発呼吸が消失し,体温の調節機能が失われ,交感神経系の抑制により心機能が低下する。先人たちの弛まない努力により麻酔の安全性が向上した現代において,忘れ去られた事実かもしれないが,適切な全身管理がなければ,麻酔導入数分後に患者は危機的な状況に陥る。
周術期にかかわる医療者の役割は,術前,術中,術後のいずれにおいても,検査,生体モニターそして五感を用いて患者状態を把握し,全身管理の知識と技術を駆使して,麻酔や手術,急性・慢性疾患によって生じる恒常性の破綻から患者を守ることである。

周術期全身管理:その難易度の規定因子
過去20年にわたり,全身管理のプロトコール化や目標指向型管理の有用性が提唱され,患者予後の改善をもたらし,周術期管理の進化を促進してきた。しかし,プロトコール化やガイドラインの基盤となる研究は,厳選された患者群を対象に行われており,複雑な合併疾患や重篤な慢性疾患を有する患者にもその方法が適応となるかは不明である。手術の複雑性や侵襲度だけではなく,手術を要する患者のもつ多様な合併症が,周術期管理における難易度の重要な規定因子であるといえる。
術前合併症をもつ患者の周術期における全身管理を最適化していくためには,型にはまることなく,自身で考えて周術期管理を行うことができる能力が,周術期に携わるすべての医療者にとっても大事ではないだろうか。

考えて行う周術期管理:そのための周術期内科管理
“考えて行う周術期管理”は,行き当たりばったり,気ままに周術期管理することではない。考えて周術期管理を行うためには,患者の術前評価・病態評価を適切に行い,術前から周術期にかかわる医療者間で良好なコミュニケーションを保ち,必要な知識と周術期管理計画を準備したうえで周術期管理に取り組み,臨機応変に対応しながら,必要に応じて仲間に相談する器量が必要となる。“考えて行う周術期管理”とは,なぜそうしているかと聞かれれば,可能な限り論理的な理由を答えることができる周術期管理,ともいえるかもしれない。
近年の目標指向型管理とは逆行するような考え方と誤解されるかもしれないが,目標指向型管理が適した患者とそうでない患者を見極めることが重要であり,患者の状況に応じて変幻自在に形を変え,型にはまらず,患者の病態生理の形に添うように変化する,“考えて行う周術期管理”,その姿,水の如しである。

本書監訳のきっかけ:新しい仲間の皆さんとともに
2022年4月より京都大学麻酔科で新しい仲間の皆さんと一緒に仕事をする機会を得た。今まで仕事をしてきた施設と同じように,たくさんのよい仲間の皆さんに恵まれ,助けてもらいながら,患者さんや周囲の皆さんのお役に立てるように仕事をさせていただいている。
赴任してまだ3週間も経たない4月18日に,本書の監訳の機会について打診があった。まだ,物の場所を覚えたり,雰囲気になじんだりに注力している時期であった。全42章の監訳をするのは難しいことであるし,その時の自分にはその仕事を完成させるエネルギーを生み出す余力はないと思い,依頼をお断りするつもりでMEDSi の担当者とお会いした。
実際に原書である“Decision Making in Perioperative Medicine: Clinical Pearls”を拝見すると,実に素晴らしい本だと思った。そして,この本は僕が理想とする“考えて行う周術期管理”を実践し,教育するうえでもとても有用だと考えたので,思いを翻して監訳の責をお受けすることにした。訳書の際には,年齢など問わず,新たな仲間の先生たち,幅広い診療科の全国の優秀な先生たちに担当していただいた。この監訳をきっかけに新しい人の輪が増えたことも本当に嬉しいことである。

エピローグ
改めて振り返ると本書は非常によくまとまっていて,自身の知識の整理に大変有用であった。後輩の先生に質問されて,ふと不安になると本書を読むことが増えたのがその証拠だと思う。監訳作業を終えてから,本書の内容を研修医や専攻医の先生に向けて数分話をする時間を設けた。訳書にかかわってくださった皆さんに感謝しつつ,将来を担う若手の先生たちとの交流の時間を楽しんでいる。本書の監訳にかかわれたこと,感謝の一言に尽きる。
術前評価と周術期内科管理は周術期全身管理の要です。そのエッセンスを存分に含む本書を診療・教育にお役立てください。

京都大学大学院医学研究科・侵襲反応制御医学講座・麻酔科学分野
京都大学医学部附属病院 麻酔科 集中治療部
江木盛時

2023-11-15

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

108ページ:図12-1
「重度大動脈弁狭窄症」から下への矢印
(誤) 左「症状」,右「症状」
(正) 左「症状」,左「症状」

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