北米で働く日本人医療従事者による「リアル」なフレーズ452本
北米で働く現役の日本人医療従事者らが、臨床現場で日常的に使用している「生きた」必須のフレーズを編纂した医療英会話フレーズ集。医療従事者の一日に沿った構成で、出勤・外来・病棟・退勤の各場面ですぐに使えるフレーズを452本収載。臨場感を持って「読む」だけでなく、音声をダウンロードし「聞いて」学べる。ニュアンスまでわかり、伝わる、珠玉のフレーズが満載。
プロローグ
1 日のはじまり
Step 1 医局にて(001 - 016)
Step 2 受付にて(017 - 026)
Part 1 外来にて
1 初診の問診
Step 1 ご挨拶(027,028)
Step 2 OpeningQuestion(029,030)
Step 3 よくある訴え:痛みについて(031 - 055)
Step 4 随伴症状について(056 - 076)
Step 5 症状をまとめる(077)
2 初診:病歴聴取
Step 1 既往歴,アレルギー,服薬歴(078 - 099)
Step 2 家族歴,婦人科歴,性交歴(100 - 119)
Step 3 社会歴,生活歴(120 - 133)
Step 4 排尿・排便,睡眠,食事,運動(134 - 144)
Step 5 小児の患者(145 - 167)
3 診察(視診・聴診・触診)
Step 1 導入(168 - 171)
Step 2 頭頸部の診察(172 - 176)
Step 3 胸部の診察(177 - 183)
Step 4 腹部の診察(184 - 190)
Step 5 神経診察(191 - 224)
4 方針の決定・再診
Step 1 診察のまとめ(225 - 262)
Step 2 薬剤の説明(263 - 294)
Step 3 再診(295 - 328)
Part 2 病棟・医局で
5 入院患者さん・家族(329 - 362)
6 同僚とのやりとり(363 - 417)
7 ミーティング(オンライン含む)(418 - 437)
エピローグ
1 日の終わり(438 - 452)
この本を企画しながら,ふとニューヨークの地にはじめて降り立った頃のことを思い返してみました。純日本人である私は,渡米を前に医療英語の本を漁り,オンライン英会話で闇雲に英会話を鍛錬し,英語にはある程度自信をもって来たつもりでした。
しかし,蓋を開けてみると,理想と現実のギャップに苦しめられることとなりました。私が身につけてきた「英語」は,ニューヨークの病院の中で用いられているそれとは全く異なるものだったのです。
失敗談を挙げればキリがないですが,例えばこんなことがありました。まだ米国のレジデントになって間もない頃,指導医からこんなことを言われました。
“Let’s Texas him.”
東海岸特有の早口の会話を完全には聞き取れなかった私は,何かを聞き逃した可能性を考え,聞こえた単語だけからなんとなく内容を想起して,こんな風に尋ねました。
「テキサス? 彼はテキサスから来たんですか?」
これがいかに頓珍漢な回答か,今なら分かります。でも当時は指導医に大笑いされ,恥ずかしい思いをしました。
指導医のセリフの,実際の意図はこうです。
「彼にコンドームカテーテルを装着しよう」
米国には“Texas catheter”という名称の一般的なコンドームカテーテルがあり,それがさらに動詞化されて用いられていたのです。ちょうど“Let’s Google it.”のように。
ここで挙げた例は,どんなに前もって勉強していたとしても乗り越えられなかったかもしれませんが,こんな経験が数えきれないほどあり,「これまで何を勉強してきたのか」と自分を責める気持ちになりました。
今思えば,それもそのはずです。私が日本で使用していた英語のテキストは,多くが非医療者の書いたものでした。しかし現実は,日本でも病院という特殊な環境だけで用いられる独特な言い回しが数多く存在するように,英語でも医療者特有のフレーズがたくさんあるのです。また,日本語にも流行り廃りがあるように,英語も生きていて,言語の使われ方は時代とともに変わっていきます。
私の身につけていた英語は,然るべくして現場で通用しなかったのです。
本書は,前述したような大きなギャップ,すなわち私がニューヨークに初めて降り立った時に感じたギャップやフラストレーションを埋めるべく,北米で現役で働く日本人医療者で集まって作りました。まさに現在進行形で「生きた」英語を使って働く人が,その「生きた」英語を紹介する本です。そのおかげで,かゆいところにまで手が届く,あの時の私にこんな本があればと思えるような,素晴らしいフレーズ集になりました。
この本を手に取られたあなたは,きっと何年も前の私が経験したような苦しみを大きく減らせるはずです。この本に詰め込まれたものは,北米の医療現場の「リアル」だからです。この本が,どこかで誰かが世界へ羽ばたく第一歩になればと著者一同願っています。
著者を代表して
山田 悠史