エッセンシャル免疫学 第4版

初学者に「ちょうどよい」定番テキスト、待望の改訂



いかに免疫システムが機能し、ヒトに対して影響を与えるかを解説した免疫学の入門テキスト、7年ぶりの改訂。ヒトの免疫に関わる重要な分子の立体構造図や作用機序の模式図など、分子レベルで免疫システムを理解するための図表がさらに充実。新型コロナウイルス感染症の流行を反映したトピックスも加わり「アフターコロナ」の学びを後押し。医学、薬学、歯学、理学系の学部生にとって、内容・ボリュームともに最適な教科書。



エッセンシャル免疫学 第4版『演習問題と解答』



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¥7,150 税込
原著タイトル
The Immune system, Fifth Edition
監訳:平野俊夫 大阪大学 名誉教授・村上正晃 北海道大学遺伝子病制御研究所 分子神経免疫学分野 教授
ISBN
978-4-8157-3081-9
判型/ページ数/図・写真
A4変 頁600 図452
刊行年月
2023年8月
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第1章 免疫系の構成要素と生体防御における役割
第2章 自然免疫:感染に対する迅速な応答
第3章 自然免疫:感染に対する誘導応答
第4章 抗体の構造とB細胞の多様性
第5章 T細胞による抗原認識
第6章 B細胞の分化
第7章 T細胞の分化
第8章 T細胞を介した免疫
第9章 B細胞と抗体による免疫
第10章 粘膜表面における感染制御
第11章 免疫記憶とワクチン接種
第12章 自然免疫と適応免疫の共進化
第13章 生体防御機構の破綻
第14章 アレルギーと寄生虫に対する免疫応答
第15章 組織と臓器の移植
第16章 適応免疫応答による健常組織の破壊
第17章 がん,腫瘍免疫,免疫療法
用語集
図と写真の出典
欧文索引
和文索引

監訳者の序

 『エッセンシャル免疫学 第4版』の原著“The Immune System, fifth edition”が出版された2021年は,新型コロナウイルス感染症(Coronavirus induced disease, 2019:COVID-19)の世界的流行(パンデミック)の最中であった。2019年末に中国から始まった新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界中に広がり,7億人以上の感染者と,700万人近い死者を出した。幸いmRNAワクチンがタイムリーに開発されたおかげで,世界保健機関(WHO)は2023年5月「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了した。

 免疫系は感染症に対する防御機構である。例えば重症複合型免疫不全症の乳幼児は,生後1年ほどの間に感染症により死に至る。また,ヒト免疫不全ウイルスにより引き起こされる後天性免疫不全症候群の患者,あるいは臓器移植,がんや自己免疫疾患の治療などで化学療法や免疫抑制薬が投与された患者は,感染症の脅威に曝される。これらを踏まえると,免疫機能は人類がこの世で生存するため必須であることがわかる。

 人類の歴史は,感染症との戦いの歴史であったとも言える。1万年ぐらい前に農耕文明が始まり,定住化や野生動物の家畜化などが行われた頃から,天然痘や麻疹〈ルビ:ましん〉などの伝統的感染症が人類社会に大きな影響を及ぼすようになった。その典型的な例が,ヨーロッパでのペスト大流行によってもたらされた暗黒の中世時代と,それに続く封建体制の崩壊である。また,15世紀末にヨーロッパから南米にもたらされた天然痘の大流行によるインカ帝国やアステカ文明の滅亡を挙げることもできる。さらに,人類社会のグローバル化に伴い,地域特有の感染症が地球全体に拡散するようになった。その過程で,個々の感染症に対する免疫の有無は,戦争の勝敗や文明の運命に大きな影響を与えた。その後,18世紀のJennerによる天然痘に対するワクチンの発明や,19世紀から20世紀にかけての病原菌や抗菌薬の発見により,人類は伝統的感染症をある程度制御できるようになった。しかしながら,さらなるグローバル化の進展,移動手段・情報伝達手段の劇的な発展や人口増加などに伴う地球の相対的狭小化や環境破壊により,新型コロナウイルス感染症などの新興感染症が人類社会を脅かしている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは起こるべくして起きたといっても過言ではない。
 天然痘に対するワクチンが開発されてから約200年後の1980年には,WHOが「天然痘根絶宣言」を発した。これは人類が歴史上初めて感染症を根絶した画期的な出来事であった。さらに,種々のワクチン開発によって,ポリオや麻疹といった感染症の脅威から,乳幼児をはじめとする多くの人々が開放された。そして新型コロナウイルス感染症パンデミックにおいては,ワクチン革命と言えるmRNAワクチンによって,多くの命が救われている。ワクチンは人為的に適応免疫応答を誘導し,その病原体に対する免疫を付与することで感染症から人を守る手法である。したがって,今後のワクチン開発のためにもさらなる免疫系の理解が必要であろう。

 免疫系は,細菌,ウイルス,真菌,寄生虫などの病原体に対する生体防御機構として進化し,人類の生存に必須である。また,がんに対する防御でも重要な役割を果たしており,定常状態における生体の恒常性維持にも大きくかかわっている。さらに,免疫系は自然界に存在しない合成化合物や,将来宇宙から来るかもしれない病原体を含め,無限に近い種類の物質に対して反応できる潜在能力を有しており,自己反応性すら内包している。それゆえに,自己免疫疾患,アレルギー疾患,移植臓器や組織に対する拒絶反応などの負の側面をも有している。さらに白血病治療のためのCAR-T療法や重症の新型コロナウイルス感染症における致死的なサイトカインストームなど,生体にとって有害な反応も起こす。このように「諸刃の剣」でもある免疫系をいかにして人為的に制御するかは,感染症だけでなく,自己免疫疾患やがんの治療,臓器移植医療にとっても重要な観点となる。

 本書の日本語版旧版(第3版)は,2016年に原著旧版(fourth edition)の全訳版として出版されたが,2022年初めに同書の監訳者である故笹月健彦先生から,日本語版新版の出版にあたって監訳者を務めるように依頼された。そこで,村上正晃教授にも監訳者として参加していただくことにした。本書は,医学部学生だけではなく,獣医学部,歯学部,薬学部,農学部,理学部などの生命科学分野の学生はもちろんのこと,工学部の学生や,製薬企業や科学・医療行政に関与している方々にも免疫学を理解していただける入門書である。本書を活用して免疫学の基本を理解しながら,必要に応じて専門書を参照していただきたい。そして,免疫学の研究や,医学・医療,新薬開発やワクチン開発,さらには科学行政や医療行政の推進に役立てていただきたい。本書が健康長寿社会の実現はもちろんのこと,今後ますます脅威となる新興感染症の脅威から人類社会を守ることに少しでも結びつくことを期待している。また,本書により,免疫学を志す若い人が1人でも多く輩出することを願ってやまない。
 まずは第1章を読んで,免疫学の全体像を理解してほしい。その上で基礎から学びたい人は,第2章から順に読んでいただきたい。一方,免疫学は難解であると考えている人や,とりあえず免疫学の医療応用など身近な点から学んでみたいと考えている人は,第11章以降の興味ある章から読んでいただきたい(第11章:ワクチン,第13章:感染症,第14章:アレルギー,第15章:移植医学,第16章:自己免疫疾患,第17章:がん免疫療法など)。そのうえで,必要に応じて第2章から第10章,第12章に記載されている,免疫学の基礎を学ぶのがおすすめである。

 本書の翻訳にあたっては,わが国の免疫学の第一線で活躍中の比較的若い研究者の方々にお世話になった。この場を借りて,改めて御礼申し上げます。また出版に関してはメディカル・サイエンス・インターナショナルの室井宏仁氏,星山大介氏をはじめ,多くの方々に御礼申し上げます。

 2023年2月に急逝された笹月健彦先生のご冥福を心より祈ります。

2023年8月
監訳者代表
平野俊夫

2023-12-11

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

p.293 図10.25 粘膜組織における適応免疫の特徴
免疫系を制御する環境
(誤)炎症誘発性マクロファージ
(正)炎症アナジー性マクロファージ

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