教科書では学べない実臨床の知識を提供する、シリーズ第7弾
小児の救命救急・ICU領域における標準的な治療、最新の知見・エビデンスに基づく治療の選択肢を提示するシリーズ最新刊。小児重症患者管理に必須の技術となりつつあるが、安全に行うには習熟が必要なECMOに関し、その歴史から手技の基本、施行中の全身管理、合併症予防およびECMO搬送について解説。各筆者の豊富な経験を踏まえ、基本的な事項からアドバンスな事項までを網羅。小児科医、集中治療医、救急医をはじめ、当該領域に関わる医療従事者にも役立つ。
総論
◆歴史と現状の課題
1. 歴史と現状の課題
ECMO 機器の開発
初期のECMO
ELSO 設立からECMO の現在
本邦のECMO の歴史
小児ECMO の現状と課題
2. カニューレにおける課題
カニューレ
モード
VA,VV ECMO のカニューレ
VVDL ECMO のカニューレ
目標流量の目安
VA ECMO の問題点
VV ECMO の問題点
小児ECMO の実際
3. カニュレーション
カニューレの選択と挿入手技
カニューレサイズの選択
手順の概略
コラム カニュレーション―臨床工学技士の立場から―
コラム 日本ECMOnet の創設とCOVID-19
◆原理と生理学
4. 呼吸ECMO
酸素運搬の生理学とVV ECMO の原理
リサーキュレーション
ECMO 血液流量の設定
二酸化炭素の除去メカニズム
5. 循環ECMO
基本原理
適応
回路構成
実際の運用
生体への影響
出口戦略
◆搬送と集約化
6. 搬送と集約化
集約化の意義
集約化の要点
7. 搬送システムの構築
バックボードシステム
医療機器・医療材料の準備
搬送車両
ライフライン
事前準備における資機材の確認事項
コラム 歴史と小さな成功の積み重ねのうえに飛ぶECMO
―オーストラリアのECMO 搬送事情―
◆全身管理
8. 肺保護換気
ECMO 導入前の肺保護換気
ECMO 管理中の肺保護換気
9. 循環管理
VA ECMO 管理中の循環生理,循環管理
VV ECMO 管理中の循環生理,循環管理
敗血症とECMO
具体的な管理方法
10. 急性腎障害(AKI)
AKI の診断
AKI の治療
RRT の導入基準
ECMO とRRT
11. ECMO 管理中の鎮静・鎮痛
ECMO 下での薬物動態
12. ECMO 管理中の感染症
機序
疫学
検査の考え方
抗微生物薬予防投与について
投与量調整について
◆抗凝固薬と血栓性合併症
13. 抗血栓薬とACT・APTT 値
抗血栓薬の種類
抗血栓薬のモニタリング
14. 血栓性・出血性合併症
ECMO 管理に伴う血栓形成・出血傾向に関する影響と機序
血栓性合併症
出血性合併症
15. 輸血療法の適応と注意点
ECMO 回路充塡量と貧血
酸素運搬能
ヘモグロビン濃度は高ければ高いほどECMO 管理において有利なのか?
新鮮凍結血漿
血小板
コラム ECMO と研究
◆ ECMO 回路とモニタリング
16. ECMO 回路構成
回路
回路充塡
カニューレ
ポンプ
人工肺
モニタリング
小児ECMO システムに関するアンケート結果
17. 回路内圧モニタリング
小児ECMO と回路内圧
回路内圧の測定箇所
回路内圧に影響を与える因子
回路に関するトラブルシューティング
18. 機械的合併症①―人工肺―
人工肺の歴史
膜の材質
膜型人工肺の構造
本邦で使用可能な長期型人工肺
ECMO 施行時の人工肺に関する注意点
人工肺に関するトラブルとチェックポイント
19. 機械的合併症②―ポンプ―
ECMO ポンプの種類
遠心ポンプ
ローラーポンプ
機械的合併症
ハンドクランクの使用方法
20. ECMO 下血液浄化(腎代替)療法の技術的課題と実践
透析の種類
ECMO のアクセス
ECMO の方式
安全基準
ECMO の有害事象
ECMO 回路に透析回路を接続する方法
東京女子医科大学病院の管理方法
◆看護ケア
21. ECMO 装置,回路,周辺機器の観察とアセスメント
小児ECMO における機械的合併症
カニューレの固定
回路の取り回しおよび固定
送血流量および回路内圧の変化とアセスメント
回路内血栓の観察
回路内血液の色調の観察
人工肺の観察
ポンプの観察
緊急時対応
22. 患者の観察とケア
血行動態の観察(冠循環,末梢循環,脳循環含む)
出血に対する観察とケア
中枢神経系の観察とケア
肺保護
栄養管理
皮膚保護
体位変換
アイケア(目の保護)
感染症
早期リハビリテーション
患者,家族へのサポート
23. ECMO 搬送
施設間搬送時の看護師の動きと役割
施設間搬送における患者と家族のケア
今後の課題
24. ECMO 教育
看護体制と看護量
ECMO 患者を受け持つ看護師の教育プロセス
チーム連携
コラム 多職種連携とチームダイナミクス
各論
◆呼吸ECMO
1. 新生児呼吸不全
新生児ECMO の歴史
新生児ECMO の現状
適応
ECMO を開始するにあたって
生理学的目標値
ECMO 中の患者管理
ウィーニング,離脱試験,ECMO の中止
合併症
新生児固有の管理
2. 小児呼吸不全
呼吸ECMO の疫学
小児呼吸ECMO のエビデンス
適応と開始のタイミング
カニュレーション
呼吸管理
呼吸ECMO からの離脱
◆循環ECMO
3. 単心室循環
カニュレーション部位,導入時の注意点
ECMO 管理中の注意点
単心室ECMO の転帰
4. 人工心肺離脱困難例
ECMO 導入の適切なタイミングは?
cardiac rest の期間はどれくらい必要か?
残存病変の評価・介入はどうするか?
人工心肺離脱困難症例の転帰
5. 心筋炎・心筋症
心筋炎
拡張型心筋症
左心系減圧
ECMO からの離脱
6. カニュレーション―外科医の立場から―
チームワーク
迅速なECMO 導入
安全なECMO 導入
開胸カニュレーション
デブリーフィングまでがECMO 処置
◆本邦における移植医療
7. 本邦における小児肺移植の現況とPICU 管理の要点
歴史と現状
適応
術前評価と術前管理
ドナーと術式の選択
手術と術中管理
術後管理
転帰
課題
8. 心臓移植とVAD
心臓移植
VAD
9. ECMO からVAD へ
ECMO による循環補助の特徴
ECMO 下での左室減圧方法
VAD システムの特徴
治療目標からみたECMO・VAD システムの適応
ECMO からVAD への移行手術
VAD 移行を見すえたECMO 管理
コラム 小児における心筋再生と再生医療
◆ ECPR
10. 適応と国内外における現状
ECPR の定義
ガイドラインにおける推奨
院内心停止におけるECPR の有効性に関するエビデンス
院外心停止におけるECPR の有効性に関するエビデンス
海外におけるECPR の現況
国内におけるECPR の現況
転帰を改善させるための取り組み
11. 中枢神経保護管理のあり方
心停止後症候群の病態
血圧管理
浸透圧管理
体温管理
12. 予後予測と転帰
心停止の予後予測因子
長期予後と神経学的転帰
◆緩和ケア
コラム ECMO における終末期ケアとコミュニケーション
特別寄稿 医療従事者のメンタルケア―「気がかり」を抱えるものたちへ―
コラム ECMO 下緩和ケア―看護師の立場として①―
コラム ECMO 下緩和ケア―看護師の立場として②―
索引
~おおきな きが ほしい~
Bartlett らが初めて新生児ECMO の報告をして四半世紀が過ぎた2009 年,世界は新型インフルエンザウイルス(H1N1)感染症に見舞われた。当時の欧米は飛躍的に向上させたECMO 診療技術で大いに力を発揮し,わが国との違いを圧倒的に見せつけた。さらに時は過ぎ,さまざまな新興・再興感染症が猛威を振るう現代,COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が人類の存続を脅かす。各国がしのぎを削ってワクチン,新薬の開発をする一方,わが国においては竹田らの尽力により日本ECMOnet が,捲土重来H1N1 で振るわなかったECMO 診療の成績を飛躍的に向上させ,国民を存亡の危機から救った。
果たして,このECMO 診療の創世を担ったはずの新生児・小児ECMO の立ち位置は,現在どこにあるのであろうか。現在においても成人診療に貢献しているであろうか。残念ながら答えは否であるが,その未来を本書に託したい。
本書は,最新のエビデンスに加えて,数多ある成書では語り尽くせない各著者・施設の小児ECMO への想い,こだわりをひとつに止揚し,小児ECMO 診療の標準化,質向上に繋げることを第一に執筆いただいた。前半では歴史を紐解き,常に根本となる生理学に立脚し解説いただいた。中盤は,エビデンス・各施設のデータや手法を紹介いただきながら,実際の方法論について多職種の方々に論述いただいた。また後半は,わが国の移植医療の現況や倫理的課題にもその裾野を広げた。全体を通読することで,如何にECMO には多職種連携が必須であるか,自ずと理解できるであろう。
第一線で活躍されている若手の皆様に,歴史と生理学を学び,ECMO 診療の未来を創造いただきたいと心から願う。
大地を肥沃にし,深く根を張る
高く幹を伸ばし,広く葉を生い茂らせる
大きな実りは,後世へのギフトとなる
おおきな おおきなきがほしい
本書に携わっていただいた 著者,査読者の皆様,編集にあたった金子史絵様,横川浩司様に深謝する。
また,ECMO の歴史を築き上げてきたすべての方々に敬意を表す。
そして
救えなかった子ども,大きな後遺症をおった子ども,その家族に
ECMO 診療の質向上を誓う。
2023 年9 月1 日
背表紙が黄色く変色した「おおきな きが ほしい」。手元において
(作:佐藤 さとる,絵:村上 勉,偕成社,1971 年)
齊藤 修
東京都立小児総合医療センター 集中治療科