肝MRIに特化した深掘り解説に納得!
肝のMRI検査・読影・診断に関し、最新の文献的考察とガイドライン(「画像診断ガイドライン」+肝疾患の各診療ガイドライン)を参照しつつ包括的に総整理し解説。撮像の基礎を簡潔に提示する「撮像方法」、実際の読影で直面する画像所見に対する理解を深める「所見の解釈」、鑑別疾患を絞る際のポイントと、陥りがちな診断のピットフォールについて豊富な症例写真を用いて解説する「各種疾患の画像」の3部構成。放射線科医はもちろん消化器内科医・外科医も必読。
PartⅠ 撮像方法
1 静磁場強度
2 コイル選択
3 必須シーケンス
3.1 T1 強調像
a.撮像パラメータ/b.in-phase とopposed-phase
3.2 T2 強調像
a.撮像パラメータ/b.体動への対処方法/c.脂肪抑制が必須の理由/
d.single shot 法によるT2 強調像
3.3 拡散強調像(DWI)
a.脂肪抑制/b.画像の歪み/c.肝左葉の信号低下
4 追加シーケンス
4.1 PDFF(proton density fat fraction)
a.撮像のポイント/b.PDFF 値の測定
4.2 MR エラストグラフィ
a.MRE の原理/b.MRE のポイント ― 加振/c.MRE のポイント ― 撮像/
d.肝弾性率の測定/e.値の解釈
4.3 MRCP とSSFP
a.MRCP/b.SSFP
5 造影MRI
5.1 造影剤の選択
5.2 ダイナミックMRI:時相の定義
a.動脈相 arterial phase/b.門脈相 portal venous phase/c.移行相
transitional phase/d.肝細胞相 hepatobiliary phase/e.遅延相 delayed
phase
5.3 ダイナミックMRI:撮像パラメータと考慮すべき事項
a.造影剤別プロトコル設定
5.4 transient severe motion
PartⅡ 所見の解釈
6 びまん性肝疾患
6.1 T1 強調像で高信号を呈する(脂肪肝以外)
a.鑑別診断
6.2 T1 強調像opposed-phase で低信号を呈する,プロトン密度脂肪率が高い
a.鑑別診断
6.3 T2 強調像で低信号を呈する
a.鑑別診断
6.4 T2 強調像/拡散強調像で高信号を呈する
a.鑑別診断
6.5 MR エラストグラフィで高硬度を呈する
a.鑑別診断
6.6 肝変形を呈する
a.鑑別診断
6.7 肝腫大を呈する
a.鑑別診断
6.8 動脈相でまだら濃染を呈する
a.鑑別診断
6.9 periportal abnormal intensityを呈する
a.鑑別診断
6.10 肝被膜の造影効果を呈する
a.鑑別診断
7 腫瘤性病変
7.1 T1 強調像で高信号を呈する
a.T1 強調像高信号の因子/b.鑑別診断
7.2 T1 強調像 opposed-phase で低信号を呈する
a.T1 強調像 opposed-phase 低信号の因子/b.鑑別診断
7.3 T2 強調像で低信号を呈する
a.T2 強調像低信号の因子/b.鑑別診断
7.4 T2 強調像で中等度信号を呈する
a.T2 強調像中等度信号の因子/b.鑑別診断
7.5 T2 強調像で著明高信号を呈する
a.T2 強調像著明高信号の因子/b.鑑別診断
7.6 拡散強調像で高信号を呈する
a.拡散強調像高信号の因子/b.鑑別診断
7.7 拡散強調像で低~中等度信号を呈する
a.拡散強調像低~中等度信号の因子/b.鑑別診断
7.8 MRCP で高信号を呈する
a.MRCP/b.MRCP 高信号の因子/c.鑑別診断
7.9 rim 状でない動脈相濃染
a.rim 状でない動脈相濃染の因子/b.鑑別診断
7.10 rim 状動脈相濃染を呈する
a.rim 状動脈相濃染の因子/b.鑑別診断
7.11 EOB 造影肝細胞相で高信号を呈する
a.EOB 造影肝細胞相高信号の因子/b.鑑別診断
7.12 肝被膜の陥凹を呈する
a.肝被膜の陥凹の因子/b.鑑別診断
7.13 肝外方性発育腫瘤
a.肝外方性発育腫瘤の因子と鑑別診断
7.14 中心瘢痕を呈する
a.中心瘢痕の因子/b.鑑別診断
7.15 多発性腫瘤を呈する
a.鑑別診断
7.16 自然退縮する
a.鑑別診断
PartⅢ 各種疾患の画像
8 びまん性肝疾患
8.1 急性肝炎
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
8.2 慢性肝炎・肝硬変
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
8.3 自己免疫性肝炎,原発性胆汁性胆管炎,原発性硬化性胆管炎,IgG4 関連硬化性胆管炎
a.疾患概念/b.画像所見/c.診断のピットフォール
8.4 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
8.5 うっ血性肝障害
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
8.6 サルコイドーシス
a.診断のポイント
8.7 アミロイドーシス
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9 良性病変
9.1 肝内結石症
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.2 肝梗塞
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.3 肝膿瘍
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.4 肝囊胞・胆管周囲囊胞
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.5 血管腫
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.6 限局性結節性過形成
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.7 その他の過形成結節
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.8 血管筋脂肪腫
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
9.9 肝細胞腺腫
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10 悪性病変・前癌病変
10.1 dysplastic nodule,早期肝細胞癌
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.2 肝細胞癌
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.3 低分化型肝細胞癌
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.4 転移性肝癌(多血性)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.5 転移性肝癌(乏血性)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.6 肝内胆管癌(腫瘤形成型)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.7 肝内胆管癌(胆管内発育型)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.8 細胆管癌
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.9 肝内胆管癌(胆管浸潤型)
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.10 混合型肝癌,未分化肝癌
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.11 悪性リンパ腫
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
10.12 tumor in vein(TIV),胆管腫瘍栓
a.診断のポイント/b.診断のピットフォール
付録MRI 読影レポート記載例
1 限局性結節性過形成(FNH)
2 肝内胆管癌(ICC)
3 肝転移
4 肝細胞癌(HCC)
コラム
Part1撮像方法
1静磁場強度
励起パルス(RF パルス)の波長
3 必須シーケンス
なぜopposed-phase 像を用いた脂肪検出にはT1 強調像が用いられるのか?
なぜエコープラナーイメージング(EPI)では画像が歪むのか?
4 追加シーケンス
MR エラストグラフィ:QIBA の推奨するROI の置き方
5 造影MRI
Gd-EOB-DTPA が推奨される場合と細胞外液性Gd 造影剤が推奨される場合(『画像診断
ガイドライン 2021 年版』より)
造影後に信号低下?:paradoxical suppression
肝特異性Gd 造影剤:プリモビスト® とMultiHance®
PartⅡ所見の解釈
6 びまん性肝疾患
肝臓のT1 mapping
膵癌術後の脂肪肝
鉄沈着の画像パターン
高速T2 mapping
MR エラストグラフィ撮像での2D gradient echo 法と3D spin-echo echo planar 法の
違い
免疫チェックポイント阻害薬による肝障害・肝変形
肝volumetry の変遷
AP shunt
門脈域周囲の肝細胞相高信号
肝被膜と漿膜
7 腫瘤性病変
steatohepatitic HCC
T2 強調像:2D FSE 法とPROPELLER 法
囊胞性の肝転移
IVIM model と腫瘍内血流
拡散強調像におけるT2 shine through
動脈相,門脈相におけるsubtraction 画像の有用性
肝内胆管癌診断の注意点
EOB 造影肝細胞相の“target sign”
Gd-EOB-DTPA を取り込む肝細胞癌
confluent hepatic fibrosis
副肝葉
限局性結節性過形成(FNH)の中心瘢痕の成因
肝+脾臓の多発結節
自然退縮の最も古い報告はアブスコパル効果?
8 びまん性肝疾患
劇症肝炎
intravoxel incoherent motion(IVIM)
自己免疫反応が関与する肝炎・胆管炎の診断基準
NAFLD の概念・定義
Fontan 手術とうっ血性肝障害
肝サルコイドーシス診断における画像の役割
AL アミロイドーシス診断における画像の役割
9 良性病変
肝内結石症はなぜ左肝管に多いのか?
peribiliary vascular plexus
真菌性肝膿瘍
特殊な肝囊胞
LI-RADS における血管腫の位置づけ
限局性結節性過形成の診断に最も有用なモダリティは?
用語解説:1)SAA-HN とは?
用語解説:2)IDEAL IQ とは?
早期静脈還流の描出に有用なモダリティは?
糖原病
10 悪性病変・前癌病変
HBP hypointense nodule without APHE
肝細胞癌のgrade 分類について
EOB 造影MRI は,細胞外液性造影剤を用いた場合より被膜濃染の指摘が難しい
転移性肝癌検索目的のMRI は造影すべきか? 造影する場合にはEOB を使用すべきか?
胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)
混合型肝癌の英語表記について
B 型およびC 型肝炎は肝悪性リンパ腫の危険因子でもある
A-VENA criteria
若い頃,病理学教室に所属し病理診断を学ぶ機会を得た。多くの実力派病理診断医の諸先輩方からたくさん教えていただいたが,そのなかで特に印象に残っている言葉が 2 つある。1 つ目は「病理診断は哲学だ」という言葉。当時,エビデンスに基づく医療(EBM)という言葉はすっかり定着していたので,「哲学」と聞いて私は面食らった。しかし「確固たる信念がなければブレない診断はできない」と続ける恩師の言葉に私はゆっくりとうなずいた。もう 1 つは「私の診断は変わる」である。
「昔なら癌と診断していたが,今は癌とは言わない」ということはあり得ると。その時は当惑したが,今はよくわかる。良性悪性の判断が難しい境界病変の診断基準は,最も適切な基準を見つけるために探求し続けるからである。
基準がなければ判断できない。基準をしっかり持っておくのは診断医にとって大切なこと。この基準を作るのは経験でありエビデンスである。基準のない診断は無責任でしかない。しかし,その基準は絶対的で決して変わらないと言うとしたらそれは思い上がりである。新たな発見や新たな経験は,いつも基準の変更を要求するからである。ならば,診断医に必要な態度は「根拠に基づいた確信を曲げない頑固さ」と「新たな知見にしなやかに対応する謙遜さ」の 2 つと言えるかもしれない。
本書『エビデンスからせまる 肝の MRI』の執筆にあたっては,文献的考察とガイドラインの参照を徹底した。現時点までのエビデンスを網羅し「基準を作る材料」とするためである。しかし,同時に本書が提供するのはあくまで現時点において明らかになっていることに過ぎない。本書を通して現行の根拠に基づいた確信を得ていただき,将来の変化にしなやかに対応する準備をしていただければ幸いである。
本書は山梨大学放射線医学教室で共に時間を過ごした盟友とともに執筆させていただいた。荒木力先生のご指導のもと MRI を学び,市川智章先生のご指導のもと肝の画像診断を学んだ仲間たちである。良き師に出会い,良き仲間に囲まれ,良き環境が与えられたので,本書が世に出ることとなった。ただ感謝である。そして本書が少しでも読者の皆様のお役に立てるよう願いつつ,ここに筆をおく。
澄んだ青空にうかぶ雲を眺めながら
2023 年 9 月
本杉宇太郎
2024-03-28
【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。
p.99 下から7行目
(誤)また,組織の特性とは別に,組織のT1値はMRI装置の静磁場の強さに影響を受ける。静磁場が強くなるほど組織のT1値は短縮し,T1強調像でより高信号にみえる6)。
(正)削除
p.107 下から3行目
(誤)また,組織の特性とは別に,組織のT2値はMRI装置の静磁場の強さに影響を受ける。静磁場が強くなるほど組織のT2値は短縮し,T2強調像でより低信号にみえる14)。
(正)削除