自施設で応用できる!臨床に即したすぐに役立つ実践書
ECPRの適応や実施方法に関し世界的に統一されたガイドラインが存在しない現状において「自施設のやり方は正しい?」「もっとよい方法は?」と疑問を抱いている医療者へ、ECPRのエキスパートらが「自施設のやり方」「自施設のプロトコル」「うまくいくコツ」「なぜそうするのか」を紹介。理解を容易にするために、適切に図・表・イラストを取り入れ概念を見える化。救急医、集中治療医、循環器内科医をはじめ、臨床工学技士や看護師など、ECPRに携わるすべての人に役立つ。
はじめに
1章 ECPRとは?
1-1 なぜ今,ECPRなのか?
2章 適応
2-1 心電図波形
2-2 年齢は何歳まで?
2-3 VA—ECMO導入前の心停止時間の評価方法と転帰との関係
2-4 signs of lifeはECPRの適応の1つになる?
2-5 プレホスピタル二次救命処置の有無により適応の判断は変わる?
2-6 対象患者① 低体温症に効果はある? 逆に,しないでよい基準は?
2-7 対象患者② 大動脈解離に効果はある?
2-8 対象患者③ 肺血栓塞栓症に効果はある?
3章 実際
3-1 日本全体ではどうなっているか?
3-2 補助循環の専門家からみたECPRの現状
3-3 カニュレーション 超音波ガイド下の実際①
3-3 カニュレーション 超音波ガイド下の実際②
3-4 カニュレーション 外科的血管確保のコツ①
3-4 カニュレーション 外科的血管確保のコツ②
3-5 施設プロトコル(適応と実際)① 兵庫県災害医療センター
3-5 施設プロトコル(適応と実際)② 札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター
3-5 施設プロトコル(適応と実際)③ 東京都立墨東病院 高度救命救急センター
3-5 施設プロトコル(適応と実際)④ 聖路加国際病院 救急科・救命救急センター
3-5 施設プロトコル(適応と実際)⑤ 国立循環器病研究センター
3-5 施設プロトコル(適応と実際)⑥ 済生会宇都宮病院 救急・集中治療科,栃木県救命救急センター
4章 心停止原因検索,治療
4-1 VA—ECMO導入前の心停止原因検索および治療はどうする?
4-2 VA—ECMO導入後の心停止原因検索および治療はどうする?
5章 CT検査
5-1 CT検査の役割,読影のコツ,なぜそのように見えるのか?
6章 合併症への対応
6-1 ECPRの合併症対策はなぜ大切?
6-2 刺入部の出血はどうやって止血する?①
6-2 刺入部の出血はどうやって止血する?②
6-3 感染症の合併をどう考える?
6-4 虚血に対応するコツ
7章 管理
7-1 体温管理療法:目標温度・維持期間・復温時間のなぜ?
7-2 モニタリング:A-lineの確保は右,左,両方?
7-3 鎮静薬は何を使う? どのように投与する?
7-4 目標値① 血糖値はいくつにする?
7-5 目標値② カリウム濃度の目標値は4.0 mEq/L以上にする?
7-6 筋弛緩薬は使う? どのように投与する?
7-7 循環管理はどう行う?
7-8 ウィーニングプロトコル①
7-8 ウィーニングプロトコル②
7-9 抜去方法① 圧迫法のコツ
7-10 抜去方法② 外科的抜去法のコツ
8章 家族対応
8-1 家族対応はどう行う? PICS-Fへの対応は?
8-2 PICSラウンド,ICU日記の実際
9章 コスト
9-1 レセプトによる診療報酬請求のコツ
索引
はじめに
この書を手に取ってくださった皆様に,目に留めていただいた先生方に
まずは,本書『ECPR:そのコツとなぜ?』に少しでも興味をもってくださり,心から御礼申し上げます。
体外循環式心肺蘇生法(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:ECPR)とは,効果のある蘇生方法でしょうか? 心停止患者にVA—ECMOを装着し,劇的な心拍再開を得られた症例を一度でも経験された医療従事者なら,その効果に疑いをもつことはないでしょう。
私がその薫陶を拝してきました近代医学の父である北里柴三郎先生は,常々,研究のための研究ではなく臨床現場を意識した研究を行い,「効くという確信」のもとに情熱を注いで研究するよう指導されてきました。まさしく,ECPRは「効くという確信」がもてる蘇生方法と言えるのではないでしょうか。
ECPRは現在,大学病院や救命救急センターであれば,おおむねどの施設でも展開されている蘇生方法です。では,ACLSガイドラインのような,世界的に標準的なガイドラインやマニュアルは存在するでしょうか? 答えはNOです。ECPRは日本をはじめ,韓国や台湾など東アジアで普及してきた蘇生方法です。しかし,米国を中心に欧米諸国では,患者搬送時間や医療経済的な問題,また手技を行える医療者の問題から,全般的にまだまだ普及していません。このような理由から世界的なガイドラインへの詳細な言及には至っていませんが,欧米では昨今,ECPRに関するRCTの成果が報告されはじめており,科学的エビデンスが排出される段階まで世界全体が進んでまいりました。
「うちの施設ではこういうやり方でECPRをやっているけれど,他の施設ではどうだろう?」「うちの施設のA先生はこうやれと言うけれど,本当?」。ガイドラインがないと,ふと疑問に思いますよね。また,ECPRは太いカテーテルを心肺蘇生中に留置する手技ですので,手技に関してもどうやったらよいのか不安に思っている先生方は多いのではないでしょうか。
その1つの解決方法として,井上明彦先生が研究代表者,私が副研究代表者となってStudy of Advanced Cardiac Life Support for Ventricular Fibrillation with Extracorporeal Circulation in Japan(SAVE—J)Ⅱ studyを主導し,エビデンスの少ないECPRの臨床データを解析し公表してまいりました。それまでは各施設ごとに治療成績を報告していましたが,SAVE—J study以降,井上先生の尽力により国内でECPRを行う施設を1つの研究チームにまとめることができました。本書はその膨大なデータ解析だけではなく,我々の日常診療からの経験に基づいたECPRにおける「コツ」と「なぜ?」をわかりやすく解説し,社会実装して少しでも役に立つことを目指しています。つまり,本書を読んでくださり,少しでもECPRに興味をもてた方が増えること,ECPRの手技がさらに向上し1人でも多くの患者さんが社会復帰できるようになることが目的です。
本書をお読みいただきたいのは,まずは日常診療でECPRを行っている施設の救急集中治療,循環器内科領域の若手医師や研修医の先生方です。日常診療に困った時の答えがあります。必要な時の備えとして本書をご活用ください。また,本書は「なぜ?」に踏み込んでわかりやすく記載していますので,コメディカルの先生方,特に看護師,臨床工学技士の皆様方にもお読みいただきたいです。さらに,これまでECPRの診療に携わってこられた先生方も,日々疑問に思ってきたことの謎解き本として,ご自身の知識に厚みをもたせる意味合いでご活用いただければと思います。ECPRに直接関係がなくても,今後の蘇生領域の中枢になり得るECPRに少しでも興味をおもちの方(蘇生領域の研究者,関連業者,消防関連の方々など)はぜひ手に取ってみてください。
客観的事実に加え,日常診療で患者さんから得た経験をもとに,ECPRおける「コツ」と「なぜ?」をわかりやすく解説しました。このような書籍は本書のみです。ぜひとも「コツ」と「なぜ?」を楽しんでください。
本書は,井上明彦先生のSAVE—JⅡ studyの成功なくしては成り立たなかったであろうと思っています。井上先生とはこの数年間,ほぼ毎週意見交換をしてお互いの思いを率直にぶつけあい,そのなかで妥協し,さまざまな困難に対して解決案を見いだし,二人三脚でやってきました。本書を井上先生とともに上梓できるのは幸運であり,今後もECPRの社会実装のための大きな責任を共に果たしていきたいと決意しております。
最後になりましたが,監修をお引き受けくださった坂本哲也先生,黒田泰弘先生に深謝いたします。また本書の制作に関して,メディカル・サイエンス・インターナショナルの荻上朱里さん,金子史絵さんには企画案の段階から,すべての原稿チェックや,さまざまな基本的な質問の回答など,最後まで伴走していただきました。大変ありがとうございました。
2023年10月
編者を代表して
一二三 亨