実際にあった16症例で理解を深める
頭部外傷、くも膜下出血、脳症等を対象とした神経集中治療の現場で実際にあった、様々な経過をたどった16の症例を収載した症例集。診断から治療に至るまでの思考過程を詳述し、集中治療の基本と中枢神経に特徴的な検査/手技を解説。実際の検査データや画像とともに、初診時から退院までの経過と診療の流れを体験・理解できる。救急・集中治療・神経内科・脳神経外科など神経集中治療に携わる医師の日々の診療に役立つ。
症例1 10歳代の女性の頭部外傷
症例2 20歳代の男性の頭部外傷
症例3 9か月の男児の頭部外傷
症例4 50歳代の男性のくも膜下出血
症例5 30歳代の妊婦のくも膜下出血
症例6 50歳代の女性の単純ヘルペス脳炎
症例7 30歳代の女性の自己免疫性脳炎・脳症
症例8 70歳代の女性の急性感染性電撃性紫斑病/敗血症関連脳障害
症例9 50歳代の男性の熱中症
症例10 70歳代の男性の心停止後症候群
症例11 50歳代の男性の心停止後症候群
症例12 40歳代の男性の心停止後症候群
症例13 60歳代の男性のGuillain-Barré症候群
症例14 30歳代の女性のPRES
症例15 60歳代の女性の肺炎球菌性髄膜炎
症例16 70歳代の男性の髄膜炎,敗血症
香川大学医学部附属病院救命救急センターは,神経集中治療が研修できる全国的にも稀な施設です。ここでは,私と副センター長の河北賢哉准教授を中心に,救急医,麻酔科医,集中治療医,脳神経外科医,脳神経血管内治療専門医,脳神経内科医,および集中治療のメディカルスタッフがワンチームとして指導する体制になっています。そして,心停止後症候群,脳卒中,重症頭部外傷,てんかん重積状態,各種脳症など,神経集中治療で経験すべき疾患に対応しています。したがって,救急初期治療から診断,手術,集中治療までシームレスに主治医として研修できるのです。
本書『実践神経集中治療:症例で学ぶ基本の考え方』は学生,初期研修医に神経集中治療の考え方を伝えることを目標として上梓しました。症例はすべて我々の経験例で,香川大学医学部附属病院倫理委員会の承認(H31-1)後,患者ご家族の承諾を得て掲載しています。診療の途中で起こった合併症などを含め経時的に提示し,我々がどう判断し,治療したかに加えて,治療の基本方針,病態生理などに関する質問および回答を加えています。本書をお読みいただくことにより神経集中治療の魅力が伝わることを希望します。
2024年2月 高松にて
黒田泰弘
香川大学医学部 救急災害医学講座 教授
附属病院救命救急センター センター長
私が脳神経外科へ入局した頃は,脳神経外科医が見よう見まねで重症頭部外傷や重症脳卒中患者の集中治療を行っていた。今から振り返ると,EBMから最もかけ離れた治療をしていたように思われる。自分なりに試行錯誤を繰り返しながら,苦い経験も多くあったが,現在では経験できないような多くのことを経験できたという意味では,そのような時間も無駄ではなかったと思う。
本書では,神経集中治療を要する患者に対し,どのような治療を行ってきたのかを我々自身が振り返り,最近の知見と経験的な事柄を織り交ぜて読者の皆様へ紹介している。特に重症頭部外傷や重症脳卒中患者では,頭蓋内圧(ICP)や脳灌流圧(CPP)を意識しながら循環管理を行う必要がある。しかし,総論では,その必要性を説明できたとしても,各論を説明することは難しい。その理由は,各論は施設ごとに異なるし,その方法が正しいのか間違っているのかの判断ができないからである。我々が行ってきた各論を是非吟味していただき,良いと思ったことだけを吸収していただければありがたい。
最後に,本書を作成するにあたり多くの患者さんの貴重な医療情報を使用させていただきました。この場をお借りして,快く協力していただいた患者さんならびにそのご家族に感謝申し上げます。
河北賢哉
香川大学医学部 救急災害医学講座 准教授
附属病院救命救急センター 副センター長