小児の救急・集中治療における実臨床の知識を提供する、シリーズ第8弾
小児の救命救急・ICU領域における標準的な治療、最新の知見・エビデンスに基づく治療の選択肢を提示するシリーズ第8弾。成人と手術適応が異なり、より集中治療の役割が大きい小児の外傷に関して、予後の改善を見据えた実臨床で役立つ知識を収載。小児科医・外科医・集中治療医・救急医をはじめ当該領域に関わる医療従事者が知っておくべき小児の解剖学的特徴から初期診療、重症外傷の全身管理までを網羅。
序文
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執筆者一覧
総論
1 我が国における小児外傷診療の現状について
日本における小児の外傷診療の特徴
日本における小児の外傷診療の課題と対策
2 頭頸部の特徴
頭部
顔面
眼
耳,鼻,口腔
頸部
気道
3 胸腹部の特徴
胸部/腹部とは?
小児の生理学的特徴
胸腹部臓器の小児における特徴
4 筋骨格系の特徴
筋骨格系の発育様式
「筋・腱」の発育・発達
「骨格」の発育・発達
長管骨の胎児期から成人までの発育・成長
小児骨の生理学的特徴と小児骨折の特徴
小児期特有の骨折
小児骨折の治療上の特徴・留意点
小児の皮膚の解剖と特徴
5 子ども虐待の見逃しを防ぐポイントと対応策
子ども虐待と外傷診療における留意点
子ども虐待と洞察的な病歴聴取
子ども虐待を想起させる外傷の特徴
虐待が疑われた場合の診療姿勢
6 子どもの事故を予防するためにできること
症例提示
「子どもの事故を予防する」ために知っておくこと
傷害予防の「上流」と「変えられるもの」とは?
医療者が病院でやるべきこと
はじめの症例の振り返り
7 初期診療(JATECに準じて)
JATECについて
重症小児外傷患者の受け入れと準備
Primary Surveyと蘇生
Secondary Surve
Tertiary Survey
8 単純X線およびCT検査
基本的な考え方
外傷パンスキャン(全身CT)
頭部外傷
頸部・顔面・頸椎外傷
体幹部外傷
四肢外傷
9 超音波検査
外傷のABCDEアプローチに沿った超音波検査
10 頭部外傷・顔面外傷
軽症頭部外傷
顔面外傷
11 口腔内外傷
小児の口腔内外傷の診療における共通事項
歯牙外傷
舌外傷
咽頭外傷
12 挫創・裂創
初期評価の要点
専門医にコンサルトするべきポイント
初期治療の内容
外来でのフォローアップの注意点
13 四肢骨折・脱臼
初期評価の要点:小児骨折の特徴
画像検査をするうえでの注意点
整形外科医コンサルトのポイント
初期治療の内容
鎖骨骨幹部骨折
肘関節周辺骨折・脱臼
上腕骨顆上骨折
上腕骨外側顆骨折
上腕骨内側上顆骨折(肘関節後方脱臼合併あり,なし含む)
Monteggia骨折
大腿骨頭すべり症(SCFE)
14 熱傷
全身管理
小児救急・集中治療医への紹介
局所療法
皮膚科・形成外科医への紹介
その他の小児科医の重要な役割
15 気道管理
小児の気道管理
重症外傷における気道の観察と評価
気道確保の手段
16 呼吸管理
外傷患者における呼吸管理
呼吸障害の評価
PARDS(pediatric ARDS)
呼吸管理の実際
意識障害患者における気道確保
人工呼吸器関連肺炎
17 重症外傷の循環管理
初療室での循環管理
症例提示
ICUでの循環管理
18 体温管理
頭部外傷と低体温療法
TTMの管理について
低体温療法時の合併症
TTMに使用するデバイスについて
19 輸血療法・止血療法
外傷蘇生に必要な病態生理
damage control resuscitation
20 鎮静・鎮痛
外来診療における鎮静・鎮痛の実際
入院中の鎮静・鎮痛の実際
各論
1 重症頭部外傷
乳幼児重症頭部外傷の臨床像
小児重症頭部外傷治療ガイドライン第3版
小児重症頭部外傷の治療アルゴリズム
乳幼児重症頭部外傷の治療ガイドラインと転帰
コラム abusive head trauma(AHT)
2 胸部外傷
胸部外傷における小児の特徴
重症度分類
診断・検査法
治療
胸部外傷管理の要点
3 腹部外傷
腹部外傷における小児の特徴
重症度分類
診断・検査法
治療
術後管理の要点
4 重症四肢外傷
開放骨折の重症度分類
開放骨折の初期対応
画像検査
開放骨折の手術タイミング
救肢か切断かの判断
四肢血管損傷の診断
末梢神経損傷の診断と対応
コンパートメント症候群
実際の症例と解説
5 脊椎外傷
SCIWORAとは何か
脊椎外傷における小児の特徴
治療
6 重症熱傷
小児における重症熱傷の特徴
重症度分類
診断(受傷機転別の身体所見の特徴)
治療
手術療法
周術期管理
索引
米国で小児救急の専門研修を受けていたころ,研修先の施設は九州に相当するエリアをカバーする小児外傷センターであり,さまざまな種類・重症度の外傷患者の診療に携わる経験を得た。ハイウェイでの横転事故により車外放出された乳児,墜落外傷による脊髄損傷,喧嘩が発展した刺創や銃創等々。最初は,そのスケールの大きさに怖気づいていたが,次第に外傷チームのリーダーとしてかかわらせていただくようになった。その経験から,「小児は小さな大人ではない」と言われる至言は事実ではあるものの,外傷初期診療においては成人患者と大きな変わりはないということを学んだ。また同時に,「予防」の大切さも学んだ。たとえば一家全員が亡くなられるような交通外傷でも,チャイルドシートにしっかりと固定されていた乳児は守られていた。
今回,本シリーズ8番目のトピックとして,「外傷」を取り上げていただいた。著者の先生方は,日本国内において小児外傷の最先端の現場におられる方たちである。その先生方のもっておられるtipsを余すところなく共有いただいた。そして「大人と変わらない本質」や「こどもだから留意したいポイント」にもできるかぎり言及いただいた。ご尽力くださった著者の先生方には,心から感謝する次第である。
ところで,かつて日本のこどもたちの死因の第一位は不慮の事故であった。しかし,救急医療の発展,また搬送制度の改善や予防行動の普及や製品の改善等が奏効し,徐々にその数は減少している。しかし世界規模でみると,実は5歳以上のこどもたちの最も多い死因は,依然外傷である。特に低・中所得国において,まだ多くのこどもたちが外傷で命を落としているのである。
「防ぐことができるこどもの外傷死(preventable pediatric trauma death)」を限りなくゼロに近づけるため,日本は大きな進歩をみせた。しかし,グローバル化の進んだ現代社会において,わたしたちのやるべきことはまだまだ残されている。世界のこどもたちの未来を護るため,わたしたちはまだあゆみを止めてはいけないのである。
本書の内容が,防ぐべき外傷からこどもたちを護るため,こどもたちの未来につながる一助となれば幸いである。
2024年3月
井上 信明
国立国際医療研究センター 国際医療協力局
人材開発部研修課