循環は、液体・器・電線の「足し算」である!
動脈圧波形を「足し算」でイメージするところから始め、3ステップを踏んで血行動態に対する理解を深めていく。エコーなど非侵襲的検査でわかることと、カテーテル検査が真価を発揮するシチュエーションを判断できる力を養い、最後は熟練の循環器医にとっても最難関(最高峰)に位置する疾患群のそれぞれの「核」をつかむ。
プロローグ
STEP 1 基礎編
まずは血行動態の基本から
1 動脈圧
血行動態を理解するための第一歩
2 静脈圧
中心静脈圧を測るワケ
3 冠動脈圧
ダイナミックに変化する冠循環動態から見えること
幕あい1 そもそも循環とは何か?
循環は,液体・器・電線の足し算である
4 循環の維持とその破綻
心不全・ショックはこうして起こる
5 機械的循環補助時の血行動態
各デバイスの特徴を押さえておこう
STEP 2 応用編
血行動態から深く循環器疾患を理解する
6 右室梗塞と左室梗塞(機械的合併症)
右心カテーテル検査を行い,早期診断・治療につなげる
7 急性非代償性心不全
ダイナミックに変化する血行動態へのアプローチ
幕あい2 敗血症
他のショックとは異なる血行動態的特徴を見逃さない
8 弁膜症の血行動態評価
心臓カテーテル検査と身体所見・心エコー検査の結果をつなげる
STEP 3 実践編
最難関を突破する
9 心膜疾患
これほど複雑で魅惑的な病態はない
10 肺高血圧症
肺循環と体循環,こんなに違います
11 成人先天性心疾患
ニガテを得意に変えるために
エピローグ
索 引
プロローグ
血行動態ってあのモニターに出てくるグラフでしょ?
難しすぎ!そもそもこのご時世,エコーの見た目でだいたいわかるじゃん。
カテは侵襲性も高いし,患者さんには優しくいかないとね!
こんな会話が飛び交う循環器内科の病棟や医局は危険である。
昨今,基礎研究領域では血行動態中心の生理学的研究から分子生物学的研究に主軸が移り,臨床においては心エコーやMRI など非侵襲的検査の進歩が著しい。もはや直接カテーテルで心臓の圧を測らずとも,間接的に血行動態の推測が可能な時代となった。しかしその結果,若手医師が血行動態の評価に興味をもたないどころか,苦手意識をもつようになり,波形をとっても詳しく「考える」ことをしなくなって久しい。それはカテ室での検査の時のみならず,ベッドサイドの動脈圧モニター波形や頸静脈波にも波及しており,全般的な身体所見への関心の薄れにもつながっているような気がしてならない。
しかし,こうした時代でも血行動態の把握は循環器診療の核なのである。さまざまな場でカテーテル検査は,患者の“本当の状態”を教えてくれ,窮地を救ってくれる重要なツールであることを忘れてはならない。血行動態をイメージしながら,身体所見をとり,患者の状態を評価し,治療方針の決定を迫られる機会は実際に数多くあり,血行動態の理解はきわめて重要であるとともに,臨床的にも「面白い」はずである。
本書は全3 ステップで構成されており,まずSTEP 1 として,血行動態把握の登竜門である動脈圧(冠動脈圧を含む),静脈圧の基本的波形を,その成因や身体所見との関連性などをとらえ直し,臨床現場での有用性を具体的に示した。もちろん,心エコーなどの非侵襲的検査の進歩と正確さにも触れ,そこからさらにその限界を探り,現代医療における血管造影でない「心カテ」の役割を示す形をとった。
次にSTEP 2 として,各種疾患により循環が破綻するプロセスを循環生理と同時に理解することによって,可能な限り直観的に把握できるように示した。その理解を助けるために,「幕あい」として循環の基礎のキソに関するコラムを設けた(本書のスピリッツをつかむために,まず「幕あい1」から読み始めていただくのも一法)。
最後にSTEP 3 として,熟練の循環器内科医でも血行動態の理解のうえで最難関(最高峰)に位置する疾患群に関し,読者がそれぞれの疾患の「核」をつかむことができるように,紙面を可能な限り割いて,実際の症例をも踏まえながら詳細に解説した。
昨今はこうした血行動態を正面から取り上げた書籍は少なくなっているが,本当にいざというときに,手術室で,カテ室で,そしてベッドサイドで医師に思い出してもらえる内容を目指したのが本書である。その内容を通じ,少しでも多く,現場でのジレンマが解決されることを期待したい。
2024 年4 月
北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学
永井利幸
慶應義塾大学医学部 循環器内科学
香坂 俊