心臓移植後診療の指針 - 伴走する医療者のためのガイドマップ -

  • 未刊

2024年7月末発売予定!



心臓移植は手術がゴールではありません

検査入院はどの程度の頻度で必要ですか?

身体障害者手帳は維持できますか?

免疫抑制薬が必要なくなるケースはありますか?

旅行に行ってもいいですか?

スポーツに復帰できますか?

正しい知識で心臓移植後の患者さんの生活をサポートしましょう




本書は、心臓移植後の患者さんに伴走する医療者のための指針です。心臓移植というと「移植手術」の一点にスポットライトが当たりがちですが、それは決してゴールではありません。心臓移植後の患者さんは、免疫抑制療法や拒絶反応モニタリングなどを受け続けることが必要で、日常生活でも気を配る必要がある注意点があります。心臓移植という医療は、移植後により自由な生活を送れるようにするためのものであり、それに寄り添う医療者の存在が不可欠です。高い心臓移植後生存率に伴い移植後の患者さんが増えている現在、心臓移植実施施設と地域の施設が連携して診ていく必要があります。



 

¥8,800 税込
監修:小野 稔(東京大学大学院医学系研究科 心臓外科 教授)・北風 政史(阪和病院・阪和記念病院 統括院長・総長/大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授/大阪公立大学大学院医学研究科 特任教授)/編集:加藤 倫子(久留米大学医学部 内科学講座 心臓・血管内科部門 准教授)/編集協力:小田 登(広島大学病院 循環器内科)
ISBN
978-4-8157-3110-6
判型/ページ数/図・写真
B5 頁376 図61 写真31
刊行年月
2024年7月
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執筆者一覧
はじめに
推薦のことば
略語一覧
Q & A
Part1心臓移植の流れ
¬ 1章 心臓移植の現状
1 心臓移植の歴史 ¬
実験的心臓移植/ ヒトからヒトへの心臓移植
2 日本における心臓移植の歴史と現状
日本における心臓移植の創成期/ 日本における心臓移植の現状
2章 心臓移植までの道のり
1 心臓移植の適応と移植待機登録の流れ
心臓移植の適応(適応条件・除外条件)/ 心臓移植適応検討申請から移植希望登録までの流れ
2 待機期間中のマネジメント:内科的治療
自己心機能の保持・改善/ 心臓以外の臓器保護(特に腎臓)/ ワクチン接種/ 不要な輸血の回避/ 栄養状態の改善
3 待機期間中のマネジメント:外科的治療
VAD の種類/ VAD 装着のタイミング/ VAD 治療の合併症/ VAD 装着患者の社会復帰
4 待機期間中のマネジメント:移植準備として特有な検査・手続 
免疫学的評価/ 臓器移植希望登録の更新手続き/ 日本循環器学会への報告/ ウイルス抗体のスクリーニングと予防接種/ 社会保障制度の利用
5 待機期間中のマネジメント:患者教育,メンタルサポート
患者・家族への支援体制/ 各過程における特徴と支援
3章 心臓移植手術と周術期管理
1 心臓移植手術とその後の流れ(ドナー発生から心臓移植後まで)
救急患者の重症終末期から臓器提供の承諾まで/ 法的脳死判定とメディカルコンサルタントの派遣/ドナーの検査,レシピエントの選定,移植施設への意思確認/ 摘出チームの集合,3次評価/ 摘出手術の手順/ 臓器の搬送/ 心臓移植手術中および移植後の経過報告/ドナー家族への支援および臓器提供を決断した家族の心情
2 心臓移植手術の概要
レシピエント側の準備/ 心臓移植/ 周術期管理
3 primary graft dysfunction(PGD)のリスク・診断・治療
PGD の定義と分類/ PGD の発生率/ PGD の危険因子/ PGD の治療/ PGD の予防
4 ICU 退室後から退院までのマネジメント
心機能・血行動態の評価と拒絶反応のモニタリング/ 免疫抑制療法の導入と感染症・合併症の管理/ 退院に向けてのリハビリテーションと患者教育
4章 心臓移植後フォローアップの概要
1 外来診察スケジュール
退院後の入院,外来診察スケジュール/ 外来診察の目的
2 検査入院スケジュール
検査のスケジュール/ 入院中に行う検査
3 移植後の社会保障制度
身体障害者手帳/ 指定難病/ 小児慢性特定疾病医療費助成制度/ 重度心身障害者医療費助成制度/ 障害年金/ 自立支援医療制度/ 公的医療保険/ 障害者総合支援法/ 就労/ その他制度
4 移行期医療
心臓移植後の移行期医療に特有の障壁/ ガイドライン・コンセンサスステートメントに基づく心臓移植後移行期医療の実際/ 日本の小児心臓移植を取り巻く特殊性/ APCCD 患者と保護者への移行期における向き合い方/ 日本での移行期医療の普及に向けて
PartII  心臓移植後患者の病態生理
5章 生理学的変化
1 除神経と神経再分布
移植心と除神経/ 移植心の安静時心機能と運動時心機能/ 除神経と突然死/ 移植心への神経再分布
2 免疫抑制状態
移植免疫の基礎知識/ 拒絶反応を回避するために/ 免疫抑制薬総論/ 免疫抑制状態のモニタリング/ 免疫抑制療法により生じるリスク/ 免疫抑制状態に影響を与えるリスク
3 易感染性
免疫システムと易感染性/ 免疫不全の分類/ 感染症が心臓移植の予後に与える影響/ 易感染性に関わる移植関連因子/ 感染症の発症時期と易感染性/ 易感染性とワクチンで予防できる疾患(VPD)/ 心臓移植後の易感染性に関する感染予防の注意点
4 動脈硬化とは異なる機序による冠動脈内膜肥厚
疫学的因子/ 拒絶反応/ T 細胞性刺激/ 血管内皮機能の異常/ 脂質異常症/ CMV 感染症/耐糖能障害
6章 精神的変化
1 心臓移植後患者が体験する心理社会的変化
退院準備期/ 社会復帰期
2 心臓移植後の精神医学的問題とそのリスク要因
認知機能の障害/ うつ病/ 不安/ 若年層における心理社会的なトラブルの早期発見/ 精神医療専門家との連携
PartIII 移植後医療の実際
7章 心臓移植後の薬物治療
1 導入療法
各薬剤の特徴と使用方法/ 導入療法に関するエビデンス
2 維持免疫抑制療法
心臓移植後の免疫抑制療法の大原則/ 拒絶反応の機序と免疫抑制薬の概要/ 各免疫抑制薬の使用法/ 内服が不可能な場合の免疫抑制薬の投与法/ ジェネリック医薬品の使用
3 感染症予防・治療薬
薬物相互作用の種類/ 薬物相互作用への対応/ よく使用する感染症治療・予防薬/ 退院時の感染症予防薬の例
4 骨粗鬆症予防薬
心臓移植後の骨粗鬆症の疫学/ 骨代謝に影響を及ぼす因子/ 骨粗鬆症の薬物治療/ 当院での処方の実際
5 心臓移植後患者が要するその他の薬剤
慢性腎臓病(CKD)の管理/ CKD,CAV の増悪因子の管理
6 事象発生時の免疫抑制療法の調整(悪性腫瘍,腎機能障害,妊娠出産時)
悪性腫瘍発生時/ 腎機能障害発症時/ 妊娠,出産時
7 小児患者における免疫抑制薬の調整
小児の心臓移植に特有の注意事項/ 免疫抑制療法の調整
8 拒絶反応発生時の薬物治療
ACR 発生時の対応/ AMR 発生時の対応/ 超急性拒絶反応について/ 慢性期に発生する拒絶反応
9 不整脈発生時の治療
頻脈性不整脈/ 徐脈性不整脈(洞機能不全症候群・房室ブロック)/ 一般病院,心臓移植施設での対応
10免疫抑制薬自己管理における患者教育と家庭医への情報提供ポイント
心臓移植後の免疫抑制薬/ 免疫抑制薬の内服時間/ シックデイ時の対処/ 血中濃度測定/ 薬物相互作用/ ジェネリック医薬品の使用
8章 拒絶反応のモニタリング
1 拒絶反応と長期予後
拒絶反応と予後
2 細胞性・抗体関連型拒絶の概要と心筋生検
拒絶反応の分類/ 心内膜心筋生検(EMB)による拒絶反応の診断/ ACR とその組織診断/AMRとその組織診断/ 慢性拒絶反応(CAV)/ 拒絶反応と鑑別すべき紛らわしい所見
3 非侵襲的な拒絶反応モニタリング(画像診断)
非侵襲的検査の位置づけ/ 心臓超音波(心エコー)検査/ 心臓MRI 検査/ その他の画像診断モダリティ
4 非侵襲的な拒絶反応モニタリング(末梢血バイオマーカーと諸外国の現状)
末梢血バイオマーカーや免疫学的アッセイよる拒絶反応のモニタリング/ 末梢血バイオマーカー/ GEP / DD cfDNA / T 細胞機能/ドナー特異的抗体(DSA)/ その他のバイオマーカー,リキッドバイオプシー
9章 移植心冠動脈病変(CAV)のモニタリング
1 移植心冠動脈病変(CAV)の概要
CAV とは/ CAV の症状/ CAV の検査/ IVUS,OCT / その他の検査/ CAV の予防/ CAV の治療
2 侵襲的な移植心冠動脈病変(CAV)のモニタリング(冠動脈造影検査)
冠動脈造影検査(CAG)/ 血管内超音波検査(IVUS)/ 冠血流予備能(CFR)/ 光干渉断層計検査(OCT)/ 非侵襲的検査の有用性/ ¬¬¬ 年ISHLT ガイドラインの変更点
3 非侵襲的な移植心冠動脈病変(CAV)のモニタリング(画像診断)
心エコー検査/ 心臓CT,冠動脈CT / 心臓MRI(CMR)検査/ 核医学検査/ SPECT 検査/ 心臓PET 検査/ その他バイオマーカー
4 移植心冠動脈病変(CAV)と長期予後
心臓移植の予後と移植心冠動脈病変(CAV)/ 突然死リスク/ 心臓再移植リスク/ 小児における予後への影響
¬ 10章 感染症の予防と治療
1 心臓移植後の時間経過と感染症
3つの期間(初期,中期,晩期)
2 心臓移植前の感染症リスク評価と感染症予防
心臓移植前のスクリーニング/ 感染症の予防
3 移植前後のワクチン接種
移植前に標準的なワクチン接種を済ませる/ 臓器移植前の必須ワクチン/ 心臓移植の前後に推奨されるワクチン
4 ドナー持ち込み感染症
ドナー持ち込み感染症の分類/ドナー持ち込み感染症のリスク低減/ 臓器摘出時に感染症が明らかになっている場合/ レシピエントにドナー持ち込み感染症が疑われた場合の評価について/ドナー持ち込み感染症をきたす病原微生物
5 留意を要する細菌感染症
移植後初期感染症(移植から移植後1か月まで)/ 移植後中期感染症(移植後1~6か月まで)/移植後晩期感染症(移植後6~12か月以降)
6 留意を要する真菌感染症
ニューモシスチス肺炎/ アスペルギルス症/ カンジダ症
7 留意を要するウイルス感染症
サイトメガロウイルス(CMV)/ その他のヘルペスウイルス/ 呼吸器ウイルス/ 肝炎ウイルス/ヒトT 細胞白血病ウイルス1型(HTLV‒●)
8 留意を要する寄生虫感染症
トキソプラズマ症/ 糞線虫症/ Chagas 病
¬¬ 11章 移植後患者の社会生活
1 除神経心の心拍応答から見たリハビリテーション・運動・競技スポーツ・性生活
心臓移植後のリハビリテーション/ 移植後患者の運動・競技スポーツ/ 移植後患者の性生活
2 心臓移植後の感染予防
日常生活での注意事項/ 飲料水や,河川,湖や海に関連する活動に関連する感染予防/ 水道水と感染リスク/ 食べ物に関連する感染予防/ 性交渉に関連する感染予防/ 職業に関連する感染予防/ 趣味に関連する感染予防/ 移植後患者と接触する人々(医療者,家族など)と感染予防

2001 年,私は大阪大学医学部附属病院 循環器内科から,国立循環器センター(現在は国立循環器病研究センター)に心臓血管内科部門の部門長として赴任した。当時,心不全・虚血性心疾患を専門としていた私は,部門内の心不全科部長のみならず当然のように心臓移植部の部長も併任がかかり,心臓外科出身の中谷 武嗣心臓移植部長のカウンターパートとして心臓移植医療の内科医として携わることとなった。その守備範囲は,心不全の診断と治療や心不全患者さんの食事・運動などの生活指導と,とてつもなく広かった。なかんずくその一番の役割は,「心臓移植検討会」での重症心不全患者さんの心臓移植適応を決める会議の座長であった。心臓移植適応の判断は,各々の患者さんが心臓移植という最終的な治療の適応になるかということについて,心不全の病態自体の医学的観点のみならず,患者さんのパーソナリティ・精神的観点,移植医療をとりまく社会的観点から評価するものである。この検討会において重症心不全で苦しむ患者さんが心臓移植の適応になるか否かを決めるため,その役割の重要性ゆえ大きな責務をもって移植前医療にあたっていた。心臓移植のドナーが出たときには,その患者さんに本当に適応があるかどうか最終的な判断するため真夜中でも病院に駆けつけたのも思い出として残っている。
 そこまでの心臓移植前患者さんへの対応プロセスは私の記憶に今も鮮明に残っているのだが,卓越された心臓外科医により心臓移植を施術された患者さんのその後のケアについては,断片的な記憶しかない。それは心臓移植部で移植後医療を担当する若手内科医師団を中心として,心臓移植コーディネーターのもと,移植後患者さんの精神状態を見守る臨床心理士,免疫抑制薬調整を行う薬剤師,食事指導をする栄養士,移植された心臓を見守る心臓リハビリテーション療養士などの卓越した連携のもとに織りなされた寡黙なオーケストレーションが粛々となされていたからである。その極めて幅の広い多職種による熱心な努力のおかげで,心臓移植後の死亡,再移植,悪性腫瘍の発症率の低さなどどの尺度で見ても我が国の心臓移植医療は世界一となっている。その細かなノウハウが本書に詳細に示されている。本書は,日本の心臓移植後医療を牽引してきた一流の医療人の知恵と知識とその実践をまとめたものであり,国内はもとより海外でも類を見ない。
 心臓移植後10 年生存率は90%,15 年生存率は80%であり,国内心臓移植は群を抜いてそのレベルが高い。そのために,国内で心臓移植後のご存命な方は増加しており,一般病院や医院で循環器内科を標榜していなくても,心臓移植をされた方を診察する可能性はゼロではない。ぜひ,本書をご一読いただき,皆さん方の目の前に心臓移植を受けられた方が受診されたときにどうすればよいのか知っておくことはよいことだと思う。また,本書は,単に心臓移植後医療のノウハウのみならず,如何なる努力のもとに世界一の心臓移植後医療を立ち上げてきたかという医学・医療の一分野の成立の歴史を読み取るものである。さらに,本書は一般的な中等症・重症心不全患者さんの診療にも役立つ点が多々あるため,ご自分の診療されている心不全患者さんに当てはめながらお読みいただければ幸いである。

阪和病院・阪和記念病院 統括院長・総長
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授
大阪公立大学大学院医学研究科 特任教授
北風政史

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