“木原ライブラリー”のフラッグシップタイトル、10年ぶりの大改訂
研究の第一歩はここから!
「料理の本のようにわかりやすい教科書」
シリーズ旗艦タイトルにして世界中で広く読み継がれているロングセラー、10年ぶりの改訂。臨床/疫学研究の基本から紐解き、効率的かつ効果的な質の高い研究をデザインし実施する方法・ノウハウを明快に解説。ミクストメソッズ(mixed methods)研究の広がりに呼応すべく質的研究方法が独立して章立てされるなど、内容は大幅に更新。今版でも翻訳調を避け日本語表現は徹底して推敲され読みやすい。医学のみならず広く保健医療分野で研究に携わる際必読の教科書でありすぐれた実践ガイド。
第Ⅰ部 基本的要素
1 さあ,始めよう:医学的研究の「解剖学」と「生理学」
研究の解剖学(構造):研究を構成する要素
研究の生理学(機能):研究のダイナミズム
トランスレーショナルリサーチ
研究計画を作成する
まとめ
付録 研究のアウトライン
第1章の演習問題
2 リサーチクエスチョンを考え,研究計画を作る
リサーチクエスチョンの源泉
優れたリサーチクエスチョンの条件
研究計画の作成
メンターの選択
まとめ
第2章 演習問題
3 研究参加者を選ぶ:参加者の定義,サンプリング,リクルート法
基本的な用語と概念
選択基準
サンプリング
研究参加者のリクルート
まとめ
第3章 演習問題
4 測定方法を計画する:定度,真度,妥当性
変数のタイプ
定度
真度
妥当性
測定方法が備えるべきその他の条件
保存検体・データの利用
まとめ
付録 実施マニュアル:握力測定の実施方法
第4章 演習問題
5 サンプルサイズを見積もるための準備:仮説と基本事項
仮説
仮説検定の統計学的基礎
その他の事項
まとめ
第5章 演習問題
6 サンプルサイズの推定:その応用と実例
分析的研究と実験的研究におけるサンプルサイズの決め方
サンプルサイズの計算に関わるその他の事項
記述的研究におけるサンプルサイズの決め方
サンプルサイズが固定されている場合の対応策
サンプルサイズを最小,パワーを最大にする方法
十分な情報がないときのサンプルサイズの見積もり方
よくある間違い
まとめ
付録6A 等サイズの2群間で,連続変数の平均値の比較にt検定を用いる場合の1 群あたりのサンプルサイズ
付録6B 等サイズの2 群間で,2区分変数の割合の比較にカイ2 乗検定あるいはZ検
定を用いる場合に必要な各群のサンプルサイズ 1
付録6C 相関関係(r)を分析に用いる場合に必要なサンプルサイズ
付録6D 連続変数を用いて記述的研究を行う場合のサンプルサイズ
付録6E 2区分変数を用いて記述的研究を行う場合のサンプルサイズ
付録6F t検定の使用と誤用
第6章 演習問題
7 倫理の問題
規則と臨床研究の歴史
倫理の原則
ヒトを対象とした研究のための連邦政府のガイドライン
研究者の責任
ある種の研究に特有の倫理問題
その他の問題
まとめ
第7章 演習問題
第Ⅱ部 研究デザイン
8 横断研究とコホート研究をデザインする
横断研究
コホート研究
まとめ
第8章 演習問題
9 ケースコントロール研究をデザインする
ケースコントロール研究の基礎
ネステッド・ケースコントロール研究,発生密度ネステッド・ケースコントロール研究とケースコホート研究
ケースクロスオーバー研究
まとめ
付録9A ケースコントロール研究におけるオッズ比の計算
付録9B オッズ比がなぜ累積発生率比(リスク比)の近似値として使えるのか?
付録9C 観察研究のタイプとその利点と欠点
第9 章 演習問題
10 観察研究を用いて,因果関係を推論する
因果関係を理解するための反事実モデル
観察研究における“関連”はなぜ“因果関係”とは異なる可能性があるのか?
偶然による誤差を減らす
バイアスによる誤差を減らす
“効果—原因”関係
交絡
交絡への対処法―研究企画段階
交絡への対処法―データ分析段階
因果関係の推論におけるその他の注意点
戦略の選択
因果関係を支持するエビデンス
まとめ
付録10A 有向非巡回グラフ(DAG)を用いた因子間の関連の表現
付録10B 仮想データを用いた交絡と効果修飾の例
付録10C 単純な統計学的調整の例
第10 章 演習問題
11 盲検的ランダム化比較試験をデザインする
介入とコントロールを選択する
アウトカムの測定方法を選択する
研究参加者の選択
ベースライン時点での測定
ランダム割り付けと盲検化
パイロット研究
臨床医療に埋め込まれた臨床試験
新しい治療に対する認可を得るための臨床試験
臨床試験の実施
まとめ
付録11A パイロット研究
付録11B 早期中止に至った臨床試験の3つの事例
第11章 演習問題
12 その他の介入研究のデザイン
その他のランダム化比較デザイン
非ランダム化デザイン
まとめ
付録12A ベイズ流試験
第12章 演習問題
13 診断検査に関する研究をデザインする
診断検査の有用性を評価する
検査の再現性(定度)に関する研究
検査の正確性(真度)に関する研究
臨床予測モデルを作成するための研究
検査結果の臨床的判断における有用性に関する研究
診断検査の実施可能性,コスト,有害効果に関する研究
検査実施がアウトカムに及ぼす影響に関する研究
診断検査研究のデザインや分析における留意点
まとめ
付録13A 測定者間再現性の指標としてのカッパ係数の計算
付録13B 部分的確証バイアスの仮想例
付録13C ダブルゴールドスタンダードバイアス(選別的確証バイアス)の仮想例
第13章 演習問題
14 医学的研究における質的アプローチ
質的研究とは何か:3 つの事例
質的研究の方法(論)
研究プロセスの管理と研究結果の発表
質的研究をどういう場合に用いるか
まとめ
第14章 演習問題
第Ⅲ部 研究の実施
15 コミュニティ関与型研究
なぜコミュニティ関与型研究が必要か?
コミュニティ関与型研究で用いられる方法と実施プロセス
コミュニティ関与型研究を成功に導くために
まとめ
第15章 演習問題
16 既存のデータや検体を用いた研究
既存のデータソース
既存データの創造的な使用
まとめ
第16 章 演習問題
17 自己報告測定のデザイン,選択,実施
よく用いられる自己報告測定のタイプ
自己報告測定における質問のタイプ
新しい自己測定測定法の作成vs. 既存の測定法の利用
既存の自己報告測定法の選択,修正のステップ
自己報告測定法の適切性を多様な集団で評価する
測定の実施
先端技術を利用する
まとめ
第17 章 演習問題
18 研究の実施と質管理
研究の開始
研究プロトコールの完成
研究中の質管理
まとめ
付録18A 実施マニュアルの目次の例
第18 章 演習問題
19 データ管理
データテーブル
データ入力
クエリによるデータの編集・抽出
データの分析
データの守秘性と保護
まとめ
第19 章 演習問題
20 助成金申請書の作成と研究助成
申請書を書く
申請書の項目
優れた申請書の特徴
助成金の申請先を探す
まとめ
第20 章 演習問題
章末の演習問題の解答
用語集
世界最高の医学的研究の教科書―本書は,1988年の初版以来,画期的な医学的研究の教科書として一躍注目を集め,現在までに6か国語に翻訳されて,世界中で広く読み継がれています。極めて簡便で実用的なサンプルサイズ計算法と,「構造と機能」 の観点および豊富で適確な図表と具体事例による,研究や研究デザインについての明解で体系的な解説が,初版以来一貫した本書の特徴ですが,その後も,「料理の本のようにわかりやすい教科書」 をモットーに,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の疫学・生物統計学分野のプロジェクトとして,最新の内容と事例を取り込んだ改訂が続けられてきました。私たちは初版以来その翻訳に携わってきましたが,その内容の推移(別表)は,そのまま,この分野における1980年代から現在
に至る方法論の進歩を示すものとなっています。
この第5版は,10年ぶりの改訂であり,内容,分量の面から,これまでで最も大幅な改訂となっています。第5 版で新たに登場,もしくは説明が強化されたトピックには,研究デザイン面では,ターゲットトライアル,ベイズ流試験,プラットフォーム試験,ステップトウェッジデザイン,分割時系列デザイン,差分の差分法,K分割交差検証,機械学習/AI,因果推論面では,有向非巡回グラフ(DAG),共通効果への限定(コライダー層化バイアス),反事実概念などがあります。これらを初版からの流れに照らせば,今回の改訂によって,研究デザイン面でのプラグマティックな拡張と,因果推論面での理論的深化が達成され,これによって,本書は,研究の「構造と機能」について,現時点までの学問的到達点をほぼ網羅した教科書となったと思われます。一方,個別的に見れば,「共通効果への限定」は臨床研究が特に注意すべきピットフォールとして,DAG を使って懇切丁寧に説明されており(第10章),ターゲットトライアルの概念についても,無イベント生存期間バイアスによって 「ホルモン補充療法を受けている女性では,心疾患リスクが低い」という誤った結論に陥った有名な疫学研究の事例などを引きながら,その重要性が繰り返し強調されています(第8章,第10章,第13章,第16章)。また,オポチュニスティック研究(臨機的研究)の1 つとして今回新たに取り入れられた分割時系列デザインも,今後注目すべきデザインとして,複数の章(第10章~第12章)にまたがって解説され,また,DAG やベイズ流試験については,それぞれ新たに付録頁を設けて詳しく解説されており,これらが今回の改訂で特に重視されたものであることが伺われます。この他,扱いは小さいものの,電子カルテ組み込み型ランダム化比較試験という,「学習する医療システムlearning
health care system」に連なるデザイン[1]や,近年の臨床予測モデル(ルール)の粗製乱造に対して生まれたプログラム医療機器(SaMD)という概念(別表参照)も,この分野の最新の現状を伝えるものとなっています。
しかし,今回の改訂で,私たちが最も驚いたのは,質的研究方法が独立して章立てされたことでした(第14章)。質的研究方法については,第4版までは,質問票開発のセクションでフォーカスグループインタビューのごく簡単な説明がある程度でしたが,今回は独立の章として,その全体像の概要が紹介されています。これは,本書でも指摘されているように,近年におけるミクストメソッズ(mixed methods)研究[2]の広がりに呼応したものであり,私たちが公衆衛生学的研究に質的方法を本格的に取り入れて約30年になりますが,量的方法と質的方法を組み合わせる実証のスタイルが,漸く医学的研究の確固とした流れとして定着してきたことを象徴しています。ただ,第14章は,優れた記述ではあるものの,質的方法に初めて触れる人にとっては,必要な情報が不足していたり,一般の教科書には見られない概念が導入されていたため,入門書としての観点から,質的方法の教科書[3]を基に記述を補ったり,原文の趣旨を損なわない範囲の修正を加えています。また,コミュニティ研究については,第2版以来短く触れられてきましたが,この第5版では 「コミュニティ関与型研究」 として章立てされて,大幅に記述が拡張されています。その背景には,患者中心アウトカム研究を含め,コミュニティ関与型研究に対する米国の連邦政府の資金援助が大幅に増加していることがあり,アカデミアに偏ってきた研究の軸足がコミュニティの側にシフトしつつあることを示しています。そして,その動向は最近のミクストメソッド研究の広がりとも相互関連しており,それについては私たちが最近出版したミクストメソッズの教科書[2]に詳しく紹介されているのでぜひご参照いただきたいと思います。
翻訳にあたっては,自明性と体系性を持った訳語を用いるという初版当初からの方針を貫いており,それについては,監訳者付録をご参照ください。また,本書の翻訳は,私たちの以前の研究室の元学生による翻訳チームを組織して行い,まずチームメンバーが正確に訳し,それを監訳者が全体として用語と表現を統一するという順序で行いました。分かりにくい部分は,監訳者(脚)注で説明を補い,引用内容が曖昧なところは,すべて引用文献に直接当たって意味を確認し,内容を補っています。また,「翻訳調」 を避けるために,日本語表現は徹底して推敲しました。こうした私たちの努力によって,「料理の本のようにわかりやすい教科書」 にするという著者たちの思いを日本語版でも実現することができていれば幸いです。
最後に,本書の初版を私たちに紹介して,この木原ライブラリーのきっかけを与えてくれ,その後も,度々京都を訪れては,学生たちの研究指導に当たってくれた,30 年来の親友Michell Feldman 博士(カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部総合内科学教授)に改めて心から御礼申し上げたいと思います。
令和6 年9 月1 日
元東伏見宮家別邸吉田山荘の
レトロ情緒溢れるカフェ真古館から比叡山を眺めながら
木原雅子
木原正博