Dr. Bonoのゲノム解読 - NGSによるシークエンシングとデータ解析の今 -

  • 未刊

ゲノム解読の「過去・現在・未来」がわかる!



最新のゲノム解読の手順をまとめ、全体像と解析内容をわかりやすく解説。ゲノム解析に必要な「分子生物学の基礎知識」、かつて行われていたゲノム解読法や国際塩基配列データベースの成り立ちについて解説した「これまでのゲノム解読」、実際に行われるゲノム解読の流れに沿って解説する、本書の中心となる章「2020年代のゲノム解析」、新たな次世代シークエンサーとゲノム解析の応用の展望を述べた「これからのゲノム解析」の4章構成。

¥3,520 税込
坊農 秀雅 広島大学大学院統合生命科学研究科教授
ISBN
978-4-8157-3120-5
判型/ページ数/図・写真
B5変 頁152 図80 2色刷
刊行年月
2024年11月
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序文
本書の使い方

第0章 はじめに―なぜゲノムを解読するのか?
 0.1 生物は細胞でできている
 0.2 分子生物学の基礎知識
   DNA(デオキシリボ核酸)
   セントラルドグマ
   遺伝子工学のツール:酵素
   逆転写酵素
   制限酵素
   ヌクレアーゼ
 0.3 なぜゲノムを解読するのか?

第1章 これまでのゲノム解析
 1.1 DNA塩基配列解読法の発明
 1.2 国際塩基配列データベース共同研究
 1.3 ヒトゲノム計画開始
 1.4 モデル生物種のゲノム解読
 1.5 トランスクリプトーム解析
   expressed sequence tag(EST)
   発現マイクロアレイ
   RNA sequencing(RNA-Seq)
   リファレンスありの場合のデータ解析
   リファレンスなしのデータ解析
   RNA-Seq vs. マイクロアレイ
 1.6 DNA配列解読技術の進展
   パイロシークエンス
   sequence by hybridization(SBH)
   半導体チップによるプロトン測定法
   総括

第2章 2020年代のゲノム解析
 2.1 ゲノム配列の公共データベース
   学名で検索しよう
   近縁種を調べよう
   ゲノム配列の公共データベース
     NCBI Datasets
   whole genome shotgun(WGS)
   モデル生物種のゲノムデータベース
   UCSC Genome Browser
   Ensembl Genome Growser
   ゲノムアノテーションデータの統合化
 2.2 ゲノム解読のためのサンプリング
   基本的な実験器具
   DNAの量と質
   どこからとってくるか
   倍数体の問題
   実験自動化
 2.3 ゲノム配列解読の実際
   ショートリードシークエンサー
   Quality score
   FASTQ形式の詳細な説明
   ロングリードシークエンサー
   PacBioシークエンス
   ナノポアシークエンス
 2.4 ゲノムアセンブル
   ゲノムのカバレッジ
   ゲノムアセンブラ
   染色体上の近接の情報(Hi-C)
   スカフォールド(Scaffold)
   T2Tゲノム
 2.5 データの注釈づけ(アノテーション)
   ゲノムアノテーション
   遺伝子コード領域のアノテーション
   転写開始点のアノテーション
   染色体上の近接の情報(Hi-C)のアノテーション
   ChIP-seqとATAC-seqによるアノテーション
   ゲノムアノテーションの可視化
   機能アノテーション
   オーソログ割り当て
   Gene Ontology(GO)
   Fanflow
 2.6 データの解釈とその利用
   比較ゲノム解析
   エンリッチメント解析
   ゲノム編集
   ゲノム編集とは
   これまでのゲノム編集生物の実例
   ゲノム編集ターゲットデザイン
   大規模なゲノム解析結果の利用
   公共トランスクリプトームデータの利用
   文献データの利用
   経路データの利用

第3章 これからのゲノム解析
 3.1 新たな次世代シークエンサー
   AVITI
   ONSO
   Platinum
 3.2 新たな応用
   ヒト個人ゲノム
   シングルセル解析
   空間トランスクリプトーム解析
   パンゲノム解析
   エピゲノム解析
 3.3 新たな問題
   ゲノム編集技術の利用
   個人ゲノム情報の取り扱い
   海外の遺伝資源の利用

著者紹介
索引


コラム
 ウイルスとそのゲノム
 1990年代のゲノム配列解読の実際
 transcriptome shotgun assembly(TSA)
 大規模データ解析に必要なこと
 配列相同性と配列類似性
 AlphaFold

遺伝情報はDNAが担っている。

2020年代の今,それは誰でも知っている事実となっている。DNA鑑定という言葉も社会に広く普及している。しかし,そのDNA配列の総体であり,生命の設計図といわれている「ゲノム」というと,果たしてどうだろうか?2003年にヒトゲノムが解読されたとはいえ,その後20年以上経つ2020年代になっても解決していないことは多数ある。例えば,ヒトゲノムの大部分が解読されたことで,生命現象の解析や遺伝子がからむ疾患の仕組みの解明が可能となり,新たな医薬品開発の道が開かれたことによるゲノム創薬ブームにもかかわらず,まだ遺伝性の病気のすべてを治すには至っていない。それどころか,ヒトゲノムにある遺伝子が全部でいくつあるかもいまだにわかっていないのが現状である。

DNA配列の並びを決定するDNA配列解読技術は,2003年のヒトゲノム解読後も技術開発が進められた。その結果2024年現在,日本においても個人のヒトゲノム解読サービスが10万円以下で提供されている。つまり2020年代の今,約30億塩基ものDNAの並びをもつヒトのゲノム配列解読が可能となっているということであり,またすべての生物のゲノム配列が解読できるようになっていることを意味する。実際,2020年に立ち上がった著者の研究室では,データ駆動型ゲノム育種(デジタル育種)の技術開発の一環として,アカシソやアオノリ,カイコ,ミツバチなど,産業上有用な生物のゲノム配列を解読してきた[注:「DNA配列」は塩基(A,T,G,C)の並び順のことを,「ゲノム配列」はある生物がもつDNAの全情報,つまりその生物の全塩基配列のことを指す]。

しかし,ゲノムはどうやったら解読できるのかという知識は,ほとんどまったくといっていいほど広まっていない。さらに,その解読したゲノム配列を使ったゲノム解析がどうなされていくのかも知られていない[注:ゲノム解析は狭義にはゲノム配列解読だけのことを指すが,本書ではゲノム配列を使ったデータ解析すべてをさしてゲノム解析と呼ぶ]。最新の生物学の教科書であってもヒトゲノム解読がどのようにして行われたかという古典的なゲノム解析は解説されていても,2020年代に行われているゲノム解析は載っていない。ちょうど2020年からのコロナ禍のために人的交流が希薄となったため,専門家であるはずの生物学研究者でも最新技術の情報アップデートが滞っているのだから無理もなかろう。

そこで本書では,著者の研究室で行っているゲノム解読をはじめとするゲノム解析について,2020年代の現在用いられているゲノム解読手法とそのデータ解析,ひいてはその応用を中心に,日本語で平易に解説することを試みた。そこに至るまでのゲノム解析の歴史や変遷を「これまでのゲノム解析」として第1章に,また「これからのゲノム解析」として今後利用が期待される技術や問題点を第3章にまとめた。さらに,広く多くの人に読んでもらえるように,第0章に分子生物学の基礎的な知識を解説した。すでに専門的な知識をもつ読者はここを飛ばして読み進んでいただきたい。

なお解読したゲノム配列によるデータ解析に関しては,その解析プログラムの流行り廃りが著しく,また開発途上のものがほとんどであるため,具体的な解析プロトコルに関しては割愛した。データ解析プロトコルを成書に掲載することの限界を感じており,掲載した矢先から動作しなくなったり,すでに古くなっているということもある。個別の技術に関する有用な情報はすぐに古くなってしまうのがこの種の情報の常である。最新情報はインターネット上に誰でも見られるところに置かれているので,それらの情報は適宜補完していただければと思う。まずは本書で紹介する,ゲノム解読に関する2020年代の最新の知識を広く多くの方に知っていただければ幸いである。

2024年10月 坊農秀雅

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