学生のうちから『ハリソン』で根幹の理解をすることが大切
--小林さんはこの中でお一人だけ卒業して臨床現場にいらっしゃいますが,研修医になられてから『ハリソン』が一つの武器になったかどうか,そういう体験談みたいなものを少しお話いただけますか?
小林読んでいる人と読んでいない人とでは応用力が違うと思うんです。国家試験の勉強だと1 対1 で,対策本には大体この病気にはこの症状が出ると,簡単な説明が書いてありますが,そこからはずれたものに実際の臨床では出くわすことがあります。たとえば最近あったのですが,担当した患者さんが、下痢気味だったんです。たぶん他の参考書には心不全に下痢とは書いてないんです。でも臨床に出たら,それは普通にあることで,心不全とは一体何なのだろうと考えていくと,まず心不全があって,腸管が働かなくなって,浮腫になって,水が吸収できない。だから下痢になる。下痢になるというのは心不全のときにあり得る。そういう考え方は病態を理解していないとできない。実際に心臓をしっかり働かせたら,すぐ下痢がなくなったんです。それは単純に1 対1 で,心不全の徴候は,脈拍,頸動脈,頸静脈の...,と覚えただけでは出てこなくて,心不全とは何なのかを理解するのが重要だと。『ハリソン』にはそうした病態が解説されています。
研修医になったら,まずどうすればうまく採血できるのか,どうすればエコーで調べられるのか,そういうことに最初に目が行ってしまうのは仕方ないことだと思うんです。でも同時にずっと目先のことだけをやっていて自分がいざ研修医を下に持って,自分で方針を決める段階になったときに,採血をうまく行ったり,点滴をうまく入れることはできるけど,病気はよくわかっていない医師というのではちょっと困る。研修医の力は,余裕があるときになるべくしっかりしたものをつけるべきで,病態に対して単に書かれている治療方針を読んで覚えるだけではなしに,それを理解した上でその上を見ていく。教科書的な症状ばかりがあるわけではないし,教科書的なことだけやって治るわけでもないので。だから研修医になって,余裕があればなるべく『ハリソン』を読む方がいい。ただ,実際,みんながみんな読む余裕があるかというと,たぶん余裕がない病院が多いでしょう。仮に本当にひまな病院へ行ったら読む時間はたくさんあるかもしれないですけど,実際に患者さんを診ないで読んでいて,何か意味があるのかと言われると,それはあまり意味がない。なるべく患者さんを多く診ながら上手に勉強する。
吉田いま僕は4 年生ですけれども,今からすぐに『ハリソン』を読むのは...?
小林いいタイミングです。研修医になってから,じっくり腰を落ち着けて読むというのは現実的には難しくなることが多いし,根幹の理解という意味では学生のうちからですね。
吉田いま思うと,僕はもうSGL は半分以上終わってしまったんですけれども,5 年生から始まるSGL では『ハリソン』が使えると,先輩方の話を聞いていて思いました。
鈴木私も積極的に手にとってみたいと思うようになりました。レベルが高くて,まだ早いとずっと思っていたんですけれども,必ずしもすべてを通読しなければいけないわけではないとか,いろいろ使い方があるということがわかって,ちょっと肩の荷が下りました。学生のときにこそ,気になるところから『ハリソン』を読むべきだと。
吉田僕は大学のCBT の副委員長をやっているので,委員長と話して,ぜひ学生みんなでの購読を進めていきたいと思います。
鈴木手元に置いて使っていきたいです。
『ハリソン物語』について
--『ハリソン内科学』歴代編者の回想録である『ハリソン物語』はいかがでしたでしょうか?
藤川プロジェクトXみたいな内容で,作るのにこれだけの人がこんなにいろいろ話し合った本というのはどんなものなんだろうと思うようになります。
吉田編者や執筆者の情熱が伝わってきて,『ハリソン』を読みたくなりますね。
林90 ページのこの写真ですけど,海外では本当にこんな感じで使われているんですかね。(笑)